<書評>米国は尖閣領有権に対して何故中立の立場を貫くのか?―遠藤誉著『「中国外交戦略」の狙い』

八牧浩行    2013年8月9日(金) 5時10分

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したたかな中国の外交戦略を追求するとともに、尖閣諸島をめぐって係争する日本、中国の当事国だけでなく、米国が深く絡む複雑な歴史的経緯を鋭く分析している。

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沖縄県・尖閣諸島問題をめぐって日本と鋭く対立する中国だが、その外交戦略は意外に知られていない。本書はそのしたたかな戦略を追求するとともに、この無人島をめぐって係争する日本、中国の当事国だけでなく、米国が深く絡む複雑な歴史的経緯を鋭く分析している。これを読めば強硬姿勢の中国と、この問題で「中立」を貫き、日中両国に平和的解決を強く求める米国の考えがよく分かる。 

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今年6月の米中首脳会談でオバマ大統領は習近平国家主席に対し、「米国は尖閣諸島の領有権に対しては、どちらの側にも立たない」と明言。米国は「中立」を貫き、事実上の「係争棚上げ」を強く求めている。同盟国・米国のこの姿勢に日本人はいら立ちさえ覚える。米国は尖閣領有権に対して何故中立の立場を貫くのか?

1943年のルーズベルト大統領・蒋介石中華民国主席によるカイロ密談に端を発し、沖縄返還時の1971年のニクソン大統領、キッシンジャー、ピーターソン両補佐官による3者密談にそのヒントが隠されていた。

「一見、軍事的に激しく対立しているように見える米中関係も、実は水面下では常に手を握っている」というのが、著者の分析。1971年に米国のキッシンジャー大統領補佐官が周恩来首相と密談した際、「日本と日米安保条約を結んでいるのは、そうしなければ日本は(軍事的に)暴走するからだ。中国に対してではないので安心してほしい。日本に対する米中の立場は同じだ」と語った事実を紹介している。

著者は昨年9月、今年1月に出された米議会調査局(CRS)リポートに着目。この報告書には「米国が地域の武力闘争に巻き込まれる危険を孕んでいる。米国は尖閣諸島の領土主権に関して日中のどちらの側にも立たないということは、1996年から強調され、その根拠は沖縄返還協定締結時におけるニクソン政権の声明にある」「日米安保条約は尖閣諸島をカバーしているものの、中国と武力衝突が起きたときに米国が初動対応をしてすぐに日本側に立って戦うか否かと言うことは保障されていない」――など日本の国運を左右する重要な内容が記されている。米国は尖閣諸島を「ロック(岩)」と呼び、「こんな岩のために米国が中国と戦争を起こしてアジアにおける米国の利益を放棄するとでも思っているのか」と中国は高をくくっているという。

米国の動きを正確に読み解くことができない日本に対し、「大国の関係」と米中接近を図りながら日本をしたたかに凌駕しようとする中国の戦略が浮かび上がる。「CRSレポートを軽視し、中国の反日現象を中国共産党の力が落ちたための仮想敵国づくりとかガス抜きなどとまとめて日本国民を安心させるのはやめたほうがいい。気がつけば日本は孤立してしまう」との警告は説得力がある。

著者は米国スタンフォード大学フーバー研究所の付属図書館や台湾まで足を運び、「蒋介石日記」や「アメリカ公文書秘密資料」を解読。沖縄返還密談などの全貌に迫った。

このほか、本書では、「米中新時代」の行方、中国の尖閣領有に賭けた狙い、在米華人華僑のパワフルな実態、中国の知られざる意思決定の内部構造など興味深いテーマについても、具体的に分析されている。

中国で生まれ、中国社会科学院客員研究員なども務めた日本有数の中国研究者ならではの独自の分析と切り口で歴史の闇を発掘した好著と言えよう。(評・八牧浩行

<ワック刊933円=税抜き>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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