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清華大学にまつわる話題が、このところネット上を賑わせている。
清華大学にまつわる話題が、このところネット上を賑わせている。話題となっているのは、有名人の旧居でもなければ、築百年の歴史ある図書館でもない。立ち上がってわずか2年足らずの「幸福科学技術研究室」という実験室だ。中国青年報が伝えた。
「幸福科学技術研究室」と聞くと、やや胡散臭さを感じるが、この研究室を立ち上げているのは、同大学社会科学院院長と心理学科主任を務める彭凱平教授だ。彭教授は、同僚と一緒に、現代科学の手法を用いて、人間のメンタルヘルスを改善し、人々の幸福感を高める方法を模索している。
結婚相手探しを例にしてみると?
英国の数学者ピーター・バッカス博士は、彼女いない歴3年という事態に憤りを感じ、これについて科学的分析を行うことにした。博士は方程式を用いて次のように計算していった。ロンドンの人口400万人に対して、まず年齢的に自分とマッチする女性の数を調べたところ、20%にあたる80万人だった。さらに、そのうち独身の可能性がある女性は、50%の40万人。そして学歴が大卒の可能性がある女性は、26%の10万4千人。このうち自分のタイプとみられる女性は、5%の5200人。さらにこの中で博士に魅力を感じるかもしれない女性は、5%の260人。最後に意気投合できる可能性がある女性は、10%で26人となった。
ここまで計算したところ、交際できる可能性がある女性はたったの26人だった。そこで博士は、自らを慰めるべく「なぜ私には彼女がいないのか?」と題する憂いに満ちた研究論文を発表した。こうした社会心理学は、第二次世界戦争終結後に誕生した新興学科で、数学をはじめとするいくつかの科学的方法を用いて、「我々はいかにして社会関係を構築するのか」や「人はいかにして他者と人間関係を結ぶのか」などを探索する科学であり、今では心理学の主流分野となっている。
彭凱平教授は、「私はこの問題に深い関心を抱いた。というのも、中国では、ピーター博士のような悩みを抱え、さらには自分が『対人恐怖症』であるとカミングアウトする人がますます増えているからだ。2018年の中国における婚姻率は過去最低を記録した。若い人は結婚したがらなくなり、社会関係や他者との関係を結ぶことを避けたいと思うようになってきている」と指摘した。
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社会心理学者たちは、長年にわたる科学研究の結果にもとづき、人と人との関係が、各人の想像以上に緊密で、社会関係を模索・構築することも、想像しているよりもより効果的であると信じるに至った。「我々は皆、社会ネットワークの中で生活しており、他人や社会と自分を切り離して生きていくことはできない。たとえロビンソン・クルーソーのような極度な孤立状態に陥っても、フライデーという存在を必要とした。米映画『キャスト・アウェイ』の主人公も、バレーボールに『ウィルソン』と名前を付けることで一種の社会関係を築き上げている」と彭教授。
米国の著名心理学者スタンレー・ミルグラム教授は1967年に、「スモールワールド実験」という興味深い実験を行っている。それは米国国内の遠く離れた2つの州で、296人の被験者を対象に、手紙を手渡しで送ってもらうという実験だった。顔も名前すら知らない人に手紙を渡すというこの実験では、最終的に数人の手を経て届けられるケースが認められた。最終的に、この実験によって、2人の間に関係があろうとなかろうと、6人の手を経て伝達が達成されるという有名な「六次の隔たり」理論が検証された。
2001年、米ニューヨークのマイクロソフト研究院のある社会心理学者は、この実験を再度行おうと決心した。彼は、世界約60カ国から6万人近くの被験者を募り、メールを転送する方法で実験したところ、5回から7回という結果が得られた。最新研究によると、SNS時代の現在、この回数は、4.74回未満にまで下がっている。彭教授は、「世界は我々が想像するより小さく、人と人との関係も、想像より近い。社会関係は、人間の天性であり、我々が使うべき才気と智慧でもある」と指摘した。
これだけではない。社会関係は、私たちの健康にも大きなプラス作用を及ぼす。2005年1月17日付の「タイム」紙に掲載されたカバーストーリーでは、「幸福科学」という新たな分野が紹介されている。その後、人が健康を保ち、幸福な状態で長生きするためには、良好な親しい人間関係を築く必要があることが多くの研究から明らかにされるようになった。既婚男性は、独身男性より平均7年長く、女性では2年長く生きることができる。
では、親しく、安定して有意義な社会関係を、どうしたら築くことができるのだろう?
彭教授は、「社会心理学は、60年あまりに及ぶ地道な研究を経て、とりわけ重要な社交スキルをめぐる原則があることを突き止めている」として、以下の原則を紹介している。
〇第一原則
家の外に出ることというこのシンプルな1点に尽きる。家から出て、相手と知り合わなければならない。家に引きこもることがどれだけ素晴らしいことかなどとはゆめゆめ思わないこと。
〇第二原則
相手と似ていれば似ているほど、その相手は自分を好きになる。
米スタンフォード大学の教授は、ある面白い実験を行っている。見知らぬ男女の写真と数組の夫婦の写真をテーブルに混ぜて置き、誰と誰が夫婦で、誰と誰が他人であるかを被験者に判断してもらった。その結果、正解率がなんと72%にも達するという驚くべき結果が得られた。
彭教授は、「これは、私たちが、自分と似た人を探し求める性質があることを裏づけている。また、他人から見ても2人は似ていると感じる。だからこそ『美女と野獣』というカップルは一般的に受け入れられないのだ。もし相手が好きならば、相手との共通点を探し求める必要がある」としている。
〇第三原則
「慣れ」は、有効な社会関係を築く上で助けとなる。これはつまり、中国人の言うところの「日々一緒にいれば、情が生まれる」にほかならない。誰かを好きになった場合は、できるだけその人のそばにいて、相手に自分を知ってもらい、常に相手の視線の中に入り、慣れ親しんでもらう必要がある。
〇第四原則
互いにウィンウィンの関係を築くこと。友人になりたいのなら、相手に楽しみとメリットをもたらす必要がある。互いにメリットをもたらすことは、人間の天性と言える。
彭教授は、「最後にもう一つ、コミュニケーションにおけるルールも大切だ。相手と交流するときには、もし5つポジティブなことを言うならば、1つだけネガティブなコメントをすること。全部良い話ばかりだと、相手は退屈さを感じる。結局のところ、暮らしというものはなにも光り輝いてばかりというわけではないからだ。この5対1の古典的法則は、『Losadaの法則』として有名だ」としている。
前述した「なぜ私には彼女がいないのか?」と嘆いた英国人数学者には、その後、恋人ができたという。つまり心理学研究を通じて幸福を獲得することは可能だということであり、あなたの理想の相手もすぐ近くにいるかもしれない。(編集KM)