<コラム>トランプ政権のINF条約破棄の軍事的意味と中国

洲良はるき    2019年2月15日(金) 17時40分

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1日、アメリカのトランプ大統領はロシアとのINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄を正式に表明した。このことは、すでに日本でも多くのメディアが報じているところだ。写真はホワイトハウス。

2019年2月1日、アメリカのトランプ大統領はロシアとのINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄を正式に表明した。このことは、すでに日本でも多くのメディアが報じているところだ。

INF条約というのは射程500kmから5500kmまでの地上発射型の巡航ミサイルと弾道ミサイルを全廃するというものだ。同時に関連するミサイル用の発射装置と、それらをサポートするインフラも禁止している。条約を締結していたのはアメリカとロシア(ソ連)であり、中国はこの条約を結んでいない。そのため、アメリカやロシアは中距離ミサイルを持てない一方で、中国は自由に持つことができる状況だった。

ただし、アメリカ側はロシアも、一部でこの条約を守っていないとしている。また、ロシア側も、アメリカがルーマニアなどに配備した防空システムや、標的用ミサイルが、INF条約に違反していると主張している。しかし、いずれにせよINF条約がアメリカとロシアの中距離ミサイルの運用を大きく縛ってきたのは事実だった。

2019年1月28日付けで、USCC(米中経済・安全保障調査委員会)からレポートが公開されている。レポートでは、「トランプ政権がINF条約を撤回する主要な理由のひとつは中国である」と、記されている。

レポートの題名は『中国のミサイル計画とアメリカがINF条約を撤回する将来性』というものだ。USCC(米中経済・安全保障調査委員会)は、米議会に毎年レポートを提出することが義務づけられている組織で、アメリカ連邦議会が創設したものである。

今回のコラムでは、このUSCCレポートを中心にして、目についた付随する研究や報道の中で、興味深いと思ったものについても、解説と解釈をくわえながら紹介していこうと思う。

USCCレポートには次のように書かれている。

「アジアでのアメリカと同盟国の軍事力に対抗するための戦略として、中国はミサイル保有量を急速に拡大している」

「INF条約撤回の主な理由のひとつは、多数のミサイルを配備している中国の有利な点をうち消すことだ。その結果、中国政府の侵略的な行動を抑止するの役立つ」

中国政府は数十年間にわたって、軍縮についてアメリカと話しあいをしたり、約束を交えたりすることを拒絶してきた。中国の戦略はアメリカが中国が関わる地域的な紛争に介入してくれば、アメリカ軍を危険な状態にするというものだった。その戦略のかなりの面が中国の中距離ミサイルで成り立っている。

1990年代半ばから、中国は世界最大で種類豊富な中距離ミサイルを保有している。もし中国がINF条約に調印していたなら、そのうち約95パーセントがINF条約に違反するものである、とアメリカ合衆国上院軍事委員会が報告している。中国は、中距離ミサイルに多額の資金を投入してきており、それがアジアにおいて中国を優位にしている。中国の比較的コストのかからない方法で、西太平洋のアメリカ軍の基地や艦船は危険にさらされている状態だ。

USCCレポートによれば、将来、台湾や東シナ海、南シナ海で紛争が起こった場合、中国は通常弾頭ミサイルを使用することを計画しているという。その場合、中国は、敵のミサイル施設や航空機や船を攻撃する前に、偵察・早期警戒施設や指揮統制施設、防空施設のようなカギとなる軍事目標を攻撃するという。

1995年から1996年におこった第三次台湾海峡危機のときには、中国は定期的な軍事訓練として台湾海峡にミサイルを打ち込んだ。しかし台湾側にしてみれば、これは脅迫と意思強要のメッセージとも受け取れる示威行動だった。このとき、中国のミサイルが落下したのは、台湾で1番目と2番目に海上輸送の盛んな2つの都市近くの海上だった。台湾は貿易依存度が高い。海上交通が麻痺させられてしまえば、台湾がどうなるかは明白だった。使用されたのはDF-15弾道ミサイルで、これは中国がINF条約に参加していれば違反になるものだった。

USCCレポートでは以下のようにある。

「(INF条約破棄で配備することのできる)アメリカのミサイルは、移動して隠れることができ、同盟国や提携国の領土のいたるところに分散させることができるだろう。(アメリカのミサイルが配備されるのは)例えば、日本の琉球諸島や、フィリピンのジャングルの中だ。これら全ては、中国の軍事計画を面倒なものにするだろう」

