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<直言!日本と世界の未来>15年前の上海交通大学講演時の熱狂を想起=宇宙大国化へまい進する中国―立石信雄オムロン元会長

配信日時:2019年1月6日(日) 8時30分
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新年早々、中国の無人月探査機「嫦娥4号」が、世界で初めて月の裏側に着陸したというニュースが飛び込んできた。私が15年前に上海交通大学で講演した際の学生たちの熱狂ぶりを想起した。

新年早々、中国の無人月探査機「嫦娥(じょうが)4号」が、世界で初めて月の裏側に着陸したというニュースが飛び込んできた。着陸した地点は、月の裏側の南極付近。嫦娥4号は月面を走行する探査車「玉兔2号」を分離。周辺を走行し、月の裏側の地形や地下構造、埋蔵されている鉱物環境などを詳しく調べる予定という。

中国が有人宇宙飛行に初めて成功した2003年10月16日、私は講演するため上海交通大学を訪問していた。講演の冒頭、有人宇宙飛行成功へのお祝いの言葉を述べると、学生たちから大きな拍手がわいた。聞いてみると、教授も含めみんな朝5時に起きてテレビに見入っていたとのこと。上海交通大学は江沢民氏の母校でもある有力大学であり、今回の宇宙飛行プロジェクトにも技術的な協力はもちろん、多くの卒業生がかかわっている。新型肺炎(SARS)騒ぎで少し沈滞気味だった雰囲気を一気に振り払い、国民に自信と誇りを与える歴史的な瞬間だったことは、学生たちの自信に満ちた顔を見てもはっきりと感じ取ることができた。

この時の講演会では、世界的に関心が高まりつつあったユニバーサルデザインをメーンテーマとして採り上げた。これまでは日本の経済発展の要因や最近の製造業の動向を紹介してきたが、今回の聴衆が理工系の学生であることも踏まえ、設計・デザインという分野における最新のトピックとして紹介することにしたのである。

ユニバーサルデザインという分野は、当時中国ではまだあまり一般化していない概念で、中国語にもそれに相当する言葉は定まっていないとのことだった。一応「汎用設計」や「通用設計」といった言葉がそれに当たるようである。

講演後、「ユニバーサルデザインは結局障害者のためではないのか?」「なぜ企業がそのようなことに取り組むのか?」「どのくらいコストがかさむのか?」など、学生から次から次へと率直な意見や質問が飛んできた。いつものことながら新しいことを貪欲に吸収しようという強い意気込みが感じられた一方、やはりこの分野についての議論は、中国ではまだこれからという感触であった。

その後中国経済はほぼ10%前後の成長を達成、2008年の米リーマンショック時の大規模投資は「世界恐慌の危機」を救い、世界第2の経済大国に成長した。安定成長に減速したものの、日米欧など先進国が低成長にあえぐ中で、6%台の成長を維持、中国の経済発展は著しい。

一方で、沿海部と内陸部の経済格差や都市内部での貧困問題、環境問題など、さまざまな問題を抱えていることも事実である。日本や欧米の先進諸国が段階的に遭遇してきた諸問題に、中国はグローバリゼーションという大きな潮流の中で、高度成長と同時に直面していると言える。単に物質的な豊かさだけでなく、精神的、文化的な豊かさが得られない限り、持続的な発展は望めないことは言うまでもない。

経済発展が再び軌道に乗り、宇宙分野の発展などで国威も大いに発揚された今、中国はソフト面の充実という新たな発展の段階に差し掛かっている。社会的な諸課題の克服が待ったなしである。

月の裏側は、表側と比べてクレーターによる起伏が多く、地殻も表側と比べて厚い特徴があるが、詳しくわかっていない。嫦娥4号が実際に着陸して調査することで、月の成り立ちなどについて新たな知見が得られる可能性があるというからワクワクする。

<直言篇75>

■筆者プロフィール:立石信雄
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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