「又吉さんが真剣な目つきで『僕を中国に連れて行ってくれませんか』と言った」=「火花」を翻訳した中国人作家が語る舞台裏―中国メディア

人民網日本語版    2017年6月29日(木) 22時30分

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日本の芸人・又吉さんは招きに応じて中国を訪問し、「火花」の中国語翻訳者である毛さんと上海で対話イベントに参加し、中国の読者と交流した。イベント開催期間中、毛さんは人民網の独占インタビューに応えた。毛丹青氏(左)と又吉直樹氏(右)。

「私は日本で暮らして30年目になる。2002年にノーベル文学賞受賞作家の大江健三郎さんが、同じくノーベル文学賞受賞作家である中国の莫言さんの故郷を訪問するよう企画し、今年は、芥川賞を受賞したお笑い芸人の又吉直樹さんが初めて中国を訪問した。私にとって、とても達成感のあること」。日本で活躍する中国人作家・毛丹青さんは取材に対してそのように語った。17年6月、自身の処女作である「火花」の中国語版が刊行されたのを機に、又吉さんは招きに応じて中国を訪問し、「火花」の中国語翻訳者である毛さんと上海で対話イベントに参加し、中国の読者と交流した。イベント開催期間中、毛さんは人民網の独占インタビューに応えた。

又吉さんの訪中を企画した理由に関して、毛さんは、「ある日、又吉さんが真剣な目つきで私を見つめながら、突然、『毛さん、僕を中国に連れて行ってくれませんか』と言った。真剣な目でそう言われると、絶対に連れていってあげなければと思うものだ。だから今回のイベントを企画した」と説明した。

文学の翻訳:中国にないものを翻訳する難しさ

売れない漫才師2人が夢を追いかける姿を描く「火花」は、日本で発行部数が300万冊を突破し、15年に芥川賞を受賞した。「火花」は、毛さんによって中国語に翻訳され、相声(日本の漫才に相当)で知られる中国のコメディアン・郭徳綱(グオ・ダーガン)が前書きを書いて、人民文学出版社から刊行された。

文学作品の翻訳は、単に文字を翻訳すればよいというだけのものではなく、翻訳者が両国の文化をしっかりと把握しておくことが必要だ。「翻訳の際、最も悩むのは、対応する要素や言葉がない時」と毛さん。例えば、「火花」で出てくる「漫才」は、中国の「相声」に似ているものの、中国の字典にはその言葉がのっていない。毛さんはそれを「漫才」と直訳している。その理由は、「日本の漫才と中国の相声は違う。例えば、中国の相声では2つのマイクを使い、二人は一定の距離を保つ。一方、日本の漫才師は1つのマイクしか使わず、二人の距離も近い。それに、大げさなアクションや体の接触などもある。だから、『漫才』を『相声』と訳すのは適切でない。このような違いが、翻訳の難しさ」という。

「火花」に出てくる日本人の「ボケ」は、多くの外国人にとって理解しにくいものの、毛さんは、この作品を初めて読んだ時に中国語に翻訳すると決めたという。「翻訳者は衝動的であることが一番大切。『火花』を読んだ時、翻訳しなければという衝動にかられた。読んだ時の第一印象が翻訳しようと思った一番の理由」と毛さん。

日中関係:「日中の国民の距離はかつてないほど縮まっている」

今年は日中国交正常化45周年で、毛さんにとっては日本で暮らして丸30年になる。最近の経験について、毛さんは、「ここ10年は、日中関係の変化が顕著。日中の民間交流が年々拡大している。日本のメディアの報道によると、年間600万人の中国人観光客が日本を訪問している。それらの観光客は、日本を離れる時、自分が見た情報や感じたことなどを中国に持ち帰る。これは未曾有の現象だ」と話す。

今回のイベントを通して、筆者は、多くの読者が日本語版の「火花」を既に読んでおり、又吉さんの発言にすぐに反応していることに気付いた。その点に関して、毛さんは予想外だったといい、「つまり、日本語は文化的要素として、中国で消費され始めているということ。多くの読者が独学で日本語を勉強しているようだ。読者たちは日本の原作者の声をストレートに理解することができる。そのような現象を通して、今後、日本の書籍は中国市場で発展し続けることが予想される」と語った。