「INF条約で禁止されていた新型の地上用兵器は、中国に届く同盟国の領土に置く必要がある。アナリストはこのような兵器を置く場所は日本だという。しかし、別の人々は、オーストラリア、フィリピン、アメリカ領のグアムをほのめかしている」

「INF条約撤回を支持する人々は、指摘する。INF条約撤回で、中国は紛争時により多くの目標を破壊しなければならなくなる。目標が多くなることにより、中国人民解放軍の火力は分散されて薄くなる」

アメリカ・インド太平洋軍フィリップ・デービッドソン提督はアメリカ上院軍事委員会で次のように話した。「INF条約がなければ、現在の中国のミサイル能力に対抗するオプションができる。それは敵の意思決定を困難にし、敵は高価なミサイル防衛システムに金を使わなければならなくなる」

一方で、アメリカのINF破棄について反対する人々もいる。INF破棄で軍拡競争になる、と反対派は言う。現在、太平洋軍司令部が受け持つ戦区でアメリカ軍が使用できる戦力は、戦闘機や爆撃機、そして艦船によるもののみである。

INF破棄に反対する人々は、現在の艦船や航空機に搭載されたミサイルなどで、中国軍を抑止したり攻撃したりするには十分であると主張する。

アメリカはこれまでもB-21ステルス爆撃機や、ヴァージニア級潜水艦などに多額の投資をしている。航空機や水上艦船、潜水艦などの兵器は、さまざまなミサイルを発射することができる。

しかし、英字軍事ウェブメディアであるブレイキングディフェンス(2018年11月7日付)は、将来は航空機や船がミサイルで目標を捉えられる位置まで近づくことができなくなる可能性を指摘している。同記事によると、ロシアや中国、そしてイランでさえも、アメリカの航空機や艦船を国土に近づけさせないように熱心に活動しているとしている。

また、アメリカが中距離ミサイルを使用できないことで、インド太平洋地域においての軍事的優位をえるために、アメリカは高コストの負担を強いられているという。

元CIA職員で、中国についての上席分析官だったクリストファー・ジョンソン氏は言う。「アメリカは、中国大陸本土への深攻作戦で十分な数の航空機の出撃(ソーティ)をおこなうことができない」。もしもアメリカが中国大陸のミサイルサイトを破壊できなければ、中国沿岸付近でのどんな戦いにおいても激しい戦力の損失を被るリスクがある。(エコノミスト、ウェブ版、2018年10月18日付)

陸上兵器の利点のひとつは、ミサイルを発射できるような航空機や艦船より格安であるということだ。これは民間の一般人でも簡単に想像できるだろう。たとえば、自家用車を購入して維持・運用する費用と、同じ程度の荷物や人を運べる自家用飛行機を購入して維持・運用する費用を比べてみるといい。

巡航ミサイルを運用できるような航空機や艦船は、トラックのような車両に比べて極めて高価だ。空には隠れる場所はなく、ジャミングやステルス能力が必要になる。それらにも、また非常に高額の費用がかかる。潜水艦もステルス機のように隠れる能力に秀でている。しかし、潜水艦も重量あたりで比べると、驚くほど高価な船だ。

ミサイルを搭載したトラックは、地上の建物や森やトンネルなどに自由に隠れることができる。森やトンネルなどに隠れたトラックは、発見するのが極めて難しい。

同じサイズ・重さのミサイルを運用する場合、飛行機や船にくらべて、トラックはずっと小さくでき、圧倒的に低価格になる。低価格なので、ミサイルをトラックで運用すれば、戦いで多数のミサイルを発射することができるようになる。

トラックでのミサイルの運用は分散化戦略にも合致している。現在、西太平洋のアメリカ軍の重要な施設は、嘉手納や横須賀、グアムなど、非常に少ない場所に限定されている。これは、中国の限られた偵察・攻撃能力による軍事作戦計画を簡単で単純なものにしているという。

アメリカの大型爆撃機や、原子力潜水艦は、一機や一隻あたり、二桁の巡航ミサイルを搭載することになるだろう。トラックの場合は一台で、一発か、せいぜい二発の巡航ミサイルを搭載することになるだろう。巡航ミサイルを搭載した原子力潜水艦が撃沈されるようなことがあれば、アメリカ軍にとっては大きな戦力の低下だ。一方で、敵が巡航ミサイルを搭載した数台のトラックを見つけて破壊できたとしても、まだまだ多数のトラックが生き残っており、全体の戦力の低下はごくわずかになる。しかも、同ブレイキングディフェンスの記事によると、潜水艦よりも陸上で隠れているトラックのほうが見つけることが難しいという。

