【週末美術館】漆黒の陰影

Record China    2008年11月22日(土) 15時16分

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絵画の枠を超えた自在な表現を操る抽象水墨画家の陳紅汗は、内在意識の表現よりも、その「表現過程」に着目した作品群が主立っている。単なる表現ツールが、意味を持った情報へ転化するプロセスは、あたかも原始から現代への文明の進化過程を象徴しているかのようだ。

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「果たしてこれは水墨画と言えるのだろうか?」「そもそもこれは絵画と呼べるのだろうか?」抽象水墨画家・陳紅汗(チェン・ホンハン)の作品はかつて、そのような論議を生んだこともある。絵画か否か?を論じるまでもなく、その表現手法は映像、インスタレーション、パフォーマンス・アートにまで多岐に及ぶ。

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陳紅汗が主に取り組んでいるのは「内在意識の表現過程」と総括することができるかもしれない。われわれに内在する意識が表現されるとき、それはありのままの形で表出することはない。文字・記号・画像・音声・身体言語などさまざまな媒介が、空間と時間を借りて初めて外的世界に現れるのであり、媒介の存在なくしては、表現はなしえない。すれば、より重要な意義を持つのは、意識という主体そのものなのか、それとも媒介なのか?陳紅汗は、むしろ意識よりも、媒介が表現へと転換する過程をより重視しているように思われる。また、本来“画家”であるにも関わらず、「文字」という媒介に注目した作品群が特に多く見られる。ゆえに、冒頭のような論議が起こるのは、無理もないことかもしれない。

「玄影(漆黒の陰影)」と題された作品群は、文字表現のツールである墨をモチーフとしている。中国人にとって伝統的な文筆表現の道具であり、もちろん、中国文化のシンボルである点が興味深い。単なる物質としての墨が、情報としての意味を持った文字へ変身を遂げようとする過程を切り取ったようでもあり、あるいは、顕微鏡のレンズの向こうにうごめく有機的な微生物のようにも見える。それは原始から現代へ、文明の進化過程を象徴しているかのようだ。(文/山上仁奈)

●陳紅汗(チェン・ホンハン)

中国の現代アーティスト。1969年生まれ、安徽省六安市出身。パリの国立美術学校で視覚芸術を専攻。01年からパリに移り住む。05年にパリで芸術評論雑誌「Le Couteau de Paris」を創刊。07年に帰国し、活動拠点をパリのほか、北京、天津などにも広げる。現在は天津美術学院現代アート学院講師、アート雑誌「十方」副編集長などを務める。水墨画にさまざまな実験的要素を取り入れた「実験水墨」アーティストでもある。作品は絵画にとどまらず、インスタレーションやパフォーマンス・アート、映像作品など多岐に渡る。06年には映画制作にも乗り出し、スイス人監督Klaus PAS氏との共作「漂流(中国語題:漂移)」や「小仇」などを制作している。

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。

写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)

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