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夢見るように花開く睡蓮の池。多くの人々に知られ、愛されるモネの作品とあえて同じ素材を選び、夢も幻も粉々に打ち砕くような絶望を描き出す中国の若手油彩画家・鉄心。蓮の花が汚れ、病み、朽ちていくその光景は、現代人の心の病巣を描いているようだ。
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蓮池を油彩で描いた絵画と言えば、ほとんどの人がモネの作品を連想するだろう。やわらかな色彩と光に包まれ、夢見るように花開く睡蓮は、世界中の人々に愛されている。中国の若手油彩画家・鉄心(ティエ・シン)はあえて同じ素材を選び、「蓮池に見る夢(荷塘追夢)」と題した連作に挑んだ。
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中国人にとっての蓮の花は「汚泥より出で、而も染まらず」―泥の中から生えてきてなお泥にまみれず、清らかな姿を見せる―との言葉通り、無垢や清廉さの象徴である。しかし、鉄心の作品は、モネの絵画に漂う美しい幻も、中国人が蓮の花に寄せる夢も粉々に打ち砕くような殺伐とした絶望に彩られている。
何物にも汚されるはずのない蓮の花が汚れ、病み、朽ちていくその光景は、現代人の心の病巣を描いているようだ。精神に巣くう退廃、枯渇、迷い、乱れ……それらに毒されまいとしながら、知らず知らずのうちに、病魔は池いっぱいに蔓延している。(文/山上仁奈)
●鉄心(ティエ・シン)
中国の油彩画家。1971年生まれ。青島大学卒。現在は山東服装学院芸術学部で教鞭を執るかたわら、美術雑誌「新芸術」の編集長、山東省泰安油彩画学会副会長などを務める。油彩画のほか、パフォーマンス・アートや詩の創作も行っている。代表作に「蓮池に見る夢(荷塘追夢)」「紙飛行機(紙飛機)」「あの年(那一年)」など。
写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)
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