「仕事漂流」にみる日本の若者の仕事の現実―中国メディア

人民網日本語版    2019年9月6日(金) 9時0分

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「仕事漂流—就職氷河期世代の『働き方』」は転職に関する日本のドキュメンタリーだ。筆者の稲泉連氏は8章にわたり、日本の青年8人を追跡取材した。働き始めてすぐにコースを変えた彼らのような人を、日本では「第二新卒」と呼ぶ。写真は新橋。

1カ月前、中学時代の友人が愛と憎しみの混じり合った感情を抱く上海を離れる決意をし、まったく知らない都市へと引っ越していった。そこでは誰かと一緒に食事をするのも難しいという。1時間前、大学院生交換プログラムの時の友人が北京市朝陽区の賃貸住宅からSNSへ投稿し、「北京に漂流していつも生活は苦しく当てもなくさすらう。人生とはこんなものか」と送ってきた。黙って「いいね」を送るしかなかった。午前4時、北京市大興区の窓の外は、まだ少しも夜が明ける気配はなく、漆黒の夜の中にいろいろなものが溶け込んで、時間と空間がなくなってしまったような感覚に襲われた。そんな状況の中、「仕事漂流」という本を読むと、心には寂寞が広がる。(文:李怡。「中国青年報」に掲載)

「仕事漂流—就職氷河期世代の『働き方』」は転職に関する日本のドキュメンタリーだ。筆者の稲泉連氏は8章にわたり、日本の青年8人を追跡取材した。働き始めてすぐにコースを変えた彼らのような人を、日本では「第二新卒」と呼ぶ。

そのうちの1人、早稲田大学文学部の大学院を卒業した中村友香子さんは、なんとかして出版社で働きたいと思い、わざと単位を落として2回留年し、卒業を遅らせる代わりに就職のチャンスを増やそうとした。「全てはまだ始まっていないし、全てをまだ失ってもいない」状況だった。しかし、かたくななまでに思い続けた中村さんの夢は叶わず、結局何でもいいからできる仕事を探すことになった。藤川由希子さんの戦略は何でも受け入れることだ。彼女にとって仕事のキャリアアップとは、すべての可能性を試してみて、どんなやり残しもないようにするということだ。それは単純でおおざっぱな態度でもあり、実際に藤川さんは、「一つ一つのチャンスを消化しさえすればいい」と話す。

この2人に比べて、大橋寛隆さんは流れに身を任せることが多い。それが本当に大橋さんにとって自然なことなのかどうかは別の話だが。銀行業界の大規模リストラの椅子取りゲームに勝った大橋さんだが、「会社以外で努力しているわけでもなく、今は目先の転職活動に追われている」という。その後、「一体自分は何をやっているのか」、「こんな日々がいつまで続くのか」、といった答えの出ない疑問が次々浮かぶようになった。判断を誤れば、得をすることはない。これに対し、山根洋一さんが前出の大橋さんと共通するところがある。そのうまく整理できない、激しい波に押し流されるような感覚だ。ただ、大橋さんと違って、山根さんは気持ちが落ち着いていて、社会人のペースで、楽観的なリズムで生きている。

「理想の仕事」の形態進化がサスペンスドラマになり、「新卒」が答えを見つけるまでドラマは続く。仕事に接した実感が、うまくつかまえられなかった思考を具象化する。ただ、追い求める過程が自分の価値を支える内在的ロジックを突然崩壊させ、空虚さが広がる可能性はある。徐々にはっきり見えるようになってきた仕事のレールが人々を狂おしい気持ちにさせ、「会社の先輩たちの働き方とほとんど変わらないと気づいた時、もうここにはいたくないと思った」と言わせる。ではどうすればよいのか。今井大祐さんは、「同僚たちは、大体3年経ったら、次のステップに移る時期だと言っている」という。3年が経ち、また3年が経ち、少しずつ我慢を覚えていく。だが不安の火種はくすぶり、誰かから焦燥感を与えられるまでもなく、とっくに自分で焦燥感を呼び込んでいる。

焦燥感と不安は「時間」からくるものもある。賞味期限があるということだ。東京大学法学部の大学院を卒業して、経済産業省で働く国家公務員の原口博光さんは、入学式で教授の言った、「東大卒の賞味期限は2年から3年」という言葉をよく覚えており、「社会は変化している」、「ルールは変化している」という自分の見方を確かめたいという。有名校の万能パスポートを持っていても、それでは通過できない関所もある。前出の山根さんは、「もうすぐ30歳になる。年齢が上がるほど、再就職の選択の余地は小さくなる。その後、仕事を変えて職業コンサルタントになって、仕事の残酷な現実をつくづく目の当たりにした」と話す。

焦燥感と不安は「危機感」からくることもある。1人の人の市場価値をがんじがらめにして、あおることをやめない。大手電機企業の研究所に勤める大野健介さんは気楽な現状に明らかに満足しているが、切れ目なくやって来る「不安」をどうすることもできずにいる。「見えないどこかに手があって、絶えず誰かを快適な場所から押し出そうとしているような感じがする」という。父親の武史さんは、「日本人自身が一所懸命に働いて経済を飛躍的に発展させたのではなく、あのような時代だからこそ、一所懸命に働くことができた」と話す。必ず毎朝6時に起きて自分の専門を勉強し、外資でコンサルタントを務める長山和史さんは淡々とした毎日を送っている。「自分たちのような業界では、知識を売ってお客様から高額の報酬を受け取る。ふさわしいサービスを提供できない人はやめるしかない」からだという。

守り抜く人があれば、姿を消す人もある。苦しみの果てに喜びが訪れた人もいれば、翼を失って失意のうちに終わる人もいる。

「仕事漂流」は処方箋のような本で、読んで落ち込むような本ではない。社会人8人の漂流はプラスのフィードバックを得ており、それぞれがよるべき理由を見つけて自分を首尾一貫したものにし、安定した心の秩序を再構築している。英雄の旅を終えて、最後に褒美をもらったような感覚になる。成長なのか妥協なのか見極めは難しいが、そもそも両方を兼ねているといえる。

実はこの本は新しくはなく、初版は2010年4月だ。筆者の稲泉氏は3年後の改訂新版のあとがきに8人のその後を記しており、中には再び漂流する人もいる。彼らは「理想の仕事」に近づいたのだろうか。長山さんの言葉を借りると、「結果として正しい答えは何も出ていないけれど、きっと自分が正しいと思う答えが正しい答えなのだと思う。社会が多様化しているからだ」。

初版発行から9年後に中国語版を読んだ。時間と場所は違っても、「迷える世代」や「就職氷河期」は過去のことではない。迷わない世代などいないともいえる。これまでのどの世代も「これまでで最も困難な就職シーズン」と言われてきたではないか。

夜が明け、「午前7-8時の太陽」のような若者たちは今日も整然とした秩序ある一日を送り始める。(提供/人民網日本語版・編集/KS)

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