<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼・「笑顔は中国からの“名刺”」頑張るボランティア達

Record China    2008年4月30日(水) 10時42分

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オリンピックになくてはならない存在がある。大会の運営の主要な部分を担うボランティアだ。北京五輪におけるボランティアの重要度は、日本のそれとは比べ物にならないほどだ。写真は3月開かれた「夏季パラリンピック」の市民ボランティア養成講座。

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文句のハケ口…深夜の残業、それでも頑張るボランティア達

オリンピックになくてはならない存在がある。

大会の運営の主要な部分を担うボランティアだ。各種の大型スポーツ大会で、ボランティアが運営の一翼を担うスタイルは、日本でも、今や一般的になりつつあるが、北京五輪におけるボランティアの重要度は、日本のそれとは比べ物にならないほどだ。

会場の観客誘導、メディア対応、保安業務、交通整理、試合進行、通訳などは元より、表彰式のコンパニオン、試合の合間のチアーダンス、そして医療スタッフの補助なども全てボランティア。体のいい経費削減策という見方もあるが、特に技術を持たない学生ボランティアなどは、10倍〜20倍の競争率を勝ち抜いてきたある意味のエリートだし、コンパニオンは北京中の“美女”を集めて、郊外の養成学校で研修を続けているという徹底ぶりである。

バスケットボールのテスト大会4日目の23日、会場では一風変わった記者会見が開かれた。いつもの『何とか連盟』の偉いさんが並ぶものではなく、『ボランティア』に関する記者会見で、主役は大学生ボランティアたちだ。

最初に担当者が今大会のボランティアの状況を説明した後は、ボランティアの代表者が各自の今の思いを語るというもので、私が久々に“一生懸命”耳を傾けた記者会見となった。

現在、北京で行われているバスケットボールの五輪テスト大会では876名のボランティアが働いている。市内16大学から集まった学生が主となって、中国一の人気種目のテスト大会を支えている。

メディア担当の劉梅麗さんは中国伝媒(メディア)大学の2年生。『将来は記者になりたい』と目を輝かせる彼女は、大会期間中、全世界からやってくる新聞・テレビの記者やカメラマンの対応をする。ただ「メディア対応」といえば聞こえはいいが、決して楽ではない。

「メディアの人が保安チェックの後に出会うのが私たち。今はチェックがかなり厳しくなっていて、気分を悪くするらしく、いつも愚痴を言われるんですよ」

中国の警備員というのは評判があまりよろしくない。態度は偉そうでぶっきらぼう。体を弄られて金属探知機を当てられたり、カバンをゴソゴソとやられるだけでも気分悪いのに、そんな態度で接されれば当然、気分を害している。ところが、理不尽なことに、そのとばっちりが最初に出会う彼女達にくるというのだ。

「けれども、笑顔で“ごめんなさい”って言うんです。これも安全のためだから、って。それも私たちの仕事だから」

くったくない笑顔でそう語る彼女。

彼らがここで体験することは「ただで試合が見られる」といった楽しいことばかりではない。いやむしろ、観客やメディアから苦情を受けたり、文句を言われたり、まるでサンドバックのようになっている光景もよく見かける。もちろん、その中には癇癪を起こしてしまう学生もいるが、「不好意思(すみません)」と何度も頭を下げながら、理解を求めようと頑張っている学生が多い。

これも研修の賜物かもしれないが、一人っ子世代で、「小皇帝」として育てられた彼らがオリンピックという大舞台でちょっとした試練を受けることは、彼らに人生に大きな意味合いがあるだろう。

この北京五輪に向けたテスト大会が始まってから、僕が一貫して感じているのは、ここのボランティアを経験した大学生たちがこれまでの中国人像を一変させるのではないか、ということだ。これまでの中国人像とは、とかく先ほどの警備員のよう…つまりぶっきらぼうで笑顔がないというイメージだった。

けれども、このテスト大会では、「ボランティアの笑顔は北京の“名刺”」をキャッチフレーズにして、『笑顔』と『挨拶』で接するよう努力している。もちろん、性格の問題もあるので、個人差もあるが、少なくとも、これまで北京でほとんど受けたことのなかった『笑顔のサービス』があり、私自身が最初は逆にとまどいを覚えるくらいだった。

日本のスポーツ界でも「オリンピック世代」という言葉があるが、北京の彼らの年代はまさに五輪を経験した貴重な世代として、これからの新しい中国人のイメージを作っていくのではないかと思う。

昨日も夜中の2時ごろまで“残業”していたという彼ら。報酬は、毎日のお弁当と交通費の数百円だけ。真夏の北京五輪では、外で活動する交通整理や道案内のボランティアなど、本当に大変だろう。それで得られるのは「祖国に貢献したという達成感と栄誉(ボランティアの一人)」というが、そんな教科書どおりの結論を出さなくても、彼らには十分、得られるものがあると思う。

チベット問題、大気汚染、食品安全などから、ただ否定的に北京五輪を見る風潮が日本では一般的のようだが、その視点には何かが欠けているような気がする。

もっともっと“人間”に目を向けて欲しい、五輪に携わる一人一人の思いに耳を傾けて欲しい、と心から思うのだが…。やはり難しいのだろうか。

<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>

■筆者プロフィール:朝倉浩之

奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。

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