<現地ルポ「創新・中国」(上)>世界に先駆け出現した「超キャッシュレス社会」=シェア経済が開花―チャンスは無限大だが、リスクも

八牧浩行    2017年10月21日(土) 5時0分

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中国を取材し、「キャッシュレス社会」への変貌ぶりに驚かされた。スマホ人口はおよそ9億人。商店街でも地下鉄車内でもスマホが溢れ、銀行ATMはどこも閑古鳥が鳴いていた。スマホは個人の身分証明書の役割も果たし、シェアエコノミーが大はやりである。写真は上海市内。

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「3カ月行かないと別の国!」とまで言われる中国。現地取材し、「キャッシュレス社会」への変貌ぶりに驚かされた。スマホ人口はおよそ9億人。商店街でも地下鉄車内でもスマホが溢れ、銀行ATMはどこも閑古鳥が鳴いていた。スマホは個人の身分証明書の役割も果たし、シェアエコノミーが大はやり。利便性は格段に向上したが、一方でリスクも交錯する。

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◆賄賂や偽札が激減、物乞いもスマホ決済

 

中国では大都市だけでなく内陸部でも、スマホ一台さえあれば、交通でも、食事でも、どんな支払いも決済アプリで簡単にできてしまう。スマホがなければ、タクシーにも乗れない。上海の地下鉄駅「虹口足球場」の大型ショッピングセンターでは、会計はスマホを機械に通すだけ。注文もスマホで処理され、伝票も見かけなかった。

スマホ決済が急速に普及したことによって、紙幣を持つ必要がなくなったため偽札が激減し、賄賂も渡しにくくなった。紙幣を直接渡せば証拠が残らないが、スマホからの送金は必ずデジタル記録が残る。

以前は、国慶節長期休暇には空港やターミナル駅、観光地での券売所などはどこに行っても人で溢れ、混乱していた。ところがスマホで事前購入できたり、遅延連絡が事前に入手できるようになって、混雑は大分緩和された。

中国は広大なので、最低限の固定回線インフラを全国の主要都市に配置するだけでも莫大な費用がかかる。急激にモバイル決済が進んだのは、固定電話をスキップしてインターネットにアクセスできる通信インフラが整ったためだ。

屋台のような小さな店舗でも、専用の二次元バーコード「QRコード」をレジに貼り、顧客のスマホに読み取ってもらうことで代金が受け取れる仕組みが導入されている。個人と個人のお金のやりとりや、大人数の食事の“割り勘”も簡単。物乞いの人たちにとってもスマホが必需品といわれる。上海外国語大学の大学院生も「普段は現金を持ち歩かない。モバイル決済なしの生活はもう考えられない」と明かした。

◆街中に溢れるレンタルバイク

スマホ決済によって、レンタル事業、シェアエコノミーも大きく発展した。シェア自転車がスタートしたのは昨年。今年になって爆発的に普及し、既に数百社がサービス合戦を展開。上海など大都市でも都心から郊外まで、青、赤、黄…カラフルレンタル自転車で溢れていた。日本円で30分当たり15円ほどの安価料金でスマホ決済、乗り捨て自由だ。GPS機能があり、自転車のある場所がスマホ画面地図で一目瞭然。自転車に付いているQRコードにかざせば開錠される。自転車に続いて、シェア自動車、シェア傘、シェアハウスなどなど、シェア経済が一挙に開花。あらゆる分野に拡大した。

スマホなしで、「顔」の認証だけで支払い可能なサービスも登場している。タッチパネルで食べ物を注文し、自分の顔をカメラに向け、携帯電話の番号を入力すればOK。顔認証は始まったばかりだが、ネット通販最大手のアリババが2004年に始めた「アリペイ」やスマホ用対話アプリ大手のテンセントが2013年に始めた「ウィーチャット・ペイ」など、従来のモバイル決済の規模は昨年、前年比で5倍の約59兆元(約1000兆円)にも達した。世界のモバイル決済規模の半分以上に達し、欧米や日本を大きく引き離している。

◆個人の行動は“丸はだか”?

他方で、便利さと引き換えになるリスクもある。決済のたびに、どこで何をいくらで買ったか、支払い情報が個人の銀行口座や住所、電話番号などとともに金融サービス会社に全て蓄積されていく。中国では携帯電話の使用やネットアクセス、さらには航空便や高速鉄道などに乗ったり、ホテルに宿泊したりするのも身分証やパスポートによる「実名登録」が必要。支払いもモバイル決済となれば、個人の行動は全て監視が可能になる。顔認証は防犯カメラとも連動ができる。アリババは個人情報の漏洩に厳しい監視体制を敷いているというが、治安維持を理由に中国当局から情報提供を求められれば、事実上拒否できない。

ところが慣れてしまえば便利すぎて前の暮らしには戻れない。大企業や政府に個人情報を握られても、実害を被らない限り批判の声が上がることはないらしい。

世界に先駆けてキャッシュレス社会を実現させた中国だが、人工知能や先端医学の分野でも今、アメリカを抜く勢いで発展。「創新(イノベーション)」をモットーに膨大なビッグデータを駆使して、中国発の先端技術を世界標準にしようとしている。(八牧浩行

【<現地ルポ「創新・中国」(下)>AI、ロボット、金融技術、医療でも存在感=ビッグデータを駆使―起業家が集結する深セン、シリコンバレーを凌駕】に続く

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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