<コラム>北朝鮮・金正恩氏の妹が思いのほか出世していない理由

木口 政樹    2018年9月25日(火) 19時20分

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25日の米韓首脳会談で文大統領は、9月中旬に金正恩朝鮮労働党委員長に会った際、金委員長がトランプ大統領に対し信頼を明らかにしていたと語った。写真は北朝鮮。

第73回国連(UN)総会出席のために、米ニューヨークを訪問中の文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領が9月25日、ドナルド・トランプ米大統領と首脳会談を行なった。

就任後文大統領がトランプ大統領と首脳会談をするのはこれで5回目。昨年7月、ドイツで開かれた主要20カ国(G20)会議で、日韓米首脳晩餐会合を含めると6回目となる。

文大統領は会談の冒頭で、9月中旬に北朝鮮・平壌にて金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(以下、金委員長)に会った際、彼(金委員長)がトランプ大統領に対し信頼を明らかにしていたこと、トランプ大統領だけが非核化の問題を解決できるだけに、早期に会って、ともに非核化を早急に完成させたいという希望を明らかにしたといった内容を語った。

さらに文大統領は、トランプ大統領の応援のおかげで平壌に行ってきた。トランプ大統領に伝えてほしいという金委員長のメッセージもあるとし、もはや北朝鮮の核放棄は、北朝鮮内部でも後戻りできないくらいに公式化されたものとなっていると語った。

これに対しトランプ大統領は、早いうちに金委員長と一緒に会談場所の協議をすることになるだろう。次回の会談を期待するとし、場所はまだ決まっていないものの早急に会えるだろうと語った。その一方で、あまり急いで事を進めない考えだとも語った。

時間軸がちょっと反対になるが、文大統領が平壌で金委員長と会った際、次は金委員長がソウルを答礼訪問することを約束しているのは周知の事実。当然の流れだと思うのだが、北のほうには金委員長に対してソウル訪問はするなという意見も多いという。金委員長も実際にそれを知っていて、「多くの人がソウルに行くなというけれど、わたしは必ず行く」と語ったと韓国の民主平和党の朴智元(パク・チウォン)議員が21日に明らかにした。

しかも、太極旗部隊が金委員長のソウル訪問の際、デモをしたりシュプレヒコールをしたりするのは、ある意味ありうることじゃないですかと金委員長自らが言っていたというから驚きだ。

太極旗部隊とは、韓国の保守派で朴槿恵(パク・クネ)前大統領擁護派である。韓国の骨髄的保守であるから、金委員長がソウルに来たら激しい反対デモをすることは必至だ。しかしそれをも金委員長は理解しているということ。

金正恩氏は確かに「独裁者」というステータスだけれど、北朝鮮が彼1人の力で動いているのではないことをこのことばは示しているともいえよう。「行くなという人がかなり多い」「しかし俺は行く」という部分は、筆者としてはかなり驚きのフレーズであった。

これは余談になるが、民主平和党の朴智元議員のことばでもう一つおもしろい部分があった。北朝鮮の金委員長の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏について、彼女が「白頭血統(ペクトゥヒョルトン)であるため、本当の能力に比べて出世ができていない」と分析している点。

金正恩の実の妹である金与正氏は、肩書きとしては「朝鮮労働党第1副部長」であるが、朴智元議員の見立てとしては、もっと高い位置に上っていてもおかしくはないということなのであろう。どれくらいの位置にあれば、「妥当」という判断を下すのかは筆者にはわからないものの、「朝鮮労働党第1副部長」よりは上になっているべきだということなのだろう。

ここで白頭血統(ペクトゥヒョルトン)というのは北朝鮮を語るときによく出てくるキーワードでもあるので、簡潔に説明すると、金日成の直系を意味する北朝鮮式の用語である。朝鮮民族の霊山ともいえる白頭山。ここで生を受けたとされる金日成。さらに金正日、金正恩と下ってくるわけだが、白頭血統とは金日成からの直系という義。金正恩の妹である金与正も、金日成の血を引いているということで白頭血統といっているわけだ。

さらにこの出世できていないという内容でおもしろいのは、普通だったら白頭血統ならどんどん上に上っていって当然というところだけれど、そうしたら人民に対して面子が立たない。白頭血統だからといって、無条件で上に行くんではないんですよと、ある意味プロパバンダをしている意味にもなっているわけだ。

朴智元議員はさらに、実際の能力に比べてとんでもない出世をした朴槿恵前大統領とは完全に違うと皮肉っているのも、ちょっとわさびが利いていて面白い部分ではある。朴智元議員はもちろん朴槿恵氏と同じ韓国人であるが、朴槿恵氏とは反対の党であるゆえの皮肉である。同国の反対党よりは、敵国の要人にもっと情が傾いているようだ。韓国情勢、今後数年間は眼が離せない。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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