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新進気鋭の油彩画家・馬沖は「風まかせ」と題した連作で、自身のライフワークである旅の道のりを作品に落とし込んでいる。旅先で受信した無味乾燥なGPS画像を用い、そこに絵筆を落とすことで、画面は情緒的色彩を呼び戻し、彼女自身の内心の世界を語り始める。
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新進気鋭の油彩画家・馬沖(マー・チョン)はここ2年ほど、自身のライフワークである旅を題材とした作品に打ち込んでいる。こう聞くと別段新しい題材にも思えないが、その表現手法がデジタル時代にふさわしいユニークなものとなっている。
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荘子の「逍遥遊篇」で詠われているように、時空を超え、客観的現実から解放され、主観的幻想に生きる人生観が彼女を旅に向かわせ、連作「風まかせ(任逍遥)」に結実した。この「風まかせ」というキーワードはそのまま、彼女のライフスタイルも反映しており、さらに創作を通じて、精神の理想郷を求める旅程を示しているのである。
作品は、旅先で受信したGPS画像を加工している。デジタル化された衛星写真は本来の自然景観をただの電子記号に変換し、そこには人間の感情など入る余地はないように思われる。しかし彼女は、自分自身の視点とは異なった角度から見た風景がもたらす驚きに心を奪われたのである。あまりに遠距離から撮られた画像は具象性を失った無味乾燥なものだが、そこに馬沖が再び絵筆を落とすことで、画面は情緒的色彩を呼び戻し、彼女自身の内心の世界を語り始める。(文/山上仁奈)
●馬沖(マー・チョン)
1983年、河北省唐山市生まれ。油彩画家。天津美術学院・総合絵画学部卒業。現在、同学院の大学院に在学中。代表作に「風まかせ(任逍遥)」「心図」「山」など。
写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)
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