中国はA2/AD(接近阻止・領域拒否)と呼ばれる戦略を採用していると言われている。A2/ADの厳密な定義を解説するのはこのコラムの主旨ではないので他を参照していただきたいが、ごく単純にいうと、アメリカ軍が中国大陸に近づいたり、中国大陸近くで活動したりするのを難しくする戦略のことだ。これらには、中国の陸上配備中距離ミサイルが非常に重要な役割を担っている。航空機や艦船にくらべて、低コストの陸上中距離ミサイルをアメリカはINF条約で採用できないでいた。その非対称性を利用して、中国は低コストで、強力なA2/AD環境を構築してきたのである。

中国のA2/AD環境下では、紛争時にはアメリカ軍の空母打撃群を含む艦船は、中国大陸沿岸から1000海里程度以遠に活動が制限されてしまう、と米海軍大学のアンドリュー・エリクソン教授が主張している。エリクソン教授の主張には、この分野では著名な研究者である米シンクタンクCSBA(戦略予算評価センター)のブライアン・クラーク氏や、米シンクタンクCNAS(新アメリカ安全保障センター)のジェリー・ヘンドリックス氏も賛同している。同じように空中給油機も中国のA2/AD環境では、紛争時には中国大陸沿岸から500海里、もしくはそれ以遠にまで活動が制限されてしまうと主張する人物に、湾岸戦争の航空作戦を率いたデイビッド・デプチューラ米空軍中将(退役)や、CSBAのジョン・スティリオン氏などがいる。

これらの意見を考慮すると、現在のアメリカ軍の戦術戦闘機の作戦行動半径や、艦船から発射される巡航ミサイルの射程は、中国との紛争を想定した場合には十分とはいえない。INF条約があるために、通常戦力でアメリカが中国大陸の奥深くを危険にさらすことができる能力は、非常に高価で数少ないB-2ステルス長距離爆撃機だけに限られてしまっている。

CSBAのマーク・ガンジンガーによると、19機のB-2ステルス爆撃機が目標から1500マイル以上離れた基地から攻撃する場合には、1日に10から12出撃(ソーティ)しかできないという。

このため、中国は、他の防衛システムなどに多額の投資しないでいることができてきたのである。

アメリカが通常弾頭の陸上中距離ミサイルを西太平洋に配備することになれば、中国国土の内部を危険にさらすことができる。中国は軍施設を守るために非常にコストのかかるミサイル防衛システムに多額の投資を強いられるだろう。そうなれば、中国軍が攻撃的な戦力にかけることのできる資金は少なくなる。

アジア・ソサイエティのポリシーインスティチュート所属フェローであるネイサン・リーバイン氏(ナショナルインタレスト、2018年10月28日付)によれば、これらの陸上発射型の中距離ミサイルは、生存性を高めるために中国本土からやや離れた、日本北部、グアム、フィリピン南部、あるいは、オーストラリア北部にさえ配備される可能性があるとしている。これらの兵器は従来の西太平洋におけるアメリカの軍事戦略に取って代わる基軸戦略となりうる可能性を秘めている。この新戦略はアメリカ自身がA2/ADシステムを利用して、『第一列島線』で海域を封鎖するために使用することができるだろうとしている。

第一列島線というのは、九州から沖縄、台湾、フィリピンなどで、島々が点々とつらなるようにして、まるで中国を囲んでいるように見えるラインのことだ。日本や台湾、フィリピンは、アメリカの同盟国か、もしくはアメリカに友好的なところである。これらは、中国側からの視点でみると、中国を取り囲むように配置された地形的な障害に見える。

中国はA2/AD戦略をとり、中国本土に近づくアメリカ軍の艦船を危険にさらそうとしているが、アメリカもINF条約を破棄すれば、アメリカやその同盟国の島嶼部などに低コストの中距離ミサイルが配備できる。移動可能な車両に搭載された対艦巡航ミサイルが運用されることになるだろう。アメリカ自身がA2/AD戦略をとれば、第一列島線に中国の艦船が近づくと、中国側も同じように危険にさらされることになる。

この戦略では紛争時に、アメリカと中国の互いのA2/AD戦略によって、どちら側の艦船も中国近海で活動できなくなる。これがマイケル・スウェイン氏や他の学者たちが、『無人地帯』と呼ぶ状態である。(マイケル・スウェイン氏は、カーネギー国際平和基金の上席研究員で、中国安全保障研究で著名なアメリカ人のひとり。日本の防衛研究所のシンポジウムにもコメンテーターとして参加したことがある)。

