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対象物の描写ではなく画面全体の秩序構築に重きを置いた油彩画家・許[王奇]の作品。二次元構成に徹して編み出されたシンプルかつ静謐な空間は、作者自身の孤独・憂鬱・神秘への憧憬などを、寡黙に、しかし詩的に描き出す。最小限の言葉が、雄弁に胸の内を語るように。
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キャンバスから覗く世界が三次元的に展開する、いわゆる写実描写の技法は19世紀には完全に飽和を迎えた。現代美術において、絵画は原点への回帰をはじめる。絵画を二次元空間として再認識・再構成することは、ファインアートあるいはデザインの領域に、再び新鮮な感覚を与えることになった。天津美術学院の祁海平(チー・ハイピン)副教授はそう前置きしながら、まさにこの流れを踏襲する若き女流油彩画家・許[王奇](シュー・チー)を評している。
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許の作品はオブジェクトそのものの描写よりも、各要素を用いた全体の秩序構築に重きが置かれている。青空、建築物の壁面、路地、階段空間などは平面構成の素材として抽出され、光線・陰影・空白を加えてシンプルかつ静謐な空間を編み出す。これら生活空間から採取された断片が、作者自身の孤独・憂鬱・神秘への憧憬などを、寡黙に、しかし詩的に描き出す。最小限の言葉が、雄弁に胸の内を語るように。
許自身は絵画に対する思いについて、「現実世界の描出は単なる“再現”作業ではない、それは潜在意識に宿る恒久的な情感を表現することだ」と語っている。(文/山上仁奈)
●許[王奇](シュー・チー)
中国の女流油彩画家。1981年生まれ、山西省臨汾市出身。2003年、山西大学美術学院油彩画学部卒。2007年、天津美術学院油彩画学部の修士課程を修了。2008年以降、天津美術学院で教鞭を執る。代表作に「月光の下」「赤の区域」「依恋」など。
写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)
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