<中国気になる話>政府の「地上げ」と戦う住民=その武器はインターネットだった―広西チワン族自治区

Record China    2010年10月15日(金) 20時23分

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ブログ「Kinbricks Now」は、広西チワン族自治区北海市白虎頭村の強制土地収用事件について取り上げた。陳情や司法など合法的手段による解決の道を断たれた住民は、インターネットを武器に地方政府との戦いを繰り広げている。写真は北海市銀灘のビーチ。

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2010年10月、ブログ「Kinbricks Now」は、広西チワン族自治区北海市白虎頭村の強制土地収用事件について取り上げた。陳情や司法など合法的手段による解決の道を断たれた住民たちは、インターネットを武器に地方政府との戦いを繰り広げている。

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2010年10月8日午後5時(中国時間)、ノーベル平和賞選考委員会は、中国の民主活動家・劉暁波氏の受賞を発表した。中国政府のネット検閲をくぐりぬけ、受賞を知った中国人ネットユーザーは歓喜に湧いた。そのニュースにある種、かき消された格好となったが、同日にはもう一つ、中国ネットユーザーの注目を集めた事件があった。白虎頭村の強制土地収用である。

同村は広西チワン族自治区北海市銀海区銀灘鎮に位置する。リゾートとして有名な北海銀灘旅行レジャー区に隣接しており、村民たちは漁業のほかに水着の販売やレンタルシャワーなどビーチ関連の商売を手がけ、豊かな生活を送っていた。

その暮らしが脅かされ始めたのは2006年のこと。市政府はリゾート開発を推進するべく、白虎頭村などの土地収用を決めた。その手段は強引きわまるものだった。村民の同意を得ず村民委員会委員長と契約を取り交わしたばかりか、提示した補償金もきわめて安いものだった。村民らは新たな村民委員会委員長を選出し合法的な対応策を模索するも、新任の村民委員会委員長は共産党を除籍され、また「違法経営に関与した」との罪で拘留処分を受けている。

また、村民が市政府と協議する過程で、大規模再開発プロジェクトに必要な国務院(日本の内閣に相当)の認可を得ていないことも判明している。本来は一つのプロジェクトを6つに分割することで、国務院への申請が不要な規模にしていた。これは「以整化零」(全体を小分けする)と呼ばれる、典型的な違法開発の手法だ。さらに村民の抵抗に業を煮やした市政府は、公務員や国有企業従業員の職にある村民に家族を説得するよう指令。説得できなければ解雇すると脅した。

政府の強圧的な姿勢により村民の約90%は立ち退き同意書にサインしたが、現在もなお70戸余りがまだサインしていない。今年10月、北海市政府は警察や司法機関等関連部局を集め、「あらゆる代価を惜しまないで」強制土地収用を敢行すると決議した。

当初は合法的な手段での解決を図っていた村民たちも、「命を賭けて家を守る」と誓い、ガソリンと手製のパチンコで武装を始めた。あるいはガソリンは武器ではなく、焼身自殺用に準備された可能性もある。日本ではほとんど報道されていないが、今年9月、中国中の注目を集めた強制土地収用事件が江西省宜黄県で起きている。県政府の強引な手法に抗議する住民3人が焼身自殺を図り、1人が死亡した。自殺にまで住民を追いやった当局の手法は厳しく批判され、宜黄県共産党委員会書記と県長が罷免される事態に発展した。

断固戦う姿勢を見せた白虎頭村の村民たち。彼らのもう一つの武器がインターネットだった。2008年に村民委員会委員長に就任した許坤氏は、刑事拘留処分を受けるまでの間、ネット掲示板に1000以上のスレッドを立てた。その妻・馮広梅氏はマイクロブログサービス・ツイッターで土地収用に関する情報を流し続け、ネットユーザーに注目してもらうよう呼びかけた。

いくつかその発言を紹介しよう。

「一昨日、店に工商局の役人2人が来ました。営業許可がなければ、店を運営することはできないという通知を持ってくるためです。もともと許可書はあったのですが、2009年の検査を受けさせてもらえず、全ての営業許可証(工商、税務、衛生、消防など)が執行したのです。工商局は、私たちの店はすでに土地収用区画に指定されており、新たな営業許可証の発行はできないと言っています。」(2010年5月18日)

「こんにちは今日は許坤が拘束されて18日目です。現在、彼がどんな状況に置かれているかはわかりません。手紙や服、お金を贈っていますが、受け取ったかどうかもわかりません」(2010年6月1日)

10月に入り、ついに強制取り壊しが始まった後も、馮広梅氏のツイートは続く。「今朝午前5時前後、武装警官、消防隊員、警察など数千人が許坤の家を囲みました。武装警官は2〜3メートルおきに1人。また犬も連れて来ています。」(2010年10月8日)

馮広梅氏だけではなく、村を支援する人権派弁護士もツイッターで生々しい状況をリアルタイムで伝えている。「朝7時50分、外にあるエアコンの室外機が壊された。強制取り壊しのスタッフのガスカッターによるもの。」(10月8日)「午前8時、許振奮宅の玄関には大量のガソリンが積み上げられ、いつでも日をつけれるようにしている。8時5分、許振奮の息子の妻によると、武装警官は長い棍棒を持って階下を走り回っている。」(10月8日)

