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<コラム「巨象を探る」>最大の課題は不動産バブルと所得格差―GDP世界2位に躍り出た中国

配信日時:2010年8月23日(月) 5時58分
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順調な高度成長軌道をたどり、2010年4〜6月期に国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出た中国経済だが、最大の課題は不動産バブルと格差問題。密接に絡み合い深刻な影を落としているその実態を探った。

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中国の不動産販売価格上昇率がピークに達したのは今年4月。全国平均は前年比12.8%アップで、特に深セン(17.9%)、北京(14.7%)などの上昇が顕著だった。この事態を受けて4月17日に「一部都市の速過ぎる不動産価格上昇を厳に抑制することに関する国務院通知」が発令され、不動産取引に厳しい制約が課されることになった。

このため5月以降、主要都市を中心に不動産取引が急減。不動産価格については、それまでの価格上昇が特に大きかった北京の新築マンションで、20%も下落した事例もあるという。ただ、不動産バブルによる巨額の利益蓄積で経営体力のある業者が多いため、物件を売り急ぐケースは少なく、大幅下落にはつながっていない。

先行きについても、金融政策が引き締めどころか緩和基調に転じる可能性があることもあって、不動産業者は 2007年10月以降の急激な引締め局面のように早期売却で資金手当てしなければならない状況ではない。したがって、取引量と価格がやや下落した後、早ければ年内にも徐々に回復に向かう可能性があると見られている。

大都市の住宅、庶民には高過ぎて手が届かず

短期的には政府の対応策によりバブル=価格高騰が抑制される見通しだが、長期的には本質的な大きな課題が横たわる。中国が不動産問題で直面するのが極端な所得格差の存在だ。一般庶民にとって主要都市の利便性のある地域の不動産物件は非常に高過ぎて、全く手が届かない水準で高止まりしていることだ。

たとえば、日本の東京圏でも通勤時間1時間ぐらいの住宅なら一般庶民でも購入可能だが、上海や北京の場合、そのレベルの物件も一般庶民には手が出せないほど高額になっている。そのため、上海での自家所有をあきらめ、自家取得のためにやむなく転職して相対的に不動産価格の安い地方都市に引っ越す事例すらあるという。

中国経済に詳しい瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、中国でこれほど不動産価格が上昇した理由として、「所得格差の拡大」を挙げる。1990年の都市住民と農民との平均的な所得格差は 2.2対1だったが、2009年には3.3対1にまで格差が拡大した。さらに都市住民の間の格差も拡大している、という。

たとえば、日本では大学新卒の平均年収は約300万円で、代表的自動車メーカーの社長の年収は1億円程度。その格差は30倍強。一方、中国の大学新卒の年収は4万元程度(約52万円)であるのに対し、代表的な優良企業の社長の給与は5000万元(約6億5000万円)にも達する。

富裕層は一層カネ持ちに、貧困層は一層貧乏に

その格差は実に1000倍以上。都市住民の階層別所得総額シェア統計を見ると、最近20年間で「最上層・上層」の所得総額に占めるシェアが5割も拡大したのに対し、「最下層・下層」は半減し、「富裕層は一層カネ持ちに、貧困層は一層貧乏に」という図式が鮮明になった。これほど大きな所得格差があれば、中低所得層に属する一般庶民には主要都市の通勤可能な圏内の物件が手に入らないのは当然だ。

瀬口研究主幹は不動産保有税課税のような不動産市場に直接影響を及ぼす対策も有効としながらも、「中国特有の不動産問題を抜本的に解決するためには、所得分配の公平化を図るための仕組みを導入することが不可欠だ」と強調。具体的に(1)所得税の最高税率を引き上げ累進性を高めること(2)中国には相続税制度がなく富裕者層が再生産されやすいため累進度の高い同税の導入(3)贈与税の導入―などを提言している。(筆者・八牧浩行) <巨象を探る・その7>

<「巨象を探る」はジャーナリスト・八牧浩行(株式会社Record China社長)によるコラム記事。=Record China>

■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役、編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。現在、日中経済文化促進会会長。Record China相談役・主筆。著著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。
※掲載している内容はコラムニスト個人の見解であり、弊社の立場や意見を代表するものではありません。

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