<羅針盤>揺らぐ“戦後秩序”= ビル・エモット著『「西洋」の終わり』の世界―オムロン立石信雄元会長

立石信雄    2018年5月20日(日) 5時0分

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英紙エコノミストの元編集長で国際ジャーナリストのビル・エモット著『「西洋」の終わり』によると、第2次大戦後に民主主義と分権化された社会システムを主導してきた「西洋」といわれる国々の理念が、大きく揺らいでいる。

英紙エコノミストの元編集長で国際ジャーナリストのビル・エモット著『「西洋」の終わり』によると、第2次大戦後に民主主義と分権化された社会システムを主導してきた「西洋」といわれる国々の理念が、大きく揺らいでいる。「自国第一」を掲げるトランプ政権の登場や「中華の夢の復興」を目標とする中国の台頭がこの傾向に拍車をかけていると見ることもできそうだ。第1次世界大戦終結後にシュペングラーが著した『西洋の没落』と、東西冷戦終結後にフランシス・フクヤマ氏が世に問うた『歴史の終わり』にも重なる世界であろう。

エモット氏が言う「西洋」とは、開放性・民主主義・平等性などの理念で成功してきた国」と定義される。米国で「自国第一主義」や保護主義を推進するトランプ政権が誕生したことや英国の欧州連合(EU)離脱、中東での過激派組織「イスラム国」(IS)をはじめとするテロ頻発、さらには中国やロシアに代表される強権的な国家がアジア、中東、南米、アフリカなどで増えている。北朝鮮の核開発問題をめぐる米朝中韓などによる「劇場型駆け引き」も、戦後秩序激変のあらわれと見ることもできるだろう。各国でポピュリズム(大衆迎合主義)が強まっていることも懸念材料。世界を支えてきた普遍的な理念が脅かされていると危惧する。

西洋の民主主義は開放性と平等性が両輪となって繁栄してきた。開放性は時に劇的な変化をもたらし、格差拡大などにより社会の安定を乱すのに対して、平等性は政治決定プロセスを通じて、激変を緩和する役割を果たしてきた。ところが「世界的な金融危機により、人々の平等性に対する信頼が大きく損なわれた」とエモット氏は指摘する。単に所得面の不平等感ではなく、「自分たちの声が政治権力に無視されているという怒りである」と分析。その上で、「先進国の政治は今後数十年、経済の活力を維持しつつ、公共投資などを通じていかに不平等の是正に取り組むかが重要になる」と提言している。

さらに懸念すべきなのは戦後の秩序をつくり主導してきた米国がその秩序を破壊していること。エモット氏は「米国が国際秩序の維持に関わらなければ、ロシアや中国など民主主義体制とは異なる勢力が増大しかねない。国連や世界銀行、世界貿易機関(WTOA)など法を順守する今の国際秩序を損なう恐れがある」と警告している。

イスラエルのアメリカ大使館が聖地エルサレムに移転したことで激化した抗議活動が活発化し、多数の死傷者が出た。こうした事態を受け、国連安保理の緊急会合が開かれ、多くの理事国がイスラエルによる武力の行使を非難。米国の孤立ぶりが改めて鮮明となった。この混乱を受け原油価格が高騰、世界経済に暗い影を投げかけている。

「西洋の終わり」による戦後秩序の崩壊により、世界で地政学的なリスクが高まっていると言えそうだ。

<羅針盤篇25>

立石信雄(たていし・しのぶお)

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC=企業市民協議会)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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