<コラム>ニュース中国語事始め=「音楽院」では音楽を教えてもらえなさそう

如月隼人    2018年9月22日(土) 1時10分

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今回は、「院」という文字の、日中での使い方の違いをご紹介します。写真は中国で最高峰の音大のひとつとされる中央音楽学院。

日本では「××音楽院」という教育組織がたくさんあります。大学組織だと「〇〇音楽大学」の名称になりますから、「音楽院」と言えば、専門学校やそれ以外の教育施設です。先生が個人で運営しているような「音楽院」もあります。

ところで、中国では音楽大学を<音楽学院 yin1yue4 xue2yuan4>と呼びます。英語では総合大学を university(ユニバーシティー)と呼び、その university に所属する各学部を college(カレッジ)、また単科大学も college と呼ぶことはご存じだと思います。そのuniversityに対応する中国語が<大学 da4 xue2>、collegeに対応するのが<学院 xue2yuan4>です。ですから、単科の音楽大学は<音楽学院>と呼ばれるわけです。そういえば日本でも最近は、かつては「学部」と呼ばれた総合大学の個別の部門を、「学院」と呼ぶ例も出てきたようです。

さて、ここでご注目いただきたいのが<院>の文字です。本来の字義は「建物の周囲にめぐらした土塀(どべい)」で、そこから「囲いのある建物」などを指すようになり、さらに「囲いのある建物を拠点とするような組織」も指すようになりました。

中国人は、漢字を組み合わせる熟語について、日本人よりも漢字それぞれの意味を重視する傾向があります。だから、<学院>としないと「学びの場」のイメージが出ないのです。音楽関連で言えば、例えば<歌劇院 ge1ju4yuan4>は「歌劇団」です。つまり、<歌劇>というものを扱う<院>なのだから、「歌劇をやる組織」となるわけです。教育機関ではありません。

中国では「音楽院」の名称を用いる組織はないようですが、「音楽院」の名を見たら「音楽を学び教える場所」ではなくて、どちらかと言えば演奏団体をイメージするはずです。

さて、<院>がつく言葉で、もうひとつ押さえておきたい単語が<医院 yi1yuan4>です。日本語の「病院」に相当する語です。日本語で「医院」と言えば、開業医が個人で経営している診療所をイメージしますよね。中国語では大病院でも<医院>です。これも字義の感覚が強く働いているのでしょう。医療を施すのだから、あくまでも<医院>。「病院」では、「病気を作る組織」みたいな感じです。しかも、病人だけでなく、けが人もお世話になるのだから、なおさらおかしい。

中国をご紹介する記事を書いていて、困る言葉のひとつが、この「医院」です。固有名詞として<××医院>の名称が出てくる。これを<××病院>としてしまってよいものか。私は「××医院(病院)」と書くことにしています。

さて「院」がらみでは、もうひとつお伝えせねばならないことがあるのでした。日本では「大学院」という教育組織があります。大学の学部を卒業してから、学習と研究をさらに深めたい希望者が選抜されて教育を受ける機関です。中国語では<研究生院 yan2jiu1sheng1 yuan4>です。というのは、日本語の「大学院生」に相当する中国語が<研究生>だからです。日本で「研究生」と言えば、正規課程の学生とは区別されていて、修了しても学位はいただけません。中国の場合<研究生>として卒業すれば、学位をもらえます。

日本では大学院を卒業してもらえる学位が「修士」「博士」です。中国の場合、<研究生院>を卒業していただける学位で、日本の「修士」に相当するのは<碩士 shuo4shi4>です。「博士」は<博士 bo2shi4>で、日本語と同じ文字です。

お断わり:本コラムでは、中国語を<>の中に日本語の常用漢字の字体で表示します。ピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします(例:<東西 Dong1xi0>)。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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