これにより第一列島線の内側の海は人や艦船が入り込めない緩衝地帯となる。『群島防御』と呼ばれるこの戦略は、アメリカの水上艦艇を著しく危険な場所に配置することなく、中国の侵攻的な軍事活動を抑止し、封じ込めることができるだろう、とリーバイン氏は主張している。信じられないほどコストのかかる空母打撃群で海域支配を維持するのに比べて、『群島防衛』戦略は、金と人命の両面で、極めて安いコストになる素質があるという。

冒険的な試みを行えば、中国軍が手酷い痛手を受け、目的を達することができないということが確実視されるのなら、中国の侵攻的な行動を抑止することができる。これこそが、アメリカ政府と、アメリカの同盟国や、友好的な政権が目指すものだ。

アンドリュー・クレパインビック博士(『いかにして中国を抑止するか 群島防衛の場合』、フォーリン・アフェアーズ、2015年3/4月号)は、INF条約を前提とした内容であるものの、航空戦力や海上戦力と違って、地上戦力は使用したミサイルなどを再装備するために離れた基地に戻らなくてよいとしている。地上軍は、最大の航空機や艦船よりも、はるかに多くの弾薬をストックしておくことができる。さらに地上軍は強化されたバンカーも使えるとしている。

USCCレポートには、INF条約破棄の反対派の意見として、アジア地域での軍拡の可能性を指摘するとともに、「アメリカは地上配備型のミサイルシステムをまだ持っておらず、INF条約を破棄することで得られる特典を利用するためにはそのようなミサイルシステムを開発する必要がある」と指摘する。

しかし、たとえば、アメリカ海軍が現在運用しているトマホーク巡航ミサイル(射程1600km)は、簡単に地上から発射できるようになるだろう。実際に1980年代に、BGM-109Gという、トマホーク巡航ミサイルをトラック(輸送起立発射機:TEL)に搭載した地上発射巡航ミサイル(GLCM)が存在した。BGM-109GはINF条約締結により、廃止されている。

ただし、トマホークは飛行機のように飛ぶため、飛行機を探知・迎撃するシステムで対応されてしまう。トマホークはステルス性能もなく、速度も時速800km程度で、遅い。そのため地上運用するにしてもJASSM-ERのような新型巡航ミサイルのほうが適切かもしれない。JASSMはトマホークより射程は短いが、トマホークと違って、ステルス性がある。しかし、このミサイルも亜音速で飛ぶ。

ロシアとインドが共同開発しているブラモス超音速巡航ミサイルは、マッハ3以上で飛ぶ。アメリカはこのようなミサイルを持っていない。ミサイルの速度がはやければ、撃墜されにくいだけでなく、短時間で居場所を変えてしまう目標にも対応できる可能性がある。

レイセオン社がアメリカ海軍のために開発した、スタンダードミサイル・シリーズは、亜音速の巡航ミサイルよりもはるかに高速で飛ぶ。スタンダードミサイルには、SM-3やSM-6などがあり、艦船からだけではなく、陸上のイージス・アショアと呼ばれている地上配備型システムなどからでも運用できる。

米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のミサイル防衛計画責任者のトーマス・カラコ氏は、SM-6の多目的追尾装置(シーカー)とSM-3のブースターを組み合わせれば、地上の目標を攻撃できるだろう、としている。(ブレイキングディフェンス、2018年11月13日付)

同ブレイキングディフェンスの記事によると、アメリカ陸軍が開発しているPrSM(精密打撃ミサイル)はINF条約を受けて、射程が制限されているものの、射程を伸ばすのは簡単だ、とアメリカ陸軍が言っているという。

PrSMの基準となるミサイルは、最大499キロの距離の目標を攻撃できるものが開発され配備される。一連の能力開発後につづいて、PrSMで最も重視されるのは、射程を伸ばすこと他である、とアメリカ陸軍の習得支援センター(USAASC)公式ホームページに書かれている。(2019年2月5日閲覧)

USCCレポートにはINF条約破棄のデメリットとして、次のようにも書かれている。INF条約を撤回することは、中国と軍縮管理体制の話し合いをしようとする努力をだいなしにするかもしれない。

一方で、デイビッド・デプチューラー米空軍中将(退役)は以下のように書いている。あたらしい通常弾頭ミサイルを配備できることは、ちょうどレーガン大統領がINF条約に調印したときのように、中国との実質的な交渉の動きを作りだすかもしれない。アメリカが新型の陸上通常弾頭ミサイルの配備を中止する見返りとして、中国は自国の通常弾頭ミサイルを減らすことを望むかもしれない。(ウェブ版フォーブス、2018年11月5日付)

