これでは学ぶ人がいなくなる?日本語専攻学生に立ちはだかる課題―中国メディア

人民網日本語版    2019年1月25日(金) 0時10分

拡大

日本語科の学生の就職は依然として厳しく、楽観を許さない。なぜなら、日本語科が抱える問題の多くは、日中関係に起因するものではないので、日中関係の改善ですべてが解決されるわけではないからである。資料写真。

2018年の年末、大学などの日本語科(日語専業)の中に、ある種の安堵感を感じる。日中関係が改善に向かっていることが、その一因だろう。しかし、日本語科の学生の就職は依然として厳しく、楽観を許さない。なぜなら、日本語科が抱える問題の多くは、日中関係に起因するものではないので、日中関係の改善ですべてが解決されるわけではないからである。居安思危。日本語専攻に厳然と立ちはだかる課題について、拙見を述べ、皆さんの批正を請いたい。

数年前、私がある中国の大学に勤務していた頃、日本語科新設の準備が任務のひとつであった。私は当初、日本語科を新設するならば、先達の経験や知恵をできる限り借りて、より優れた学科を設計したいと考えていた。そこで、中国の、主に国内の沿岸都市の大学を中心に、教員や学生に聞き取りを行い、日本語科の状況を調べた。そこで見えてきたのは想像以上に深刻な、日本語人材の過剰供給と学生の就職難、それによる日本語選択希望者の減少、さらに学生の学習意欲低下という問題であった。高度な日本語が使えても将来の見通しが立たないなら、苦労して日本語を勉強する必要があるのか。学生の本心は、機械翻訳や音声認識の制度が日々向上するのを肌で感じながら、「中途半端なレベルなら、機械に取って代わられる」と、必死に頑張るか、あるいは放棄するか、ではないか。

熱心な日本語教員のなかには、「学生の学習意欲を何如に向上させるか」「学生をどのように楽しく、効率よく学習させるか」、などといった方面に力を注いでいる方も多い。こうした努力も確かに重要ではあるが、出口が見えない教育に対して一抹の疑念を禁じ得ない。それは多くの学生が求めていることではないようであるからだ。

学生の就職難は、日本語科が抱える重要課題の一つである。就職難とはいっても、企業の採用がないわけではない。問題は給与などの待遇にある。具体的にいえば、一般職など他の給与が日本語通訳など日本語を要する職種より高く、かつ日本語通訳のままでは昇格できる見通しもないという現実である。例えば、内陸部のある省都では初任給が一般職で5000元(約8万円)程度のところ、日本語通訳は3500元(約5万6000円)前後である。この待遇で就職する学生はどうしても日本語を使いたいので我慢しているか、専科(専門学校)などの卒業生である。毎年、大量に輩出されている日本語人材に比して通訳などの募集は多くないので、3500元でも需要供給のバランスで、結局、応募者がいる。つまり、企業として給与5000元を払う理由はないのである。

私の知る日系企業の現地スタッフの多くは日本語人材の給与が低いことを十分に認識しているが、特に製造業の場合は何如コストを抑えるかが重要である上、物価が年々上がっている中国では製造業は大変苦しい状況にある。2年前、ある製造業サプライヤーの日本人が「もう日本で生産した方が生産コストを安く済ませられるくらいなんです。でも下請けだから、自社の工場だけ移転するわけにもいかない」と漏らしていた。実際、移転が容易なアパレル企業は早々に東南アジアや南アジアに製造拠点を移している。一方、材料調達や部品製造など複雑な階層によって成り立つ自動車などの製造は、簡単に海外移転できない。たとえば下請け製造業者が東南アジアに移転した場合、製造した部品は毎回、税関を通さなければならなくなり、納品の時期も読みにくくなるうえ、臨機応変に対応できないという問題も起こる。そこで、これらの企業ではまず沿岸部から内地への移転を行う。高速鉄道などのインフラが整いつつあり、中国の地方行政府も誘致に積極的なので、湖北省や湖南省などでは実際に工場の移転ラッシュが起こっている。格安航空会社(LCC)などによって、これらの都市に日本からの直行便が運行し始めたことも、それを後押ししているようだ。このような現象が日本語人材の需要が生むかというと、それほど単純なことではない。

