<コラム>韓国の犬肉料理で私は純潔を奪われたような気分になった

木口 政樹    2018年3月7日(水) 15時20分

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韓国の栄養料理と言えばボシンタン。ボシンタンは漢字で書けば「補身湯」となって、体に栄養をつけ補強するための食べ物である。韓国では犬の肉を料理したものをこのように呼んでいる。写真は犬肉料理。

韓国の栄養料理と言えばボシンタン。なんて書いたら韓国の人に叱られるかもしれない。栄養料理は他にも山ほどあるからだ。でもいまでもファンの多い韓国料理としてはやはりボシンタンを挙げないわけにはいかないだろう。ボシンタンは漢字で書けば「補身湯」となって、体に栄養をつけ補強するための食べ物である。韓国では犬の肉を料理したものをこのように呼んでいる。

日本では馬の肉を食べるが、韓国では馬の肉はふつう食べない。馬肉を食べると言うと、こちらの人はみんなちょっと引く。国によって習慣がちがい、食べ物もちがうのは言うまでもない。だから犬を食べるということについてなんら偏見はなかった。しかし自分が犬を食べるとなると、ことはちょっとちがってくる。やはりあの可愛い目をした犬を食べると思うと、どうしても口がついてゆかないのだ。これは子どものころからの習慣で、犬は見るだけにしていたということが大きく作用しているのであろう。他人が食べるのにどうのこうの言うわけではないが、自分が食べるとなるとやはり拒否感がある。

そんなある日、それは土曜日だったような気がする(時間軸は重要じゃないけど、だいたい20年くらい前か)。暑い盛りだった。うちのお昼ごはんで「ユッケジャン」が出た。ユッケジャンはわたしの好物の一つだ。牛肉の辛煮とでも言ったらいいだろうか。

「おっ、きょうはユッケジャンか。いいね」とわたし。「時間かかったのよ」と妻。そうか、苦労して作ってくれたんだな。それじゃ、おいしく食べてあげようじゃないか、ということでその赤黒い汁を口に運んだ。いつも食い付けているユッケジャンの味とはなんとなくちがうような気がしたが、料理はいつも必ずしも同じ味とは限らない。

塩加減、どんな野菜が使われているのか、唐辛子をどのぐらい入れてあるか、煮込みの時間はどうか、などによって味はその都度ちがってくるはずだ。つべこべ言わずとにかくおいしそうに食べよう。それが妻に対する礼儀だ。実際、まずくはないのだし。

「うまいね。でもなんとなくいつもの味とはちがうような気もするけど…」などと言いながら無事昼ごはんは終わった。夕ごはんの時間になった。そのユッケジャンがまた出てきた。いやあ、これはまいったな。まずくはないけどまたかよ。そんな気持ちだった。気持ち的にブレーキのかかる感じがあったからかもしれないが、なんとなく生臭い感じが口の中に蘇ってきた。

「ユッケジャンか。食べられないことはないんだけど、なんとなく生臭いような気がして、昼も晩も続けて食べるのはちょっと気が引けるけどな」とわたしは思わず言ってしまった。すると彼女、言いにくそうにしながら、「あれ、実はボシンタンだったのよ」と、のたまった。

えー!犬の顔が脳裏に浮かんでは消える。口の中でもがく犬の気配がする。これはたまらん。とうとう食べてしまったか。犬を。そんな気持ちだった。妻は体にいいからと近くの店に行ってボシンタンの原料となる食材を買ってきて、家で料理して出したわけだが、なんとなく生臭さは残っていたんだ。わたしは完全にその気になって(つまりユッケジャンのつもりで)食べていたから、気づく方がおかしいくらいだったんだが、この口は味に対してまだ老化してはいなかった。やっぱ犬だったんだ。とうとう犬を食べたか。処女を奪われたような気持ち、と言ったらわかりやすいだろうか。

心にもなく純潔を奪われたような気分だった。あきれて怒る気にもならなかった。家族みんないっしょに食べたのだが、妻と娘は平気だ。わたしのそばで笑っている。「オレの味覚もまだけっこういけてるね」などとうそぶきながら、「処女喪失」事件は一件落着となった。

■筆者プロフィール:木口政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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