東アジア今日は何の日:9月25日~瀋陽防爆器械廠の資産が競売、新中国初の企業倒産(1986年)

如月隼人    2019年9月25日(水) 13時20分

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1986年9月25日、破産を宣告された瀋陽防爆器械廠(防爆機器工場)の資産競売会が実施された。同社破産は中華人民共和国として初の企業倒産とされる。写真は同社資産売却契約の締結式。

1986年9月25日、遼寧省瀋陽市当局に8月3日付で破産を宣告された瀋陽防爆器械廠(防爆機器工場)の資産競売会が実施された。同社の破産は中華人民共和国として初の企業倒産とされている。

中華人民共和国では1949年10月1日の成立以来、イデオロギーや政治闘争を極めて重視する国家運営が続いていた。特に1966年に始まった文化大革命期には、その傾向が強かった。しかし1976年に毛沢東が死去すると、「文革四人組」の逮捕などもあり状況が変化。文革期に追放されていた実力者のトウ小平も最終的に復権した。

中国共産党は1978年12月に開催した第11期中央委員会第3次全体会議で、作業の重点を経済建設に移行し、改革開放を実施することを決定した。改革開放の推進に当たっては国営企業(後に国有企業)の改革が重視された。国営企業では従業員への福利厚生の水準があまりにも高く、終身雇用制であることもあって、労働者の積極性が欠落しており、企業としての生産性も低いと考えられたからだ。

そのため、党や政府は国営企業への干渉を減らし、企業の裁量範囲を増やすと同時に、黒字も赤字も企業の自主責任とする政策が進められることになった。企業の資金調達も、それまで一般的だった政府(地方政府)からの財政投入ではなく、銀行融資に切り替えられることになった。

しかし、企業の生産効率を急速に引き上げることは困難で、全国の国営企業が出す利益は約2年間に渡り低下し続けた。社会主義の考えに基づく労働者保護も、まだ手厚かった。経営が危機的状況にある企業が規模縮小あるいは操業停止する場合にも、収益性が比較的良好な別の国営企業に従業員を配置換えするなどした。そのため従業員も危機感をあまり持たず、生産性は低いままだったという。

1983年4月から85年4月まで瀋陽市長を務めた李長春(後に共産党中央政治局常務委員)は、人々の意識を覚醒するために、同市内で「中華人民共和国初の企業倒産を実現」することを決意したという。

瀋陽防爆器械廠は1966年に、瀋陽変圧器廠(変圧器工場)が設立した企業だった。1978年には市政府が接収し、瀋陽市拖拉機制造総廠(トラクター製造総工場)傘下の市営企業となった。その後、1983年に瀋陽防爆器械廠に改められた。

1984年からは市政府側の主管部門が何度も変わった。1985年には防爆器械廠を7部門に分けて、それぞれ別の企業が管理することになった。防爆器械廠の責任者も1980年から83年までに10回以上も交代するなど、同工場の状態は混乱の極みだったという。84年末までに、防爆器械廠の債務は48万元に膨らんでいた。

当時の「48万元」の価値を理解するのは困難だが、一般的な労働者の月額給与が100元程度だったことを考えれば、4800カ月分の給与に相当することになる。現在の日本の労働者の月給を30万円台とすれば、感覚的には15億円あるいはそれ以上に相当する負債だったと理解することもできる。

瀋陽市工商行政管理局は1985年8月3日付で、防爆器械廠を含む市内3社に「破産警戒警告」を出した。同警告は、1年以内に黒字転換しないと強制破産させるという厳しい内容だった。

しかし、防爆器械廠は旧式の技術しか持ち合わせておらず、生産効率は低いままだった。また債務を抱えていたため、経営状況の改善は至難だった。「破砕警戒警告」を受けたことで信用を失ったことも逆風になったという。市工商行政管理局は1年後の85年8月3日付で、防爆器械廠の破産を宣言した。

9月25日に実施された工場資産の競売では、瀋陽市煤気供応公司(瀋陽ガス)が資産全体を20万元で落札した。20万元は債権者に債権額に案分して支払われた。

【1986年のその他の出来事】

・スペースシャトル「チャレンジャー」が爆発、搭乗員7人全員死亡(1月)

・フィリピンのマルコス大統領が国外脱出、コラソン・アキノ大統領が就任(2月)

・チェルノブイリ原子力発電所で爆発事故(4月)

・土井たか子が日本社会党委員長に就任、日本の主要政党として初の女性党首(9月)

・台湾で民主進歩党が正式結成(9月)

・ソ連のK-219原潜がバミューダ沖で沈没(10月)

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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