<コラム>引退を表明したジャック・マーが熱唱した歌は?

岩田宇伯    2019年9月17日(火) 23時40分

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アリババグループのジャック・マー会長が先日の年会で正式に引退を表明。恒例のコスプレも披露、アリーナの特設ステージで熱唱するというニュースも流れた。

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●2019アリババグループ年会

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以前から引退をほのめかしていたアリババグループ総帥ジャック・マー会長、先日のアリババグループ年会で正式に引退表明。その示唆に満ちたスピーチ内容も世界中に届けられ、多くの人が勇気づけられたと思う。また、アリババ社員に贈られた記念のワインボトルにハイテクなARメッセージを添えたことも話題となった。

そして、恒例のコスプレも披露、アリーナの特設ステージで熱唱するというニュースも流れた。ところが、日本のニュースではその歌に関して誰も指摘していないようなので、少し説明したいと思う。

●汪峰の名曲『怒放的生命』を熱唱

ステージのマー会長、パンクロッカーみたいないで立ちだが、披露したうちの1曲は中国ロックの大御所、汪峰のヒット曲『怒放的生命』(2005)。(画像1 熱唱するジャック・マー)パンクでもメタルでもなく王道を行く正統派ロックだ。同じく汪峰の『飛得更高』(2004)に続く、人生を切り開く希望を歌った元気の出る曲。スローテンポのAメロから力強いBメロというベタな展開という、彼の作品では似たようなテーマの曲が多いのだが、意外と聞き飽きない中毒性がある。

このマー会長の熱唱に汪峰本人が中国のSNSウェイボーでお礼のメッセージを投稿、マー会長の未来にエールを送った。前述のマー会長のスピーチ内容にあわせ、『怒放的生命』の歌詞を読み解くとまた元気を貰うこと間違いなしだ。歌詞は百度検索で出てくるのでぜひ参照していただきたいと思う。(画像2 汪峰のウェイボーより)

●名作ドラマ『北京青年』(2012)のテーマ曲に

変わりつつある若者の価値観を描いた都市ドラマ『北京青年』(2012)、親の言うことは聞かない、自分で結婚相手も決めるなど、一人っ子世代の考え方に対し、賛否両論を世間で巻き起こしたドラマだ。出演しているのは今も第一線で活躍している李晨、杜淳ら。公開時すでに彼らもアラフォーだったので「北京中年」ともいえそうだが、当代若者気質を表現した人気作品であった。

この『北京青年』(2012)のとあるシーンにて『怒放的生命』が劇中曲として効果的な演出をしている。深圳に流れ着いた4人兄弟(いとこ同士)とその彼女たちが暮らすアパートの中庭にて、みんなで創業に向け『怒放的生命』を合唱するという、歌声喫茶のようなちょっと暑苦しいシーンだ。名曲故、音楽の方が出演者を食ってしまっているほど印象深い。(画像3 『北京青年』にて)また、同じく劇中曲に『勇敢的心』(2007)、そしてエンドクレジットに流れる曲は『存在』(2011)といずれも汪峰の名曲が採用されている。

坂本龍一+浜田省吾

日本ではごく一部のマニアのみ知る中国ロックの世界であるが、汪峰に関して少し紹介しておこう。彼はもともと北京の中央音楽学院という名門音大出身、付属小学校から入学、しかもバイオリン科ということでクラシック畑のサラブレッド、国内コンクール2位を獲得するなどクラシック界での将来を期待された。ところが在学中に仲間とバンド「鮑家街43号」を結成、一瞬クラシック楽団に就職したものの、そのままロックの道へ進み、あれよあれよという間にロックレジェンドとなってしまった。学歴は坂本龍一、ポジションは浜田省吾という日本の大物ミュージシャンをニコイチにしたような人なのだ。私生活では大女優章子怡(チャン・ツィイー)と2015年に再婚したことでも知られる。

現在はアルバム制作、ライブといった音楽活動とともに、『中国好声音』『一起楽隊吧』といったオーディション番組の審査員を務めたりと相変わらず忙しそう。(画像4 『一起楽隊吧』より)

数々のヒット曲に加え、お笑い芸人のものまねネタにされたりしているので、中国ではわりと誰でも知っているような人物である。また、『我愛你中国』が北京オリンピックの応援ソングなったりと、大物になりすぎた感もする。このあたり、ライブ中心の現役ロックミュージシャンにしてみれば、すでに検閲で死んだ中国ロックが「2度死んだ」と思うかもしれない。しかし、以前こちらのコラムにて紹介した中国共産党政府のキャンペーンソング「”中国夢”主題新創作歌曲」には、お声はかかっていないようだ。いや、彼ほどの大物なら既にオファーはありそうだが、今のところ政府の御用歌手にはまだなっていない。完全に御用歌手になったロックシンガーもいるので、その点ではまだ救いがある。

●汪峰おススメの1曲

キャリアも長く名曲、ヒット曲の多い汪峰、あえて1曲選ぶとしたら非常に悩む。『光明』か『春天里』を推そうかと考えたが、せっかくなので、ここは前述のドラマ『北京青年』のエンディング曲に採用された『存在』をオススメしたいと思う。ざっくり歌詞は、煩悩、矛盾を抱えながらもそれが人間、前に進もう、と勇気づける内容である。中文字幕付きのPVは中国の動画サイトやYouTubeにあるので、映像とともに汪峰ワールドを味わっていただきたい。(画像5 『存在』PVより)中国ロック入門にも最適な汪峰なので、ここから中国ロックのルーツ崔健まで遡るもよし、いまどきのデプレ『葬屍湖(Zuriaake)』まで突っ走るもよし、巨大な中国ロックの世界に触れてみてはいかがだろうか。

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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