<コラム>ちょっと昔の中国の話=ポン引きをドン引きさせてしまった

如月隼人    2018年2月26日(月) 23時20分

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そのとき、電話が鳴りました。受話器を取ると、相手はご当地なまりらしき言葉で話しはじめました。「ヨッ、シャオヂエマ?」―と聞こえる。写真は中国のホテル。

今回は、私が留学を終えて日本に帰国してからの話です。世話になっていた先生のお供をして、中国に行ったことがあります。先生が現地の大学で臨時に教えることになったので、通訳としてついて行ったのです。ボランティアでしたが、私のあご足分を出せる予算はあるということだったので、「まあ、お世話になっているし、自分の勉強にもなるし」程度のノリでした。

▼中国留学で得られる最大の「財産」は現地の空気を吸いつづけること

中国に長期留学して得られる最大の「財産」は、中国の空気を吸いながら暮らすことです。大気汚染とは関係ありませんよ。アンテナを張り巡らせつつ現地での生活を体験すれば、中国や中国人、中国社会の理解がグンと深まる、ということです。これが財産なのです。ただ、日本に戻るとこの財産は急速に目減りしてしまいます。中国は変化が速い。だから、自分の経験がどんどん古びてしまうのです。

ということで、財産を維持しようと思えば、機会があるごとに中国に行くべきです。だから、通訳としてついてきてほしいと頼まれたのは、私にとってとてもありがたいことでした。

先生のお弟子さん2人も同行しました。どちらも妙齢のお嬢さんであります。地方都市だったので、飛行機の関係で夜遅く到着。翌日には、朝から夕方までの授業が始まりました。結構、ハードでしたね。数日間の授業を終え、最後の1日だけは観光しようということになっていました。まあ、市内観光なので気楽に考え、その前の晩に予定を決めればよいだろうと決めていました。

その観光に行く前の晩です。泊っていたホテルの部屋で待っていたのですが、打ち合わせをしましょうとの連絡がなかなかこない。たしか午後10時か10時半ごろになってようやく、お弟子さんから電話がかかってきました。大先生は疲れて先に休んでしまったので、私たちで翌日の計画を決めてしまいましょうとのことでした。

▼宿泊先のホテル、深夜になり妙齢の女性の訪問を受ける

ちょっととまどいましたね。地方のホテルのことなので、もうこの時間に階下のカフェなんかは、しまっている。どこで打ち合わせをしようか。

男性が若い女性の部屋に押しかけるのはナンですからね。相手は2人なので、問題はないと言えばないのですが、男性がやって来るとなれば、部屋に干してある洗濯ものなんかを片付けねばならないなんて、面倒をかけるかもしれない。

と考えて、「よかったら、2人でこちらの部屋にきていただけますか」と話すと、「分かりました」とのこと。数分後、お嬢さん2人がやって来ました。空いているベッドの上に大きな市内地図を広げて、観光の段どりの相談をしておりました。

▼怪しげな電話、ご当地なまりが強くて意味が分かりにくい

そのとき、電話が鳴りました。受話器を取ると、相手はご当地なまりらしき言葉で話しはじめました。

「ヨッ、シャオヂエマ?」―と聞こえる。

「シャオヂエ」は分かる。「小姐」です。若い女性を指します。「ヨッ」は「有(標準語では「ヨウ」)」かなあ。そうなら「小姐はいますか」という意味だ。ちょっと妙な言い方だけど、方言だからかもしれない。

実はそれまでにも「日本に留学したいんですけど、相談に乗っていただけないでしょうか」なんて学生さんからの電話がポツポツあったのです。ひとりひとりの事情を聞くわけにもいかないし、一部の学生の願いだけを聞いたのでは、かえってトラブルのもとになる。ということで、丁重にお断りしていました。大学側も「そうしてほしい。せっかくのご厚意で教えていただいているのに、さらにご面倒をおかけするわけにはいかない」との考えでした。

そんな経緯があったので、よくわからない電話の声を聞いて、「留学志望の学生が、今度はお弟子さんに的を絞って連絡してきたかな」と思いました。部屋には確かに、「日本人の小姐」が、2名おります。

そこで電話の相手に対して「ここに小姐は2人いるが、何か御用ですか?」と返事をした。とたんにプツンと切れました…。

▼ホテルを舞台にした怪しげな商売、中国だけのことではないが

何がなんだか分からなかった。頭の中は「???」状態。一瞬のあと、気がつきました。「ヨッ」は「有」ではなかった。「要(ヤオ)」であった。とすると、電話の相手は「小姐は、必要でありませんか?」と話していたことになる。

中国に限ったことではありませんが、一部外国のホテルでは、ホテルの従業員と「その筋のお商売」の人が結託していることが珍しくないといいます。1人で宿泊する男性客があると、フロント係が部屋番号を「業界関係者」に漏らす。夜になると、男性の部屋に「御用聞きの電話」が入るというわけです。フロント係にも報酬が支払われるというわけです。

「小姐」は若い女性を指す普通の語ですが、サービス業に就く若い女性も、場合によっては特殊な意味を込めて「小姐」と呼ぶことが多い。つまり、私はこんな会話をしたことになる。

「オネーチャン、いりませんかね」

「ここに、すでに2人いるけど、何か用かい?」

うわあ。すごいこと言ってしまった。これじゃ、ポン引きもドン引きだあ。思わずのけぞってしまった。「どうしたんですか。何かの連絡ですか?」と尋ねる愛くるしい2人のお嬢さんにうまく説明することもできず、私は目を白黒させていたのでした。

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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