「火花」では、「漫才」のほか、「居酒屋」や「コタツ」、「花火大会」、「お笑い芸人がバラエティー番組のコンテストに参加する」など、日本ならではの文化の要素が出てくる。しかし、毛さんは、中国の読者がそれらを理解できないことを心配しなかったといい、「川端康成や谷崎潤一郎などの日本の作家の作品が中国に進出した時代、それらの作品では、中国人が全く理解できない物も描写されており、溝があった。しかし、今の中国の若者は小説やテレビを通して、すでにそれらをよく耳にしており、日本風の居酒屋が身近にあるという人もいる。この点から考えると、日中の国民の間にある距離はかつてないほど縮まっている」と説明した。

文化交流:「相手の力を借りて中国文化を日本で開花させてはどうか」

日本で30年暮らしている毛さんは「文化使者」として、作品を通して中国人が日本についてもっと理解できるよう助けている。近年、日本文化の要素が中国各地で開花し、小説、映画、ドラマ、アニメなどが大量に上陸している。うち、「君の名は。」や「ドラえもん」などの日本映画は大ヒットし、「プロポーズ大作戦」や「深夜食堂」など、人気日本ドラマの中国版も大きな話題を呼んでいる。このような現象について、毛さんは、「現在、日本の中国に対する理解と、中国の日本に対する理解は、アンバランスな状態」との見方を示す。

そして、アンバランスな状態について、「お金をたくさんつぎ込んだからといって、文化を浸透させ、開花させることができるわけではなく、それを強要することはできない。中国文化を日本で開花させるために、『相手の力を借りる』こともできる。例えば、今回、又吉さんが中国を訪問した。又吉さんは、社会現象を起こした小説家であると同時に、人気お笑い芸人でもある。彼が初めて見た中国や中国への印象が、今後、彼の文学作品やテレビ番組などを通して、多くの日本人に影響を与えるようになるだろう。又吉さんが描写する中国を通して、日本の一般人は、中国へのイメージを作る。これが『相手の力を借りる』ということ。相手の力を自分の力にし、共に進歩して、ウィンウィンを実現しなければならない」と語った。

中国について知る:自分で見たものこそが真実

作家や翻訳者以外に、毛さんは神戸国際大学の教授も務めている。毎年夏休みになると、日本の学生を連れて中国へ行き、日系企業を訪問して、日本人駐在員に中国での生活や仕事について学生たちに向けて話してもらうようにしている。「中国にいる日本人の中国に対するイメージのほうが、真実に近いと信じている。学生たちも中国へ来ると、大きく変化する。このような体験を通して、教室では見ることができないものを見られ、中国に対する興味も大きくなる」と毛さん。

又吉さんは中国に来る前に、日本メディアの取材に応じ、「テレビで上海浦東に摩天楼がたくさんあるのを見て、スケールの大きな都市だと思った」と語った。毛さんは、今回中国初訪問の又吉さんに、すぐに中国に関する知識を詰め込もうとはせず、「中国に行く前に、又吉さんにどんな準備をしておくべきか、どんな本を読んでおくべきかなどは言わなかった。彼には真っ白な状態で中国の環境に入ってもらって、現実の中でいろんなことを感じてもらいたかった」と話す。東京に帰り、又吉さんは毛さんに、「中国がとても気に入った。また行きたい」と話したという。

04年、毛さんは莫言さんと共に北海道を訪問した。莫言の小説「転生夢現(原題:生死疲労)」の最後の場面のインスピレーションは北海道で得たという。「この2つの事に関連性があるかは分からないが、文化交流においては、個人の交流も非常に重要だと思う。文学には、目にした風景を自分の文学王国に盛り込み、多くの人に見てもらうことができるという力がある」と毛さん。

02年に大江さんが莫言さんの故郷を訪問した時のことを振り返り、毛さんは、「莫言さんの故郷にいく途中で、大江さんがあぜ道に立って突然涙を流すという一幕があった。大江さんは、『初めて地平線を見た』と言っていた。彼の実家は山地にあり、地平線を見たことがなかったのだ。果てしなく広がる景色を見て、感極まっていた」と話してくれた。「人と人の交流は感情的なことで、文学や文化を超えて、人と人、国と国が出会うことができる。これはとても素晴らしいことだ」。(提供/人民網日本語版・編集KN)

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