これまで日系企業は日本から駐在員を派遣し、経営や指導に当たらせてきたが、駐在員の通常の給与・駐在手当などで、多大な人件費を要する上、通訳も雇う必要があった。駐在員も異国の環境に慣れなければならないので、着任してからすぐに活躍するというわけにはいかない。そこで日本の本部で育てあげた中国人幹部を中国に転勤させ、新工場の運営に当たらせた方が、より効率的な運営ができる。本社との連絡のため日本語人材の需要がなくなるわけではないが、日系企業でありながら通訳人材は不要となり、日本語自体の必要性も下がる。実際に多くの日系企業では、日本人の現地スタッフを減らす努力をしている。

また、日系企業が駐在員を派遣する場合でも、最近は中国語ができる日本人を派遣している。ある日系の大手小売業では、日本人スタッフが中国人に中国語で直接指示をするだけでなく、レジが混み合うと自らレジに入り、顧客と直接対話しながら、対応に当たっていた。このように日系企業は現地化してきている。

もう一つ付言すると、上海深センでは日本語通訳などで7000元(約11万2000円)以上の募集もあるが、これらの都市では低い給与である。実際に、上海や深センに行って通訳になったが、生活が苦しく、結局2~3年で地元に帰ってしまうケースもある。おそらく内地で4500元(約7万2000円)前後の給与を得る方がよい生活ができるし、マンションを買うチャンスもまだある。給与の伸び代もある。中国では給料が安いにもかかわらず、離職率が低く、応募者が多い職種もあるのだ。また、日本と比べ、中国は物価や収入の地域差が大きく、不動産などで財産を築くことが多いため、給与の額で生活の質を判断することはできないので、単純な比較はできないのだが、それにしても民間企業で4000元を下回る給与は、やはりかなり厳しいといえる。

では、就職難に対して私たち日本語学科の教員は何ができるだろうか。大連の状況は、そのヒントとなると思われる。私が2~3年前に調査をした際、日本語学科が全国的に厳しい状況にある中、大連の状況は唯一の例外で、日本語科の就職は依然よかった。特にアウトソーシング業での日本語人材の活躍に目を引かれた。大連にはテレフォンセンターのオフィスがたくさんあり、メーカーなどのカスタマーサービスを請け負っている。スタッフの給与は中国の平均月収より2倍近く高く、毎日日本語を使うので、日本語も上達するという。アウトソーシングにはデータ入力なども盛んであるが、電話応対となるとスタッフが企業の顧客と直接対話するので、言語能力や知識だけでなく、コミュニケーション能力やマナーも要求される難度の高い業務だ。日本で日本人を雇うより、大連で中国人スタッフを高待遇で雇う方が経営上も効率的だし、彼らスタッフも日本で働くより質の高い生活を得られる。

また、日本では労働者人口が減少し、年金制度の維持が大きな問題となっているなか、中国人を主とする外国人の働き手は日本社会を支える重要な柱となって来ている。この流れを加速させる法案、出入国管理法改正案が11月、衆議院で可決された。これまで中国の日本語科学部生は卒業後に日本へ留学し、日本で就職していたが、今後は中国の大学卒業後、直接、日本の企業に就職するという学生も多くなって来るだろう。

このような時代の急変にあって、中国の大学の日本語教育は、社会が求める人材を輩出できていないようである。ビジネス日本語会話やビジネス文書などの教材は、いまだに駐在員や総経理に随行するというシーンで構成されている。これは、もはや企業が望む人材ではない。さらに、今インターネット上にはさまざまな学習ツールやコンテンツがあふれている。学生は自立して勉強できる時代になってきているので、教師の役割もそれに応じて変化を迫られている。

