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<米中対立>「政治安保」VS「経済市場」で覇競う=世界の2極ブロック化が進行―景気・株価、大波乱へ

配信日時:2019年6月4日(火) 5時50分
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米中の対立は次代の経済覇権争いの様相を呈し、関税引き上げなどを巡り激しい攻防が続く。覇権国家・米国のトランプ政権は2020年秋の大統領選の勝利が至上命題。中国への強硬姿勢をアピールするが、泣き所は景気降下とマーケットの波乱。中国は長期的戦略の下、持久戦に持ち込む構えだ。対立激化で世界は分断され、経済発展が阻害される恐れがある。

◆2期目勝利VS持久戦略

トランプ大統領は事実上今年秋から始まる次期大統領選挙の勝利が最大の目標。対中強硬路線を人気の源泉と見ており、途中で引き下がるわけにいかない。景気動向とマーケットがアキレス腱で、株価が下落すれば一気に逆風にさらされる。

一方、中国の習近平政権は持久戦に持ち込む戦略だ。4月に北京で「アジア文明対話大会」が開催され、アジアの47カ国などから約2千人が参加したた。席上、習国家主席は「もし各国が孤島に閉じこもれば、人類文明は活力を失う。各国が開放精神を守り、政策の意思疎通、円滑な貿易などを促進することを願う」と保護主義に走る米国を批判した。

トランプ大統領は五月中旬、米企業が安全保障上の脅威がある外国企業から通信機器を調達するのを禁じる大統領令に署名。米商務省は華為技術(ファーウェイ)への米国からの輸出を原則禁止すると発表した。

米国の強硬姿勢の背景にはハイテク覇権争いでの中国封じ込めや米中貿易交渉で譲歩を迫るという狙いがあるが、クアルコムやマイクロソフトといった米IT企業にとってファーウェイは大口顧客であり、取引停止は経営上の痛手となる。ファーウェイはソニーや村田製作所など日本企業からも年間66億ドル(約7千憶円)に及ぶ電子部品などを調達。輸出品に米国原産の機微技術や部品が使われている場合は取引が差し止められ、違反すれば米国から制裁を受ける恐れもある。

長期的にみて深刻なのはイノベーションの停滞。5G(次世代通信システム)を主導するファーウェイの排除で5Gネットワークの整備が遅れると、その上で実現する自動運転や遠隔診断など次世代サービスも遅延する。米中ハイテク新冷戦は世界経済にとって大きなリスク要因となる。

◆欧州・アジアは米の要請に乗らず

技術力や品質を誇るドイツは「安全対策は通信法で定められ政府によって検証もされている」と、ファーウェイを政府調達から排除しない判断を下した。英国は「5Gについては各国が判断する」と米国に追随しない考えで、マクロン仏大統領も「ファーウェイを排除することは考えていない」と明言した。世界の大勢は「経済的なメリット」を重視している。

米国の事実上の対ファーウェイ禁輸措置はスマホ販売に打撃になるが、同社はこれまで泣きどころだった半導体の内製化にも、子会社ハイシリコンなどを活用し取り組んでおり、同社は「米国に依存しない体制が整いつつある」と強気の姿勢。部品産業に詳しい日本のアナリストは「半導体の開発能力があるため、ファーウェイへの深刻な影響は考えにくい」と見る。

ファーウェイが標的になったのは、同社が次世代通信「5G」の技術で米国などを大きくリードしているためだ。貿易問題では妥協が可能でも、次世代の技術覇権を巡る争いは根が深く、米国は今後も次々と中国に揺さぶりをかける可能性が高い。

ファーウェイについては、アジア諸国も同様で「ノウハウをはるかに超えており、可能な限りファーウェイの技術を利用していきたい」(マハティール・マレーシア首相)とするところが多い。

トランプ氏は自身の業績を株価の上昇と重ねてきたが、米中摩擦が激化すれば株価がさらに下落しシナリオが狂う。強気の背景になっている米国景気拡大も陰りが見え、米小売り額がマイナスに陥り、製造業景況感指数などが徐々に弱さを示し始めた。

◆5月中の株価下落で、世界の時価総額540兆円減少

トランプ氏が対中制裁関税の引き上げを表明した5月初旬以降1カ月余りで世界の株式時価総額は5兆ドル(約540兆円、6%)減少した。なかでも米アップルや米クアルコムなどIT(情報技術)関連企業が含まれる電子技術が8000億ドル(約87兆円、12%)減、米キャタピラーや日本の空気圧制御機器トップSMCなどの製造業が4200億ドル(約45兆円、9%)減と目立つ。2つのセクターの合計では130兆円余りに達する。

