<コラム>中国の大学が台湾人学生の受け入れ条件を緩和、狙いは「天然独」抑制か?効果は不明

如月隼人    2017年7月7日(金) 0時40分

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人民日報系の海外網によると、中国政府・教育部は4日、大学における台湾人学生の受け入れ条件を緩和すると発表した。台湾の若者の間で強まる「独立意識」を軽減する狙いがあると考えられる。写真は台湾の独立運動。

人民日報系の海外網によると中国政府・教育部は4日、大学における台湾人学生の受け入れ条件を緩和すると発表した。台湾の若者の間で強まる「独立意識」を軽減する狙いがあると考えられる。

台湾では毎年月末から2月にかけて、日本のセンター試験に相当する大学学科能力測験(学測)が実施されている。中国はこれまでも学測で一定の成績を収めた台湾人の高校卒業生に対して、入学を希望する大学との面接の結果だけで入学を認めてきた。中国・教育部は10月から、学測についての成績基準を緩和すると表明した。

台湾では若者の間で、「天然独」と呼ばれる意識が強まっている。従来型の「独立派」は、国民党の独裁体制において「台湾は中国の一部である」ことを前提に、「現在は台湾などだけを支配する中華民国政府が、中国の正統政府」とする思想教育を受けた世代だった。日本統治時代に教育を受けたさらに古い世代も、「台湾は中国の一部」という思想統制の時代を長く生きた。

そのため「台湾独立」を主張するにあたって、「台湾は中国から独立できる」あるいは「元々、中国の一部ではなかった」などの“理論武装”をする場合が多かった。

しかし現在の台湾の若者にとっては、中国大陸部は自分が生まれた時から無縁の社会だ。しかも、物心がついた時から普通選挙が実施されているなどで、大陸絡みの政治ニュースを見ても「自分たちとは違う国」としか思えない。さらに最近は、大陸から大挙して押し寄せる観光客の挙動を見ても「自分たちとは違う人々」との印象を受けることになった。

また、国民党政権とともに大陸からやってきた、いわゆる外省人についても、1世代目は大陸での生活の記憶があり「自分は中国人」との意識が確固としており、2世代目も両親の考えにもとづき「本来は中国人」との意識を持つが、現在の若者は3世代目以降であり、「自分は中国人」との意識を持ちづらくなっている。このような「考える間でもなく、台湾と中国は別の国」との意識が「天然独」だ。

中国政府にとって、従来型の独立派ならば論戦に持ち込むこともできるが、「天然独」の若者は「私は台湾人。中国人ではない。当然です」との考え方なので議論することすらできない。まことにやっかいな存在だ。

中国側の大学への受け入れ強化は、より多くの台湾人に大陸での学習や生活を体験させることで、台湾の若い世代における中国との一体感を高めようとする狙いがあると考えられる。ただし、台湾人学生が大陸で暮らすことで、かえって社会のあり方や考え方の違いを強く感じる可能性もあり、効果のほどは不明だ。

台湾の大学にとっては、若者の多くが大陸の大学への進学を希望すれば、学生の確保の面で問題が発生する。しかし海外網によると、今のところ台湾の若者の間では大陸に対する先入観が強く、大陸の大学への進学希望者が急増するとは思えない状況だ。多くの若者が大陸について「トイレにドアはあるのか」と質問をするという。

なお現在、中国大陸部でも都市部においては「トイレの問題」はかなり改善されたが、農村では「昔ながら」のトイレも多い。

一方で、台湾の大学の中国人学生の受け入れは、アルバイトが認められない、卒業後も台湾での就職を認めないなどの制限が大きい。さらに最近は、台湾で中国人に対する反発が高まっていることもあり、自分の子を台湾の大学に進学させたいと望む保護者や、進学を望む若者はなかなか増えない状況という。

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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