【週末美術館】求道 〜油彩画が見せる摩訶不思議な世界〜

Record China    2008年9月20日(土) 17時12分

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古典的な油彩の手法を執り、シュルレアリスムの絵画世界を展開する徐松波。現代美術という荒れ果てた荒野に一条の光を見出すべく、自己の路をひたすら追及する孤高のアーティストが心に抱く理想に迫る。

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中国の現代美術を牽引する新進気鋭の画家のひとり・徐松波(シュー・ソンボー)は、油彩画という極めて古典的な表現手法を用いながら、キャンバスの中に、ある種奇抜とも言える摩訶不思議な世界を展開する。しかしそれは決して、奇をてらったものではない。その作品には、より本質的な芸術への渇望がこだましているのである。

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徐松波は、自身が身を置く中国の現代アート界に危機感を抱いている。海外のアートシーンから長らく隔離されていた中国アート界は、この20年という短期間にめまぐるしく世界の美術史を一巡した。絵画、彫刻など従来のファインアートにおいて、各国・各時代の表現様式をくまなく吸収したのはもちろんのこと、現代美術の領域でも、映像やパフォーマンス・アート、インスタレーション(装置を用いて空間構成を行う体感芸術)などさまざまな新しいメディアを慌しく「消費」した。

しかし、それはあくまで表層をなぞっただけにとどまり、その思想や観念は汲み取られず、体裁のみをつくろったような有様である。西洋の模倣にかまけた中国アートは、自国本来の文化継承すらも怠り、アイデンティティを失いかけている……こうした現代芸術の空虚を憂いた徐松波は自身の作中に、歴史上の人物「玄奘三蔵」を象徴的に登場させることによって救いを求め、またひとつの回答を提示した。これが「求道(道問)」と題した連作である。遥か西に仏典を求めて過酷な旅路をたどった玄奘三蔵の精神こそ、現代アートに欠けているものだと、徐は断言する。

ルネ・マグリットやサルバドール・ダリなど、シュルレアリスム(超現実主義)の作家の影響が色濃い画面には茫漠とした荒野が広がり、寒々とした空中楼閣が現れ、その中を1人の求道僧が黙々と歩いていく。それはまるで「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」など宮崎駿作品に登場する世界観を髣髴とさせ、日本アニメからの影響がはっきりと見て取れるが、その中を古代中国の人物が横切っていく様は、彼ならではの着想といえよう。使い古された表現手法の中に、新しい発見を求める彼の試みが見て取れる。

長い歴史の中で人類が勝ち取った現代化。しかし人類はいまだ、打ち勝てない病を抱え、大自然を克服できず、さらなる幸福を求めている。人類の飢えは満たされず、目の前に広がるのは、やはり殺伐とした荒野だ。こうした中で、淡々と、しかし着実に、孤独ながらも満ち足りた気持ちで、穏やかな自信を秘めて、ひたすら自分の道を追及した玄奘三蔵。徐松波はその姿に自分のあるべき姿を重ね、現代アート界を理想郷に導くべく、筆を執り続けている。(文/山上仁奈)

●徐松波(シュー・ソンボー)

1971年生まれ、河南省南陽市出身の画家。2005年に中国最高峰の美術大学・中央美術学院の壁画学部を卒業、同年から天津美術学院現代芸術学院で教鞭を執る。油彩画作品は特に高い人気を誇り、キャンパスに描かれた摩訶不思議な世界は見る者を捉えて離さない。

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。

写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)

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