関税を巡る交渉では、トランプ大統領が五月初旬に「中国が合意文書案を撤回した」ことを理由に、2千億ドル(約22兆円)分の中国製品に15%の追加関税の発動を決定した。

さらに米通商代表部(USTR)が打ち出した中国への制裁関税「第4弾」は身近な消費財を一気に網羅した。特に大きいのがスマホなど中国に依存するIT機器だ。スマホなどへの関税引き上げは中国の工場だけでなく、米国の消費者も打撃を受ける「もろ刃の剣」だ。日本の電子部品メーカーにも飛び火する。

第4弾が実際に発動され中国も報復すれば、双方の経済が打撃を受ける。IMFの試算によると、米中の貿易は長期的に30~70%落ち込み、国内総生産(GDP)を米国で0.6%、中国で同1.5%程度引き下げる恐れがある。世界の株価下落は世界貿易の停滞による成長率低下を織り込み始めり、このまま対立が激化すればさらなる大波乱に陥ろう。

◆中国エコノミストは「アジアの時代」に自信

こうした中、朱光耀・前財務次官を団長とし、龍永図・元商務次官、金瑩・中国社会科学院日本研究所教授はじめ著名エコノミスト、実務経験者からなる代表団が来日。「中国政府は積極財政対策を講じるなど中国政府は経済の持続可能な成長のための努力を続けており安定的な成長を維持している」「中米摩擦は構造改革を促し、さらなる発展につながる」「アジア人によるアジアの時代を、中日は主要国としてリードして正解に貢献できる」などと自信を見せた。

政府による国内企業支援が公正な競争に反するのではとの質問には「国際慣行に沿ったもので差別的政策はない。各国が産業育成策をとっており、中国は日本に範をとった。米国は宇宙、電子産業を保護しているし欧州はエアバスを守っている」と反論した。

5月10日、米中通商交渉の中国側責任者である劉鶴副首相が中国メディアに対し、米中通商交渉決裂の内幕を初めて明かした。(1)米中貿易摩擦の発端は米国が中国に関税をかけてきたことにある。したがって合意に達するためには、追加関税を全廃しなければならない、(2)昨年12月の米中首脳会談の際に双方は、中国の米国からの輸入拡大の数値に関して合意した。(それを米側が変えようとしているが)合意した数値目標を簡単に変えるべきではない、(3)どの国にも国家の尊厳というものがある。互いの国家を尊重した、バランスの取れた表現にしなければならない―など3点を指摘した。

◆中国の貿易、EUと一帯一路関係国が大半

経済産業省によると、中国の貿易相手はEUと一帯一路関係国が大半。特に一帯一路関係国は輸出で640兆円と米国の430兆円の1.5倍で現在時点の差はさらに拡大している。内需も14億人の人口を擁し、中国の有力エコノミストは「米国抜きでもやっていける」と自信を深めている。

このまま米中の対立が激化すれば、世界が「米国か非米国か」の2極に分かれる可能性もある。その場合、覇権国家・米国が主張する「政治的安全保障」より、消費大国・中国を中心とした「グローバル経済」支持に多くの国が傾く可能性もある。

今後、米中間の経済貿易交渉はどこに向かうか。中国商務省筋によると、中国側がこれまでに合意した内容の大半を「予定通り」に守ると約束し、その代わりに、米側にこれ以上のことを要求しないよう求めるという。

それでも劉鶴氏が挙げた「譲歩できない」3点をめぐって、激しい攻防が予想されるが、中国側はこれに関しても一定の譲歩を最後の段階で見せる可能性がある。そのうち、「追加課税の完全撤廃」は絶対譲れないが、米国の製品や農産物の買い付け額に関しては一定の交渉の余地を残し、合意文書に関しても「均衡」を求めながら詰めの幅を残しているという。

◆6月の大阪G20での米中首脳会談に期待

 米中の対立は“我慢比べ”の様相を呈しているが、トランプ大統領は次の大統領選が近づき、早期の成果を切望している。6月下旬の大阪G20(20か国首脳会議)で米中首脳が会談し、合意に達すれば世界経済の大波乱は避けられるが、体制の相違が絡む覇権争いだけにハードルは高い。貿易立国・日本にとって世界経済のさらなる悪化は大打撃。ホスト国・日本は建設的な米中対話が実現するように両国に働きかける必要があろう。



■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役、編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。現在、日中経済文化促進会会長。Record China相談役・主筆。著著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。
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