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2013年4月、米ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港。仏アルストム社幹部のフレデリック・ピエルッチ氏は米連邦捜査局(FBI)に逮捕された。
2013年4月、米ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港。仏アルストム社幹部のフレデリック・ピエルッチ氏は米連邦捜査局(FBI)に逮捕された。米司法省はピエルッチ氏を贈賄容疑で起訴したうえ、アルストムに7億ドル以上の罰金を科した。
この起訴はピエルッチ氏個人に対する行為というだけにとどまらず、仏企業に対する米国の一連の行動の1つだった。2018年9月にピエルッチ氏は再び自由の身となった。ピエルッチ氏は今年1月にフランスで『Le Piège américain』(アメリカの罠)を出版。「連邦海外腐敗行為防止法」を利用して国際競争の相手を叩く米国の内幕を自らの体験によって暴露し、世論に強い反響を引き起こした。人民網はこのほど、パリでピエルッチ氏への単独インタビューを行った。
■「アメリカの罠」とは?
ピエルッチ氏によると、「アメリカの罠」には国家、企業、個人の3つのレベルがある。米司法当局の標的にされたいかなる国際企業も、米「連邦海外腐敗行為防止法」の介入から無傷で逃れることはできない。
1977年制定の「連邦海外腐敗行為防止法」は本来、米企業による海外での贈賄を罰するものだった。だが米政府は同法に治外法権を与えて、米国の金融及びネットワークサービスを利用する外国企業に対して米司法当局が同法を強要できるようにした。2005年になると米政府は「米国愛国者法」も可決。米政府による多国籍企業の監視を合法化した。現在の「アメリカの罠」を作ったのが、こうした一連の措置だ。
ピエルッチ氏によると、2005年以降、米「連邦海外腐敗行為防止法」の主な標的は欧州企業だ。当時米国が得た100億ユーロ余りの罰金のうち、欧州企業が支払ったものが60%で、米国企業は15%に過ぎない。服役中、ピエルッチ氏は調査を重ねた結果「大部分の多国籍企業は米司法当局の腐敗行為防止調査を受けた時、米国市場から排除されないよう、いずれも直ちに米司法省と協力し、贈賄を認めて罰金を支払うことを選択する。このため、米司法省を前に10事例中9例が罪を認めて協議することを選択した。たとえ犯罪の証拠がなくても、量刑を大幅に緩和するためだけにだ」との結論にいたった。
■ナンセンスな体験
ピエルッチ氏は電力と鉄道交通設備分野の専門家として、アルストムに22年間勤務した。2013年4月、ピエルッチ氏はニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で入国時にFBIに逮捕された。逮捕後にはじめて、2003年のアルストムによるインドネシアでの汚職事件に関与したとして、米司法省が6カ月も前の2012年11月に自分を「連邦海外腐敗行為防止法」違反で起訴していたことを知った。逮捕が先で、起訴されていた事を告げるのは後という事がすでに、この司法手続きの異常さを示している。
ピエルッチ氏は米刑務所にまず14カ月、次に1年近くと、計25カ月間収監された。最初の14カ月間は米国で最も警備の厳重な刑務所で、収監者が多すぎて劣悪な環境だった。この苦難に満ちた時期が、ピエルッチ氏の人生に大きな影響を与えたことは間違いない。収監されていた間、アルストムは米司法省の要求を受けて「職務放棄」を理由にピエルッチ氏を解雇。ピエルッチ氏のキャリアは潰された。二度の服役の間、ピエルッチ氏は妻に2回会っただけだった。子供を守るため、彼らには会わなかった。現在ではインタビューに応じて『Le Piège américain』について率直に説明。自身があれほど長く家庭生活を「欠席」していた理由を家族や子ども達に説明したいとも考えている。
■「反撃」するフランス
アルストムがGEに買収されたケースで、米国は全ての仏原発に対する権利を獲得。こうした原発はフランスの電力の75%を担っている。ピエルッチ氏によると、フランスは原発技術大国であり、これがフランスの産業主権に対する重大な侵害であることは間違いない。
安堵すべきことに、フランス社会は覚醒しつつある。2014年にアルストムが買収されると、フランスは2016年11月に、仏企業が米司法当局の直接的介入を受けずに仏本土で腐敗行為防止調査を受けることを認める法律を打ち出した。ピエルッチ氏によると、これは米国による貿易戦争の影響を受けた国が打つことのできる最も緊急的な対応であり、すでに均衡を失った国際経済関係を修復する試みでもある。
ピエルッチ氏によると、仏下院による2018年の調査報告も、当時の買収においてアルストムとGEが共謀し、50万ユーロ余りの宣伝費をかけてフランスの広報代理店、弁護士事務所、銀行などに働きかけ、「アルストムは経営が困難であり、GEに買収されるのは当然だ」と宣伝したことを暴き出している。実際には、当時アルストムが原発分野で世界上位にある一方、GEは蒸気タービン発電市場を占有するのみだった。
『Le Piège américain』が出版されると、フランスの政界、経済界、市民はいわゆる「米国の罠」に警戒心を抱くようになった。ピエルッチ氏によると、フランス社会の覚醒は相当程度トランプ大統領の「率直さ」のおかげでもある。つまりトランプ大統領は貿易戦争をするという米国の意図を少しも隠さない。これは、さらに多くの真相を明るみにするうえで大きな後押しとなった。
■組織的に米国に対処しなければならない
ピエルッチ氏は主に政府機関や多国籍企業をクライアントとするコンサルタント会社をすでに設立した。自国の基幹産業及び産業主権を保護する方法、米国の司法的介入に対処して多国籍企業の利益を保護する方法などを扱っている。
ピエルッチ氏によると、米国は世界経済をコントロールする地位を保つことを望んでおり、目的達成のためにはあらゆる手段を用いる。こうした状況を前に、他の国々は対応を選ぶことしかできない。残念なことに、現在欧州は各国間の利益の溝が比較的大きいため、集団的対応を取ることができずにいる。トランプ米大統領は二国間協議制度を用いることにより長けているため、欧州をまとめるのは一層困難になっている。
ピエルッチ氏によると、現在世界にはフランス、ドイツ、英国、中国、ブラジルなど一定の工業力を持ち、米国と技術競争を行える国々がある。まず自国の司法システムを改め、法令を制定して自国の多国籍企業を保護するべきだ。また、こうした国々は対話を強化し、贈賄する米国企業を告訴するなどより厳しい措置を試みて、国際経済関係においてチェック・アンド・バランスを形成するべきだ。(編集NA)