中国人海外留学生、米国向け中心に激増=日本人留学生の20倍に―東大前北京代表所長が「和僑と華僑」シンポで問題提起

八牧浩行    2017年10月24日(火) 5時0分

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シンポジウム「和僑と華僑が切り開く、日中の未来」が東京の慶応大学で開催された。在日華僑企業経営者、日本企業経営者、日中の大学関係者ら約150人が参加。宮内雄史・前東京大学北京代表所長が「日中の未来と華僑・和僑の役割」と題して基調講演した。

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2017年10月19日、日中国交回復45周年行事としてシンポジウム「和僑と華僑が切り開く、日中の未来」が東京・三田の慶応大学で開催された。和僑会シンポジウム実行委員会が主催し、東京華僑總会、全日本華僑華人聯合会、在日中国企業協会などが協力。在日華僑企業経営者、日本企業経営者、日中の大学関係者ら約150人が参加した。

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岩間一弘・慶応大文学部教授が挨拶した後、宮内雄史・前東京大学北京代表所長が「日中の未来と華僑・和僑の役割」と題して基調講演した。「21世紀に入り、中国人の海外留学生が激増。海外留学中の中国人学生は全体で約109万人と日本人の海外留学生6万人弱の20倍に達し、特に米国への留学生が顕著である」と指摘。「米国へ流れていく優秀な中国人留学生を、日本の大学が受け入れるようにできるのか、中国へ目を向けている世界各国の青年たちに日本留学の優先的意義を訴えられるかどうか、大きな課題に直面している」と問題提起した。

このあと松野豊清華大学・野村総研中国研究センター副所長の司会で、陳慶民・東京華僑總会副会長、庄旭・全日本華僑華人聯合会副会長、宮内氏、小松拓也氏(俳優)、藤岡久士・上海和僑会会長らが、「華僑に学ぶ―ビジネス、人材育成、文化融合」をテーマにパネルディスカッションを行った。「中国には、全世界にネットワークを広げてビジネスを行い、当地の文化と溶け込んできた華僑という巨大な存在があり、日本にも中国の地に渡って孤軍奮闘でビジネスを行っている和僑がいる。我々は日中に関わる事業に深く関わりながら、両国の発展に貢献をしてきたという自負がある」「華僑と和僑は今、日中の未来に向かって手を携えていく時期に来た」などと意見交換した。

宮内雄史・前東京大学北京代表所長の基調講演の要旨は次の通り。

◆留学生は、将来パイプ役になる

21世紀に入り、中国人の海外留学生が激増した。毎年留学のため出国する中国人学生の数は2000年の3万9000人から2014年の46万人となり、海外留学中の学生は全体で約109万人、日本人の海外留学生6万人弱の20倍にもなった。中でも、米国への留学生で顕著である。

1990年代に米国における外国人留学生中で最多であった日本人学生は、21世紀に入り、毎年減少を続け、今やピーク時の4割ほどに激減。全留学生中の比率も10%から2%へと縮小した。インド人がトップを占めていたが、2010年に中国人が抜き、今や全体の30%以上を占めるほどに増大した。人数だけではなく、清華大学、北京大学では学部卒業者3000余人中、毎年25〜30%が海外へ留学、その70%が米国の大学である。日本へは2〜3%なので、中国のエリートとされる両大学出身の留学生には、米国と日本とでは25倍もの開きがある。

米国以外を見ても、英国での留学生中、中国人学生は7万7000人、18%でトップを占め、日本人3100人の25倍に達している。フランスでも16倍、ドイツ11倍、カナダ20倍、イタリア24倍、オーストラリア47倍、韓国40倍、タイ24倍となっている。留学生は、将来その国とのパイプ役になるとも言える。世界中にいる従来の華僑とは異なる、ハイレベルな中国人青年たちの、多量で多様な人的パイプが形成されていくことが示唆されている。

◆中国への各国留学生、15年間で8倍に

留学生の受け入れ状況を見ると、日本ではこの15年で外国人留学生は2.4倍になった。しかし10年間で18%しか増加していない。中国人学生が約半分を占める。この2、3年は、日本語学校や職業専門学校に留学するベトナム人・ネパール人学生が急増し、若干の変動が発生してはいる。

一方、中国への留学生は15年間で8倍に増えた。かつて30%を占めていた日本人学生は横ばいで、今や4%を占めるにすぎず、世界各国から中国への留学生が激増した。アジアに関心を持つ諸国の学生たちが、強力に中国へ吸引されている現象とも言え、日本への留学生が伸び悩んでいる一つの大きな背景になっていると見られる。

日本でも米国人留学生は15年間で倍ほどに増加している。ところが、中国への米国人留学生は、それをはるかに上回る勢いで増加しており、今や日本への留学生の11.2倍にもなった。日本へ留学した学生が知日派になるのと同様、中国へ留学した学生たちは知中派となるであろう。こうしてみると、米国において将来、知日派と知中派の数が10倍以上の開きになるであろうことが、ここには示されている。同様、フランス、ドイツの欧州諸国においてもそうした動きが顕著である。日本と中国へのフランス人留学生は12.2倍、ドイツ人留学生は11.8倍の開きになっており、欧州諸国においても将来、知日派と知中派の差が10倍以上になることが示されている。

従来関係が良好ではなかった中国とインドが2003年に関係改善へ転換して以降、中国へのインド人留学生が急増して、約1万2000人にも達した。これは日本にいるインド人留学生の21倍の規模である。ロシアに関しては45倍という大差になっている。

◆日中の大学生交流に期待

以上のように、中国人留学生および中国への外国人留学生をめぐっては劇的な変化が発生しており、日本への衝撃も少なくない。こうした背景の下、日本の立場としては、主に中国へ目を向けている世界各国の青年たちに日本留学の優先的意義を訴えられるかどうか、また、米国へ流れていくような優秀な中国人留学生を、いかに日本の大学が受け入れるようにできるのか、大きな課題に直面していると言える。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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