<コラム>ちょっと昔の中国の話=ミュージシャンの「ノリのよさ」に国境はなかった

配信日時:2018年3月31日(土) 20時0分
ちょっと昔の中国の話=ミュージシャンの「ノリのよさ」に国境はない
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クラシック音楽の演奏者というと「カタい人なんだろうなあ」というイメージがありますが、実際の演奏者は、結構ハチャメチャで面白い人が多い。このあたり、日本人も中国人も違いはないようです。資料写真。
▼型破りな中国人音大生、日本のオーケストラメンバーの宿泊ホテルに突撃
私が中国に滞在していたとき、特に親しくなった中国人のQ君の話です。中国の名門音楽大学の学生でした。面白いヤツだと思いました。当時の中国人学生としては、言うこと、することが型破りでした。大学が漬け物用に日干ししていた白菜を一緒に盗んで漬物を作るなんてこともしました。楽しかったなあ。

あるとき、日本のオーケストラが北京で公演しました。Q君は、いいかげんなようですが、自分のやらねばならないことには、真剣に取り組む人です。ハングリー精神のかたまりみたいなところがありました。

なけなしの金をはたいて、公演に出かけたのはもちろん、オーケストラメンバーが宿泊していたホテルもつきとめて足を運んだ。自分が専攻する楽器の演奏者に教えを乞おうという、深夜の突撃です。

さいわい、会ってもらうことができた。それまで知る機会のなかった、ちょっとしたコツや、プロの音楽家として必要な心掛けなんてことを、教えてもらえたそうです。

さて、クラシック音楽の演奏者というと「カタい人なんだろうなあ」というイメージがありますが、実際には、結構ハチャメチャで面白い人が多い。音楽のジャンルには関係なく、ノリのよい人の方が、プレーヤーには向いているみたいですね。Q君が教えを受けた日本のオーケストラのメンバーも、そんな人でした。

▼「ホテル従業員のお姉さんと会話したい」との希望を受けて、発音を特訓
Q君の日本語はカタコトのレベルでしたが、意思疎通はできたそうです。雑談にも花が咲きました。すると、その日本人が言い出しました。「中国のホテルの従業員のお姉さんはかわいいよね。せめて、ちょっとだけでも、話がしたい。『私は○○です』という中国語を教えてよ。せめて、自分の名前を相手に伝えてみたい」と。

Q君はとっさに「はい。ウォー・シー・ダースーグイ」と言ってくださいと、教えました。続けて発音を指導。相手は音楽家ですからね、抜群の勘です。中国語の発音で大切なイントネーション(声調)も、しばらく繰り返してマスターした。中国語はまったくできない人ですが、「ウォー・シー・ダースーグイ」の発音だけは完璧です。

さて翌朝、そのオーケストラメンバ―が、ホテル従業員のお姉さんに声をかけた。

「ウォー・シー・ダースーグイ」、「ウォー・シー・ダースーグイ」――。

ホテルのお姉さんは一瞬ぎょっとした顔をした。そばにいた同僚と顔を見合わせる。そして2人とも笑い崩れる。

日本人はさらに繰り返します。

「ウォー・シー・ダースーグイ」、「ウォー・シー・ダースーグイ」――。

男性として、若い女性を笑い転げさせて、気分が悪いはずがない。「ウォー・シー・ダースーグイ」を連発したそうです。その日のステージは、朝からのよい気分のまま熱演できたとのこと。

▼音楽家の「しょうもないイタズラ」に国境はなかった
「ウォー・シー・ダースーグイ」を漢字で書いてみましょう…「我是大色鬼」。

日本語にしてみれば、「私はドスケベです」となる。いや、ちょっと違うな。

中国語では、「欲望の対象」+「鬼」の組み合わせで、自制心が効かないほどのめり込んでしまう人を形容することがあります。「酒鬼(ジウグイ)」なら「酒に目がない人」つまり「酒飲み」、「煙鬼(イエングイ)」だったらたばこをやめられない人です。前に「大(ダー)」をつければ、強調形です。つまり「大酒鬼」なら「大酒飲み」といったニュアンスです。

「大色鬼」の場合は、「見境いなく色の道にのめり込んでしまう人」で、日本語ならばむしろ「女たらし」といったニュアンスです。

さて、その日本人オーケストラメンバーは、朝っぱらからホテルの若い女性従業員に向って朝から真面目に、「私はドスケベです!」あるいは「私は女たらしです!」と連呼していたことになる。もちろん下心ある表情ではなく、あくまでもさわやかな表情でコミュニケーションに挑戦していたというわけです。

まあ、言われた女性従業員もそのあたりは分かります。笑ってしまうしかなかったのでしょう。

Q君からこの話を聞き、私はひとつの決意を胸に秘めました。「これはニッポン人として、いつか同胞の仇をとらねばならぬ」と。私の仇打ちが成就するのは、それから3年ほど後のことでした。

■筆者プロフィール:如月隼人
日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。
※掲載している内容はコラムニスト個人の見解であり、弊社の立場や意見を代表するものではありません。
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