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<直言!日本と世界の未来>外国人労働者受け入れ拡大には国民的議論が必要―立石信雄オムロン元会長

配信日時:2018年10月21日(日) 6時30分
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政府は外国人労働者の受け入れ拡大に向け、臨時国会に提出する入国管理法改正案などの骨子を示した。新たな在留資格を設け、原則として認めてこなかった単純労働にも門戸を開くもので、外国人受け入れ政策の転換となるが、課題も多いと考える。写真は東京入国管理局。

政府は外国人労働者の受け入れ拡大に向け、臨時国会に提出する入国管理法改正案などの骨子を示した。新たな在留資格を設け、原則として認めてこなかった単純労働にも門戸を開くもので、外国人受け入れ政策の転換となるが、課題も多いと考える。

介護、農業、建設など、多様な分野で人手不足が深刻になっている。技能実習生に過酷な長時間労働を強いるなど違法行為も後を絶たない。日本の人口が減少する中で、成長力を確保するためには、外国人の受け入れ緩和はいずれ必要となろう。政府は来春の新資格創設をめざしているが、新しい在留資格を取得するための能力基準は、はっきりしていない。移民受け入れにもつながる政策であり、中、拙速は避けるべきであろう。

米国、オーストラリア、ブラジルなどは広大な国土開拓のために移民を導入して以来、移民が経済活力の根源となっている国々である。その後、労働市場テスト制度などにより、外国人労働者の数の管理は行なっているが、移民を積極的に受け入れている。米国ではテロでチェックは厳しくなっているとは言うものの、中国やインドをはじめとするアジアや、東欧、ヒスパニック諸国などからの流入が増えており、国際通貨基金(IMF)の推計によると、2017年の人口は3億2500万人超。1997年には2億7200万人だったから、この20年間で5000万人以上も増えた計算。今でも増え続けており、トランプ大統領は白人など元来の米国人の生活が圧迫されていると訴え、「流入移民対策」に乗り出している。

他方、積極的な外国人労働者受け入れや移民制度が生む社会課題として、欧州での多くの先例がある。ドイツでは1950年代〜60年代に労働力不足を補うべく、外国人労働者を大量に受け入れ、彼らが定住しトルコ移民などの社会問題となっている。また、フランス在住のアラブ系移民が差別的な待遇に反発して、暴動にまで発展した事例もある。

ドイツは2025年には65歳以上が約24%(日本は約30%)に達する見込みで、日本と酷似した少子高齢化の課題を抱えている。日本の外国人労働者受け入れのあり方を探る上での参考とすべき国であるが、ドイツは移民政策に積極的で、外国人定住者が多い欧州連合(EU)の中で最も外国人比率が高い国でもある。

ドイツの2016年の人口(連邦統計局発表)は移民や難民の流入により約60万人増え、過去最高の8280万人となった。同国では1972年以来、死亡数が出生数を上回る状態が続いているが、2015〜2016年に100万人以上の人々が戦争や貧困から逃れるため中東、アフリカなどから流入。好調な経済や、比較的リベラルな難民政策、手厚い福祉が要因として挙げられるという。

外国人の受け入れには、法的な枠組みや社会保障制度のインフラ整備など社会コストの増大が伴う。欧州の場合は陸続きで、長い歴史の中で周辺諸国との戦いと同化が繰り返されてきた。その結果、EU統合にまで至ったが、では、日本で大量の外国人労働者を受け入れ、移民を積極的に開放するところまで一挙に転換できるかと言えば、まだ時期尚早ではないかと考える。

やはり、技術や専門性を持った外国人労働者の秩序立った受け入れを拡大し、外国人も日本で働くことに喜びを感じ、いきいきと活躍できる多様性を容認する日本社会の仕組みが構築されることが先ではないかと感じる。その上で、日本人が文化や価値観が大きく異なる人たちと共存することを当然と受け止め、徐々に外国人の比率が高まって行くのが理想ではないだろうか。外国人労働者や移民の受け入れが人種的な軋轢(あつれき)を増し、社会格差を拡大し、人権問題にまで発展するようなことがあってはならない。

国民の理解が進み、多様な価値観が幅広く浸透した社会に進化して初めて、移民制度の積極導入にもコンセンサスが得られるときが来るのではないだろうか。同時に移民制度をとっている受け入れ先進国の政策から学ぶことも必要であろう。

(直言篇66)



■筆者プロフィール:立石信雄
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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