現在のロシアはソ連時代より国力が大幅に低下している。ワシントン・ポスト(ウェブ版、2018年10月23日付)は、アメリカのミサイル配備にロシアがついてこれないことを示唆している。

USCCレポートには次のように書かれている。「プーチンを含め、ロシアは公式に、中国軍の近代化がアジアのパワーバランスを変えてしまうことに積年の懸念を表明してきた」「中国の軍事力は依然として、長い間ロシアの強い心配事となっている。それが中国とロシアの不和にまで発展するかもしれない。INF条約がなければ、ロシアは中国の軍拡に対抗するための制限が少なくなるだろう」

INF条約撤回で、ロシアが中国の近くに中距離ミサイルを配備する可能性がある。そうなれば、中国とロシアとの戦略的な結びつきが強くなるのを防ぐことができ、アメリカの利益となるかもしれないとしている。

中国はINF条約を受け入れるべきだ、と2018年10月22日、アメリカのトランプ大統領がホワイトハウスで話している。

また同日、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官も発言している。ボルトン氏によれば、アメリカは非常にはっきりとした中国の脅威に直面しているという。中国は非常に多くのINF条約に適合しないミサイルを所有しながら、INFに入りたがらない唯一の国家だとしている。

2019年2月5日の教書演説においてもトランプ大統領は、INF条約に置きかわるあたらしい条約の交渉が、中国をふくめたその他の国と行われる可能性がある、と話した。さらには、条約の交渉ができないときには、アメリカは他のどの国よりはるかに多くの金をかけ、はるかに革新的な軍事力を持つだろう、とトランプ大統領はつけ加えた。

トランプ大統領やボルトン氏の発言に対して、2018年10月23日には、中国外交部(外務省)の華春瑩報道官が報道記者たちを前にして答えている。昨日、すでにわたしはこの問題に対して中立の立場を表明した。INF条約はアメリカとロシアの間で取り決められた条約であり、二カ国間の条約である。アメリカの一方的なINF条約破棄は、その他の国に負担を強いている。過ちの責任を他人に押しつけるようなやり方には少しも道理がない。中国は一貫して防御的な国防政策を追求してきた。中国は自国の正当な国家の安全と利益を確固として維持する。絶対にいかなる形のペテン・脅迫も受け入れない。華春瑩氏は強調した。(環球網、2018年10月23日付)

すでに説明したように、INF条約はアメリカとロシアが署名していたものであり、中国は署名していなかった。アメリカとロシアがINF条約に縛られ、中国が自由にできるのなら、当然、中国が有利な立場になる。そのためUSCCレポートでは、中国政府はアメリカとロシアのINF条約が維持されることを望むとしている。

アメリカのINF条約破棄について、華春瑩報道官の23日の発言が、中国大使館の公式ホームページにも掲載されている。ホームページによれば、アメリカのINF条約破棄に対して、華春瑩氏は「完全な間違い」「脱退するまえに2度考えるべき」「悪い影響がある」と発言したとしている。

アメリカのINF条約からの撤退はさらに攻撃的な核兵器態勢と不安定化の兆候である、と中国の専門家たちは警告している。これらの主張は、中国国営メディアにも掲載されており、しばしば中国政府の方針を反映しているものだ。

中国人民大学の政治学者である殷弘則氏は言う。「当然、中国はさらなる中距離弾道ミサイルの製造で対応するだろう。これが軍備競争の理論である」「もしもアメリカがグアム島、あるいはその他太平洋の諸島に対中国用の中距離弾道ミサイルを配備するなら、中国はアメリカの脅威に対抗するだろう」

ひとたびINF条約が取り消されれば、米中間の軍備競争は大いに激化する、と殷弘則氏は主張している。(台湾YAHOO!奇摩ニュース、2018年10月22日付)

日本の菅義偉官房長官は、アメリカのINF条約破棄について、「条約が終了せざるを得ない状況は望ましくないが、米国が発表するに至った問題意識は理解している」と述べた。(時事ドットコムニュース、2019年2月4日付)

USCCレポートは、アメリカのINF条約破棄で、「特に菅官房長官は、アジア地域での軍拡競争が誘発される可能性と、北朝鮮の軍備縮小のための交渉が複雑化することを心配している」と書いている。

■筆者プロフィール:洲良はるき

大阪在住のアマチュア軍事研究家。翻訳家やライターとして活動する一方で、ブログやツイッターで英語・中国語の軍事関係の報道や論文・レポートなどの紹介と解説をしている。月刊『軍事研究』に最新型ステルス爆撃機「B-21レイダー」の記事を投稿。これまで主に取り扱ってきたのは最新軍用航空機関連。

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