<コラム・巨竜を探る>「中国経済崩壊説」は杞憂か!?日米欧にはない特殊事情明らかに

八牧浩行    2013年8月14日(水) 6時30分

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「7月に中国バブル経済崩壊」「中国の経済危機は7月か8月に起きる」との警鐘を鳴らす記事が内外メディアに溢れ、市場も少なからず動揺したが、「杞憂だった」との見方が広がっている。日米欧にはない中国経済の特殊事情が浮かび上がる。写真は上海のリニア鉄道。

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「7月に中国バブル経済崩壊」「中国の経済危機は7月か8月に起きる」との警鐘を鳴らす記事が内外メディアに溢れ、市場も少なからず動揺したが、「杞憂だった」との見方が広がっている。日米欧にはない中国経済の特殊事情が浮かび上がる。

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中国の7月の工業生産は前年同月比9.7%増。6月に比べ0.8ポイント伸び、3カ月ぶりに上昇した。7月は輸出も5.1%増とプラスに転じ、在庫調整の進展と相まって、鋼材の生産量の伸びは2カ月ぶりに2けたとなった。

7月の鉄鉱石の輸入量をみても、前月比17%増の7314万トンと、過去最高を記録。鋼材価格も上昇に転じた。企業の生産活動だけをみれば、減速が続く景気に底入れの兆しが出始めた。

1〜7月の建設投資や設備投資を合わせた固定資産投資の伸びは前年同期比20.1%増。消費動向をみても、7月の小売売上高は前年同月比13.2%増と、2ケタの伸びを確保した。7月の新車販売台数も乗用車を中心に好調でほぼ10%増に達した。 

こうした堅調傾向を反映して、有力マクロ経済指標である7月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は前月比0.2ポイント上昇の50.3と、2カ月ぶりに改善した。項目別にみると、5項目のうち生産指数、新規受注指数など4 指数が前月から上昇した。

 

▽「成長なくして改革なし」路線に

背景にあるのは中国の景気対策への期待。中国政府は生産能力の過剰の解消など構造調整を急ぐ一方で、安定成長も重視。7月に老朽住宅の建て替えや、鉄道整備など地方のインフラ整備を進める方針を打ち出した。

中国の経済政策の軸が景気重視に戻りつつあることも、中国景気の下支えにつながっている。「成長率が7%を下回ることは許されない」。経済政策をリードする李克強首相は7月中旬、こう強調した。李首相はこの後、「鉄道は国家の重要なインフラである」とも語っている。

中国は「メード・イン・チャイナ」の豊富で安い労働力を武器に世界市場を席巻し、1993年〜2007年に年平均で2ケタの経済成長率を記録した。しかし賃金上昇に伴って輸出が減り、08年のリーマンショック後の大型公共投資で膨れ上がった不動産バブルの後遺症も深刻化している。中国経済が大きな転換点を迎えているのも事実だ。

李首相は3月の就任以来、経済の課題として「構造改革」を強調してきた。6月下旬に銀行間市場で資金ショートが起きそうになったときも、すぐには助け舟を出さず金利の急騰を放置した。「改革なくして成長なし」路線に舵を切ったかに見えたが、政府の今のスローガンは「穏やかな成長、構造調整、改革促進」。「成長維持」に力点が置かれるようになった。

中国経済最大の懸念材料は「影の銀行(シャドーバンキング)」に象徴される不透明な信用システム。その規模は円換算で300兆円と年間GDPの3割以上にも達するとの推定もある。中国政府は最優先課題と位置付け、シャドーバンキングの処理に不可欠な預金保険制度の整備に取り組み始めた。地方政府のプロジェクトなどへの過剰な融資で信用バブルを招いた背景には硬直化した金利規制があるとして預金金利の下限を撤廃。金融自由化への一歩を踏み出した。外国人投資枠上限を従来の800億ドルから1500億ドルに増やし、外資への門戸も広げた。

汚職の温床といわれた過剰接待などの公務員の浪費を抑えるための倹約令は、国内消費の足を引っ張っているが、汚職撲滅への決意は固いようだ。中小企業600万社への付加価値税の免除や、79年に導入されて経済にゆがみをもたらした一人っ子政策の見直しにも着手した。

▽「影の銀行」は超大型の『頼母子講』

「7月バブル崩壊説」が杞憂に終わった背景には、金融危機に見舞われた米国や日本と違う中国の特殊要因があるとみる向きも多い。最大手の中国工商銀行など国有商業銀行は2006年以来の上場で経営体力を備えており、「不良債権を独自に償却する余力が十分ある」という。シャドーバンキングが売っている「理財産品」(高利回り投資商品)も投資家に金利だけ支払えば不良債権化せず「自転車操業を続けることも可能」といわれる。

さらに、過剰不動産投資にしても、巨額現金を保有する富裕層や事業資金や内部留保を回している企業、地縁、血縁、同郷などの集団がメンバーから資金を集め投資する「講」のような投資組織が買い手で、借金による投資ではない。

シャドーバンキングは日米欧の金融システムから見れば危うく映るが、「地方政府が主宰する超大型の『頼母子講』と見ればさほど驚くことはない」(日本の大学名誉教授)というわけだ。さらに、3月末で過去最高の3兆4400億ドル(約340兆円)もの外貨準備を保有する中国では、「地方政府がデフォルトに陥っても、中央政府の鶴の一声で債務処理が可能」となる。IMF(国際通貨基金)によると、中国の公的債務のGDP比率は昨年末で22%にすぎない。日本の236%、米国の107%という財政状況に比べ、格段に健全だ。

ひとまず回復基調にある中国経済だが、なお不透明部分は多い。その行方は世界経済に大きな影響を与えるだけに、冷静かつ深い洞察力を駆使して注視する必要があろう。

<「コラム・巨竜を探る」(「巨象を探る」改題)その31>

<「コラム・巨竜を探る」はジャーナリスト八牧浩行(Record China社長・主筆)によるコラム記事。著書に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」(あさ出版)など。>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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