これらのツイートは他のネットユーザーによって転載され、瞬く間に広がっていった。白虎頭村の人々と支援者はたんに他の人々に状況を知ってもらいたかったわけではない。ネット世論を動かし、マスメディアの報道が始まり、一般世論にまで火をつけることができれば、現在進められている強制取り壊しを中止させることができるのではと期待したためだ。

ネット世論が地方政府の決定をくつがえした前例はわずかとはいえ存在する。2007年、湖北省武漢市では「史上最強の釘子戸」(釘子戸とは、まるで釘で打ちつけられたかのように立ち退きを断固拒否する住民のこと)と呼ばれる事件が起きた。周りを掘り下げられ、まるで塔のようになった敷地。ある種、ユーモラスにも見える事件は中国ばかりか、世界中の注目を集めた。最終的に住民は巨額の補償金を手にしている。

同じく2007年には「アモイPX事件」があった。アモイ市が台湾のパラキシレン工場を誘致しようとしたところ、住民の反対運動に遭いついに建設地を変更したというもの。反対デモを行えば違法行為として処罰されてしまうため、反対派住民たちは「たまたま同時に」市庁舎前を散歩するという方式で、市政府に圧力を加えた。上海市のリニアモーターカー延伸計画も住民の反対運動の前に建設は遅れている。

ネットユーザーもこうした事情を理解した上で、情報転載による支援を進めている。その中の1人である、ある高校3年生のツイッターユーザーについてご紹介したい。中学時代より日本アニメファンだった彼は、白虎頭村の情報を日本語に翻訳、ツイッターでつぶやき始めた。

「なぜ日本語への翻訳を始めたのか」と電話で取材したところ、「体が弱いので学校に行けず、家でツイッターをしていたところ、たまたま目についた。できることをやりたいと思った」と返答している。白虎頭村について日本のマスメディアは伝えていないが、彼のつぶやきをまとめたサイトにはすでに1万弱のアクセスが集まっている。つぶやきを見た日本人ブロガーが取り上げるなど、静かに広がりを見せているようだ。

中国国内で情報が広まるにつれ、中国のマスメディアも事件に注目し始めた。白虎頭村の問題は今春よりマスメディアから消えていた。規制があったものと思われるが、南方都市報などいくつかの新聞社が記事にしている。また記事にしないまでも、大手メディアの記者が現地に押し寄せたことで、市政府も強硬手段をとりづらくなっている。

馮広梅氏のツイッターには、「6月(10月の誤りか)12日。昨日、裁判所から土地収用協議にサインしていない3戸の住民に対し、強制執行の通知書が送られた。3日以内に明け渡すように要求している」(10月13日)との書き込みがあり、事態はいまだ余談を許さない。しかし、強引な立ち退きがやりづらくなったことで、補償金の引き上げなど交渉が行われる可能性も出てきている。

最後になぜ北海市政府がこれほどまでに強引な手段を使っているのかについて触れておこう。12日付南方都市報は、北海市の強引な土地収用は白虎村に限られるものではなく、各地で繰り広げられていることを明かしている。その強引な手法が違法であると裁判所が判決を下したこともあったが、無視しているという。

北海市政府は2020年まで市街地人口を100〜120万人、面積を140平方キロメートルに拡大するとの計画を立てている。現在の市街地人口は58万人、面積は71平方キロメートル。大規模な土地収用と再開発を推進している。

ちょうどこの原稿を書いている12日、財新網に興味深い記事が掲載された。上述の焼身自殺事件が起きた宜黄県の官僚が投稿した論文だ。強制取り壊しは地方政府にとっても望むものではないが、やむをえなかったとして、こう主張している。「強制取り壊しがなければ、中国の都市化はない。都市化がなければ、各地の「新たな中国」はない。すなわち強制取り壊しがなければ『新中国』はないと言えるのではないか?」、と。

GDPは消費、投資、輸出によって規定されるが、「世界の工場」の輸出とともに経済成長を支えてきたのは、強引な土地収用を背景にした再開発投資であった。その意味で、宜黄県の官僚の主張は正しい。しかし、一方でそうした旧来の手法は限界を迎えつつあることを白虎頭村は示したのではないか。著名エコノミストの謝国忠(アンディ・シエ)氏はインフラ建設を中国の競争的優位だと指摘。中国は政府が強い力を持ち、容易に土地収用を行うことができるとことが、他の新興国との違いだと分析している。一方で官主導の再開発はバブルを生み出し、長期的には中国経済にとってのリスクになるとも警告している。

経済的な視角から見ても、そして住民の権利意識という視角から見ても、強制土地収用に依存する経済成長モデルは限界を迎えつつあるのではないか。上海や広東省などの経済先進地帯ではなく、広西チワン族自治区北海市という場所でネットを駆使した反対運動が起きたことは、この意味でも象徴的である。

「外需から内需へ」「質の向上という産業構造転換」など、中国では現在、改革を求める声が上がっている。「強制土地収用を用いる再開発投資の見直し」も、改革の中に組み入れられるべきものだろう。中国経済の高成長を支えてきた投資モデルの転換、非先進地域での住民権利意識の高まりを示す白虎頭村の事件。その意義は劉暁波氏のノーベル平和賞受賞にも劣るものではないように思う。(筆者:chinanews)

■中国在住経験を持つ翻訳者Chinanews氏は、ニュースサイト「Kinbricks Now」「21世紀中国ニュース」を運営。ネットの流行から社会事情、事件、スポーツ、芸能など中国関連のトピックを幅広く紹介している。

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