【週末美術館】水墨人物 ―古典に芽吹く自由な魂―

Record China    2008年12月13日(土) 14時43分

拡大

天安門事件後に起こったムーブメント「玩世現実主義」を代表するアーティスト、王勁松。中国におけるコンセプチュアル・フォトの開拓者としても有名だが、固定観念に捉われないその自由な創作魂は、彼の出発点である水墨画にも芽吹きを見せている。

(1 / 8 枚)

「ポスト89(天安門事件以降)」を代表し、「玩世現実主義」とも呼ばれるアーティストの王勁松(ワン・ジンソン)。近年は写真作品の創作が目覚しいが、本来は水墨画、油彩画、映像、パフォーマンス、インスタレーション、音楽などと多彩な活動で知られている。

その他の写真

「玩世現実主義」とは89年の天安門事件後、伝統を嫌いつつ現代アートの潮流にも迎合しなかった芸術家らを定義したムーブメント。アイロニーや嘲笑、からかい、批判などのスタンスで現実生活を描くのが特徴だ。王勁松もこの流れに沿った形で、数々の“社会派”作品を世に生み出す。その出発点は国画(水墨画)だったが、あらゆる表現媒体を模索した後、「観念撮影(=コンセプチュアル・フォト、概念写真)」の開拓者として一躍、名を馳せることとなった。無思慮な都市の現代化を訴えた「百拆図」、一人っ子政策の弊害を表出する「標準家庭」、消費社会の凄惨さを描く「繁栄」などはいずれも、街角でごく普通に見られるゴミ置き場や古ぼけた民家、一般市民の家族らを被写体としながら現代社会に潜む問題をあぶりだし、高い評価を得ている。

しかし、王自身は「玩世現実主義」や「観念撮影」といったカテゴライズには少々懐疑的だ。「評論家は往々にして、我々の作品をひとつの概念やジャンルにくくろうとするが、それは単に彼らにとって便利だから。僕自身は『自分の作品が果たして芸術なのか否か?』すら考えたことがない。観念的なものに縛られるのは嫌いだ。ただ自分のアイディアを最も適切な手法で表現したいだけ」としている。

そんな彼の出発点ともなった水墨画の世界に目を向けてみる。王の長年の友人で音楽評論家の黄燎原(ホアン・リャオユエン)は、王の水墨作品群を評して「多ジャンルで『時代の寵児』ともいうべき活躍を見せている王勁松が、こと水墨に至ってはあくまで伝統技法を守っている。『現代水墨』『実験水墨』などそれらしき名前を与えようが、水墨は水墨であり、現代美術からは置いてきぼりをくらった存在であるということを、彼は熟知している。それを逆手にとって伝統に固執する姿勢は、むしろ先鋭的、前衛的であると言えるだろう」としている。連作「水墨人物」では、無彩色の画面にスピード感と動力みなぎる筆致が走り、豪放で精悍な男性像が描かれる。黄燎原の評する通り、手法そのものは真新しくないものの、水墨画から連想されるような優美さや幽玄とは無縁で、文字通り「観念」に捉われない彼の自由な精神を反映しているかのようだ。(文/山上仁奈)

写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津

●王勁松(ワン・ジンソン)

1963年生まれ、黒竜江省綏稜県出身。浙江美術学院中国画学部人物学科卒業。天安門事件後に起こったムーブメント「玩世現実主義」を代表するアーティスト。中国におけるコンセプチュアル・フォトの開拓者としても有名。現在、北京教育学院美術学部で教鞭を執るかたわら、水墨画、油彩画、映像、パフォーマンス、インスタレーション、写真、音楽など幅広いアーティスト活動を展開している。

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。

写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携