<著者が語る>直接統治「一君万民」への流れが高まる―「中国化する日本」執筆の與那覇潤氏

Record China    2012年7月20日(金) 7時49分

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話題の書「中国化する日本」の著者である與那覇潤氏は、最近の「橋下大阪維新の会」への人気集中、首相公選制への高い支持率などを事例に挙げ、「日本では直接政治体制を希求する『中国化』の動きが進行している」と強調した。写真は熱弁をふるう與那覇潤氏。

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2012年7月、話題の書「中国化する日本―日中『文明の衝突』1千年史」の著者である與那覇潤氏は日本記者クラブで、自著について語った。「日本では、間接民主主義(議会政治)への不信が高まっている」と指摘した上で、最近の橋下大阪市長による「大阪維新の会」への人気集中、石原東京都知事提唱の尖閣諸島購入を目的とした寄付金集め、首相公選制への高い支持率などを事例に挙げ、「統治者と国民の間の「介在者」を排除して直接政治体制を希求する『中国化』の動きが進行している」と強調した。発言要旨は次の通り。

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中世の昔から日本は「グローバル・スタンダードに合わせるのか、日本独自の道をゆくのか」で揺れてきて、源平合戦も南北朝の動乱も、これをめぐる争いだった。当時、ヨーロッパは後進地域だったので、「グローバル・スタンダード」は「中国標準」のことだった。

日本の歴史でいうと中世に当たる宋代以降の中国の国内秩序と、現在の「グローバリズム」の国際秩序は、よく似ている。形式的には「機会平等」となる条件で自由競争していることになってるが、実態としては権力の「一極化」や富の偏在が起きている。そういう中国=グローバル社会のあり方を受け入れるか否かで国論が二分された。このため日本の中世は激しい内戦状態だったが、結局、「受け入れない」という結論を出したおかげで、近世には平和になった。

江戸時代の「徳川文明」ができ、「日本の国民性」とか「日本らしさ」のようなものはこの時、「中国化」の影響力から脱することで初めて可能になった。日本人にとっては居心地がよかったので心のふるさとになった。

明治維新で制度改革や産業革命を断行して競争社会に変革したが、その後の「昭和維新」では農村を救えとか、ブロック経済で雇用を守れとかが主流となって国家統制国家に戻り、「再江戸時代化」された。戦後も高度成長で地方から人が都会に出てきて大都市圏に集中すると、田中角栄の列島改造とか、竹下登のふるさと創生事業とかで、『古き良き地方社会』のイメージを守ろうとする。小泉改革であれだけ規制緩和とか自由競争と叫ばれたのに、小泉首相が辞めたらあっという間に元に戻った。

今日のグローバリゼーションの核にあるとされる「西洋文明」とは、新参者として後から割り込んできたものだ。ある面では中華文明に似ているが、他の面では日本文明に近い。その結果として、20世紀の半ばまでは日本文明のほうが相対的にうまく適応していたが、冷戦が終わる頃から、「停滞する日本」と「台頭する中国」という構図が出現した。江戸時代は基本的には農耕文明で、そのムラ社会を護送船団方式や日本的経営に改装することで、工業化にも適合させたのが昭和期の「再江戸時代化」だった。資本主義が金融化・情報化・サービス産業化していくとついていけなくなった。

大阪維新の会への人気は橋下徹さんというカリスマ個人への期待だ。複数の国政政党が、全国レベルでマニフェストを出し合って論争したが、行き詰っている。これとは別に地方の首長選挙があり、まず橋下さんという「トップ」一人だけを地域の住民が担いでいる。それを見て「民主主義の危機」と騒ぐ人たちもいるが、ある意味で中国的な「民主主義」といえる。皇帝一人に権力を集中して、その人が既得権益者を排除する。伝統中国では、「選挙」といえば、一人一票で議会の議員を選ぶ投票のことではなくて、皇帝の手足になるスタッフを試験で選抜する科挙を指す。

中国では、貴族が支配していた唐までの既得権益社会を宋がぶち壊し、世界で初めての身分の平等の体制をつくった。これ以来「一君万民」の時代が続いている。今は共産党政権だから「一党万民」と言える。中国の現在の「一極専制」体制は共産党政権ゆえではなく伝統的なものだ。「国家資本主義」は中国の伝統に合致している。

日本では、間接民主主義(議会政治)への不信が高まっている。「橋下人気」だけでなく、石原慎太郎東京都知事が呼びかけた尖閣諸島購入のための寄付金集めも、統治者と国民の間の「介在者」を排除した直接的な政治体制を希求する動きといえる。首相公選制に日本の世論の6割以上が賛成しているが、実現すれば「中国化」になる。原発再稼働反対のデモが官邸を取り囲んだり、住民による国民投票請求が続出している。

生活保護費の問題が政治家の手によって公開裁判のような形となったのは、もはや3権独立の法治国家ではなくなりつつある事例と言える。最近では政治家だけでなく裁判官・検察も信用されていない。

西洋化と中国化のうち、好ましいのは西洋化だが、日本は蓋然的に中国化の道をたどるのではないか。西洋化していると思いこんでいる人が多いが、実際は中国化している。

独ワイマール憲法時代のドイツの法学者、カール・シュミットは間接議会制の問題点を次のように喝破している。「近代の大衆民主主義は、民主主義として統治者と被治者の同一性を実現しよう努めるものであるが、議会制は、その行く手に、もはや理解し得ない、時代遅れの制度として横たわっている」。

與那覇潤(よはな・じゅん)氏

1979年生まれ。東京大学教養学部卒、同大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。現在、愛知県立大学准教授。著書に「定刻の残影―兵士・小津安二郎の昭和史」など。(取材・編集/HY)

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