<コラム>アリババの打倒偽物レポートに見る中国の知的所有権の進展、偽物天国は今や昔?

高野悠介    2020年1月31日(金) 10時20分

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1月上旬、アリババは公安部門とのセミナーにおいて「2019阿里巴巴知識産権保護年度報告」を発表した。写真はEコマースが産業の中心となっている「タオバオ村」。

1月上旬、アリババ(阿里巴巴)は公安部門とのセミナーにおいて「2019阿里巴巴知識産権保護年度報告」(以下報告)を発表した。通称「阿里打假年報」といい、ようするに偽物商品追放の活動をまとめたレポートである。かつて出張や観光で中国を訪れたほとんどの日本人は、何かしら偽物商品の思い出を持っているはずだ。中国最大のネット通販、アリババの「淘宝網」でも偽物が出回っていたのは、周知の事実である。現在、知的財産権保護活動はどのようなレベルで行われているのだろうか。

■アリババの取組みがスタンダードに

報告によれば、オープンプラットフォーム・知識産権保護科技大脳が活動の中心である。アリババと協力し偽物商品を摘発する法執行機関は、2018年の227カ所から、2019年は439カ所、1年で93%増加した。彼らに摘発された容疑者は、2018年の1953人から、2019年は4125人に111%増加している。

2019年末、中共中央辯公庁と国務院辯公庁は「知識産権保護強化に関する意見」を公開した。それに対する各界の反応は、飲酒運転の根絶と、偽物の排除は、同様に大切、などと好意的なものだった。また国家知識産権局発表の「中国電子商務知識産権発展研究報告(2019)」では、テクノロジーのパワーと“多元共治”によって偽物を排除する“アリババモデル”を中国社会に推し進める、と表明している。アリババの取組みは、知的所有権保護のスタンダードとなった。

■プラットフォームの信頼性は上昇

また報告は2019年、消費者とブランド所有者、双方の通販プラットフォームへの信頼は、空前の上昇を見せたと指摘している。アリババグループの管理部門によれば、2019年、アリババの通販プラットフォームは、権利の侵犯が疑われる事例の96%を事前に防いだ。そしてそれらは、24時間以内に処理し終えた。ユーザー数は9000万も増加、ブランド権利保持者も20%増加しているにも関わらず、である。権利侵犯事例はここ5年間で67%減少した。

■具体的な活動

ある偽造団は、7年間、32回にわたり、知識産権保護科技大脳の突破を試みた。友人のアカウントを通じて、プラットフォーム内へ出店しようと、電子産品、バッグ、スキンケア、口紅などさまざまな偽物でチャレンジしたが、果たせなかった。

知識産権保護科技大脳は、通販店舗、商品発表会、営業活動までカバーしている。そして億を超える商品特性データ、100を超える計算モデル、異常取引警告などのシステムを持つ。これらデータは、中国の国家図書館186館の蔵書量に相当するという。

2019年7月、米国下院司法委員会の副委員長は「アリババの偽産品検査技術は、米国のプラットフォームより数段進んでいる」と発言した。

また同月、中国の警察はアリババの技術を用い、アラブ首長国連邦の18億元(280億円)にのぼる“世界最大の偽ルイヴィトン事件”の全容解明に協力した。偽物がアリババのプラットフォームで販売されることはなかった。

■まとめ

そしてアリババはセミナー終盤、公安、司法、市場監督部門関係者を前に「打假無疆」プラットフォームを公表した。知識産権保護科技大脳をさらに発展させ、芽台酒、五粮液青島ビール、Bose、ファーウェイシャオミ、オルドスなど国内外の有名50ブランドが参加を表明している。

ジャック・マー前会長が、中国の偽物は本物より優れているものもある、という類の発言をして物議をかもしたのは、ほんの5~6年前である。当時、淘宝サイトには偽ブランド品があふれていた。今は昔である。AIの力で中国は大きく変わった。打倒偽物レポートも、当初の自画自賛から本物へ変わりつつあるようだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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