今は、実務能力に長けた新卒者や複数の専門を持つ複合的人材などが求められてきているが、企業などでの実務経験がほとんどなく、自分の狭い専門しか知らない教員が日本語の授業を担当せざるをえないのも大きな問題である。大学では教員の研究業績が重要視されているため、教員自身の専門知識を教えるのが授業の本来の姿ではないかと思うのだが、新規教員は基本的に学位や研究業績による評価で採用が決められているので、日本語学科においては彼らが日本語を教えている。大学教員の応募要件(能力・経験)と業務(教育)が一致していないので、研究と教育の両立はより難しくなっている。これに加え、近年は日本人教師(外教)の採用条件が年々上がり、審査も厳格になり、採用が難しくなってきている。これまで日本人教師が担ってきた作文や会話などをも、中国人教師が担当する必要が出てきている大学も少なくないようである。

そこで、たとえば企業と連携し、実務者に教壇に立ってもらい、翻訳や通訳、ビジネスマナーなどを講義してもらうことも一つ方法として考えられるだろう。衆知を集めて改革していかねばならないし、その実現は容易ではないが、日本語科の現状を鑑みると、思い切った対策が必要だと言わざるを得ない。

また、大学や教員が学生のために努力すべきことは、日本でのインターンシップ先の開拓と在学中の留学先の開拓である。先ほど述べたように、日本では労働者人口が減少している一方で、やや高度な日本語や複雑な業務をこなせる中国人が増えている。インターンシップによって、授業では教えられない経験を学生自身が身をもって体験できれば、他の専攻にはない魅力となるだろう。

ただ問題もある。インターンシップに関しては国内に多くの仲介業者があるが、受入れ企業が事前に学生と直接面談できなかったり、学生は事前に仲介業者から聞いていた話と異なる待遇や環境であったりというトラブルが起こりやすい。また、仲介料も学生負担である。しかも企業側も別に仲介料を払うことが多い。仲介業者は学生を日本に送ることで収入を得ているので、不利なことを話したがらない。私は以前説明会に出席して話を聞いたことがあるが、学生に説明していた担当者は現地の状況をよく知らなかった。例えば、交通が極めて不便な場所にあることなどをしっかり伝えていなかった(留学の斡旋業者も同様で、ドラックストアでアルバイトをすれば1時間300元(約4800円)稼げると説明され、驚いたことがある)。そのためか、インターンシップ受入企業は、学生と直接面談し、待遇や環境についてきちんと説明した上で、インターンシップに来てもらいたいという声が聞かれる。学生に社会の一員としての自覚があるのか、日本の文化やルールを十分理解しているのか、ただ日本に来て遊びたいだけなのか、企業にとってはこれらが重要であるので、この声にどう答えるかを考える必要がある。たとえば信頼できるインターンシップ受入企業であれば、学院が直接協定を結び、実習環境などについて日本の現地に赴いて定期的に確認する方が、より安全で効率的かもしれない。

また、在学中に1年間留学する機会を提供することも重要だと考える。今までは日本の大学と提携することで交換留学枠を得る方法が主流であったが、日本の大学生が中国にあまり来ないので、日本側はその不均衡が悩みの種である。日本の大学は年3~6万元(約48~96万円)と欧米に比べ学費が安いので、学費が必要だとしても留学を希望する学生は一定数いるだろう。学生の希望・意向を確認しながら、それに沿ったより良い留学先を確保するのも大学側の重要な課題といえる。そして学生はインターンや留学の期間を利用し、卒業後に日本へ行って直接就職する道を模索するのもよいだろう。

以上、日本語科の状況と対策について卑見を述べてみた。あくまでも私個人の経験に基づいて述べているので、必ずしも全て正しいとは限らない。皆さんの批正を請いたい。(提供/人民網日本語版・文/浙江工商大学東方語言文化学院副教授 久保輝幸)

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携