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<直言!日本と世界の未来>カリスマ経営者の“躓き”に驚く―立石信雄オムロン元会長

配信日時:2018年11月25日(日) 5時30分
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日産自動車でカリスマとして君臨したカルロス・ゴーン前会長が、長年不正を働いたとして逮捕された。ゴーン氏の倫理観や順法精神に問題があったのは否めないしても、トップの暴走を防ぐ歯止めを欠いた日産の内部統治体制にも落ち度があったと言わざるをえない。

日産自動車でカリスマとして君臨したカルロス・ゴーン前会長が、長年不正を働いたとして東京地検特捜部に逮捕された。苦境に陥っていた日産を再生に導いた立役者だっただけに、衝撃的である。ゴーン氏の倫理観や順法精神に問題があったのは否めないしても、トップの暴走を防ぐ歯止めを欠いた日産の内部統治体制にも落ち度があったと言わざるをえない。

報道によると、逮捕容疑は有価証券報告書の虚偽記載で、ゴーン氏の5年間の報酬を実際より約50億円過少申告した疑いがもたれている。加えて日産の内部調査によると、会社のカネを私的な目的に流用したとされ、パリなどにあるゴーン会長の自宅の購入費用を会社に肩代わりさせたと言う。これらの疑いが事実なら、名うての名経営者も「会社を私物化した罪」を犯したというほかない。

こうしたトップの暴走を防ぐには、2重、3重の監視体制が必要だが、日産のケースでは、ゴーン氏に長期にわたって権限が集中。社外取締役は今年春まで1人だけで、独立した指名委員会もなかったという。経営のお目付け役ともいえる筆頭株主は仏ルノーだが、ルノーの最高経営責任者をゴーン氏が兼任しており、監視の目が届かなかった。

ゴーン氏は、1999年に日産が経営支援を仰いだ仏自動車大手ルノーから派遣され、2000年に社長に就任。昨年まで最高経営責任者(CEO)を務めた。工場閉鎖や人員削減、系列取引見直しに辣腕をふるって業績を回復させ、05年からはルノーのCEOも兼任した。

ゴーン氏については、公表された報酬についても、その巨額さが際立っていたという。三井住友信託銀行とデロイトトーマツコンサルティングの調査によると、我が国の売上高1兆円以上企業の社長報酬総額の「中央値」は9855万円で、前年から5.5%増えた。好調な企業業績を背景に2002年の調査開始以来、最高に達した。ただ欧米と比べると日本企業の社長報酬は低い。時価総額の高い企業を対象に米英独仏4カ国の社長報酬を調べたところ、米国の中央値は16億8202万円と日本の17倍。4カ国で最も低いフランスでも3億3632万円だった。

ゴーン氏の報酬は、欧米並みの「高額」だったようだが、他の役員に比べケタが違ったようだ。日産では、役員の報酬は事実上、ゴーン会長に決定権があったという問題も指摘されている。

日本ではこのところ企業の不祥事が相次いでおり、経営者が謝罪するケースが目立つ。今回の日産のケースだけが特異ではない。2003年4月の商法改正で監査役を置く日本の従来型のガバナンス形態と、いわゆる米国型のガバナンス形態を選択できるようになったが、実際に米国型に移行した企業はそれほど多くない。これは監査役制度という現行の制度を維持しながらも、執行役員制の導入、社外監査役や社外取締役の導入・増員、指名委員会や報酬委員会の設置などを行いながら、各社が独自の工夫で最適な統治モデルを模索しているととらえるべきだ。

日本での論議はガバナンスの形態論や「株主対経営者」といった構図から抜け出せていない。相次ぐ企業不祥事を根絶するためにも、CSR(企業の社会的責任)の実践を担保する仕組みとしてコーポレートーガバナンスをとらえるなど、より広い視野が必要だ。日本のすべての企業経営者は、いま一度、「社会的責任」の大きさを再確認し、果たすべき責任の大きさを猛省すべきだ。

コーポレート・ガバナンスの中心課題は取締役の機能と責務にある。取締役は本来、株主の負託に基づいて企業の経営を監視・監督する責務があるが、従来日本では取締役も監査役も、その実態は企業経営に絶対的な権限を有する社長(CEO)によって指名され、株主総会で選任されるとはいえ、CEOを監視・監督する機能が十分果たせていない。米国ではこの弊害をなくすために、独立性の強い社外取締役を任命することを義務付け、CEOをはじめ執行役員を監視・監査し、不適任と評価した場合は、CEOの首のすげ替えの権限まで与えられている。

改めて注意を喚起したいのは、企業は社会の公器として、株主のみならず企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)に対し、誠実な使命遂行が求められていることである。経営トップも取締役も、現在の計画や戦略が企業の収益だけでなく社会的にも容認される行動かどうかを正しく評価・判断する良識と機能を果たすことが求められる。経営者や取締役が、株主や従業員あるいは社会に対する責任を改めて再認識し、その達成のための高いプロフェッショナル性を持つ意識改革こそが今求められているのである。

企業経営者は日産自動車の出来事をもって他山の石とすべきである。

(直言篇71)

■筆者プロフィール:立石信雄
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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