<コラム>中国の留守児童に「良い生活と両親と一緒の生活、どっちがいい?」、少年は即答した

配信日時:2018年4月6日(金) 21時10分
「良い生活と両親と一緒の生活、どっちがいい?」少年は即答した
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3カ月前に久々に帰省し、田舎の小学校を訪問しました。施設や設備といったハード面の改善が進んでいますが、教員不足や教育の質的向上といったソフト面の課題を多く抱えています。写真は筆者提供。
3カ月前に久々に帰省し、田舎の小学校を訪問しました。10年前に訪れた際の様子に比べて私の記憶が覆されるほど大きく変わりました。何の運動器具もなかった土の地面の運動場は樹脂に舗装されたカラフルなグランドになり、教壇がすぐにでも倒れそうで壁に穴が空いていた教室はコンピューターやプロジェクターまで整備され近代的になりました。それに、キャンパスの所々を飾っている花壇、園庭の壁に描かれている絵と漢詩や励ましの言葉、ピカピカなピンポン台で対戦に興じている子どもたち、学校は活気にあふれて美しいところに変わりました。

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2017年に内陸の山奥の学校を訪問した際にも同じ驚きを感じました。近年中国の教育改革では教育格差の是正を推進し、田舎や僻地の教育環境の改善に乗り出していることを知っていますが、実際に確認できるとやはりその変化の大きさに感心しました。

一方、学校教育は新しい問題に直面しています。施設や設備といったハード面の改善が進んでいますが、教員不足や教育の質的向上といったソフト面の課題を多く抱えています。中でも、近年特に注目されているのが留守児童の問題です。

留守児童とは、両親または片親が都市へ出稼ぎに行ったことで故郷に残された子どものことです。たいてい、祖父母に面倒を見てもらいますが、親同然の愛情やケアを得られるわけではありません。もちろん、孫を大切に思う祖父母はほとんどですが、体力や健康がすぐれなかったり、孫を放任したり溺愛したり、時代の激変に追い付けず孫育てに戸惑ったりすることが多いのです。

家庭で適切なしつけを受けていないまま学校に通う留守児童の多くは、学校で教員の頭を悩ませる存在になります。学校が家族に連携を求めても、祖父母は日々大きくなる孫の指導ができず、「言っても話を聞かないもの」で終わってしまいます。

訪問先のこの小学校には約180人の児童が在校しています。そのうち、片親が出稼ぎに行った子どもは半数で、両親とも出稼ぎに行った子どもは4分の1です。両親と一緒に暮らしている子どもは4分の1しかいません。

校長先生は1人の気になる男の子を紹介してくれました。10歳のA君です。A君のお父さんは病気で倒れてしまい、お母さんが出稼ぎに行きました。普段はおばあさんがA君と弟の面倒を見ています。おばあさんは高齢でA君兄弟の面倒を十分にみられず、A君はいつも汚れている服を着ているそうです。やんちゃな子でしたが、最近、急に猛勉強し始め成績も見る見る上昇しています。「よく勉強して将来働いて家族に苦労せずに済むよう生活を送らせたい」と語ってくれた表情は、10歳の子どもに相応しくない早熟な重圧感を感じました。

お母さんのことについて聞くと、彼は懸命にあふれそうな涙を我慢しようとしました。母親を恋しく思う子どもの顔にもどった彼の表情に、同じく小さい子どもを持つ母親としての私の心は痛みました。「良い生活を送ることと両親と一緒に暮らすことが選べたら、どちらが欲しい?」とあえて尋ねてみたら、A君は「両親といっしょに暮らしたい」と即答しました。

ある農村教員の言葉を思い出しました。「農村の教員は都市部の教員に比べて怠けているわけでもないし、農村の子どもは都市部の子どもに比べて頭が悪いわけでもない。でも、農村の教育が遅れている。なぜか、家庭環境が違うのだ」。

幼い子どもであればあるほど、家庭はその子の世界になります。その世界を支えているのは両親の愛情と理解です。留守児童はそれに餓えているゆえに、やんちゃや寡黙で心の寂しさや叫びを封じているのでしょう。しかし、私たちは留守児童の親を責められるのでしょうか。都市と農村を跨る構造的な格差は今も大きいです。それを改善する改革と留守児童に対する公的な支援が何よりも求められるでしょう。

■筆者プロフィール:武小燕
中国出身、愛知県在住。中国の大学で日本語を学んだ後、日系企業に入社。2002年に日本留学し、2011年に名古屋大学で博士号(教育学)を取得。現在名古屋経営短期大学准教授。教育、子育て、社会文化について幅広く関心をもっている。主な著書に、単著『改革開放後中国の愛国主義教育―社会の近代化と徳育の機能をめぐって―』(2014年に日本比較教育学会平塚賞を受賞)、共著『変容する中華世界の教育とアイデンティティ』などがある。2008年10月に世界平和女性連合(WFWP)日本支部愛知県連合会主催の「愛知県女子留学生日本語弁論大会」で最優秀賞を受賞している。
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