<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼・マラソン『ウェア真っ黒』報道への違和感―当日に人口増雨?

Record China    2008年4月23日(水) 15時11分

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大気汚染などが懸念される北京五輪マラソンのテスト大会が20日、天安門広場をスタート地点に行われ、日本からは去年の世界選手権3位の土佐礼子を始め、尾方剛、佐藤敦之が出場。

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マラソン『ウェア真っ黒』報道への違和感

大気汚染などが懸念される北京五輪マラソンのテスト大会が20日、天安門広場をスタート地点に行われ、日本からは去年の世界選手権3位の土佐礼子(三井住友海上)を始め、尾方剛、佐藤敦之(ともに中国電力)が出場した。また同じく出場が決まっている大崎悟史氏(NTT西日本)は大会には出場せず、視察のみを行った。

コースは本番と全く同じコースで、北京市中心部の天安門広場をスタートし、世界遺産にも指定されている天壇公園を経由したのち、市西部を北上して、最後は東に向かってメインスタジアム国家体育場(愛称、鳥の巣)にゴールするというもの。

レースは土佐礼子が2時間38分04で4位。佐藤敦之が2時間16分55秒で6位などとなった。

さて、日本での関心の高いマラソンで、しかも本番と同じコースが設定されているということで、日本からも新聞、テレビ各メディアが大挙して訪れた。レース後に行われた記者会見での記者団の関心は軒並み「大気汚染」と「硬くて悪い路面」。それらは日本で最も関心の高いことだから、問題はないのだが、その翌日の報道を見ると、大きな違和感を覚えた。

各新聞の記事には「ユニフォームが真っ黒 北京五輪マラソンを日本代表が試走」、「ウェア真っ黒、道デコボコ」「ユニフォームが真っ黒。大気汚染の影響だと思う」「服が真っ黒!大丈夫か?」という言葉が踊っていた。

これはレース後に行われた記者会見で、選手全員が質問に答えた中、代表の一人、尾方剛選手が口にしたコメント。「帰ってきたらユニフォームが真っ黒になっていた。大気汚染の影響なのかなと思った」という言葉が伝えられたものだ。

これ自体は選手が口にしたコメントであり、伝えることに問題はないが、実際には、選手たちが口を揃えて、この大気汚染問題を“否定”していたのだ。だが、この部分は触れられている記事をあまりみかけない。

『あまり空気が悪いとは感じなかった。(土佐礼子)』『走っている間は特に(大気汚染を)感じなかった(尾方)』『見た目には空気が悪そうだが、走ってみると、そうでもなかった』というのが各選手のコメント。尾方選手は、先ほどの『真っ黒発言』の直前に、こう答えているのだが、この部分は、触れられている記事を見かけない。

この日は、あいにくの雨模様で、空気も“洗い流され”、現実には、レース中の大気状況の把握は難しい。だから、彼らのレース中の感想から単純に『北京の空気は大丈夫』とも言えないが、逆に言えば、尾方選手の『真っ黒発言』も決して額面どおりには受け取れないはずだ。普通に考えれば、足元の泥土が跳ねるなどの結果、『真っ黒』になったと考えるべきであり、もし仮に『雨水の影響』ならば、それをきちっと検証して、表現をすべきだろう。いずれにしても、他の選手の発言を紹介することなく、この『真っ黒発言』だけを取り出して、センセーショナルな報道を行う日本メディアの記事には違和感を覚えた。

また『硬い』『デコボコ』の地面というコースに配する批判報道も見かける。確かに、北京の石畳やレンガ状の地面は非常に硬い。また、選手がいうように『マンホールによる出っ張り』があるのも事実だろう。(これは我々北京在住者も街中でよく目にする)だが、選手たちは、決して、これらのコースに対して“文句”や“苦情”を語っているわけではない。あくまで、北京のコースはそういう特徴を持つコースだという「感想」を述べただけであり、自分自身の、それへの対応が必要と語っているのみである。

マラソンなど『ロードレース』は、あくまでも競技場の外で競い合うもの。あらゆる路面の変化があり、地形の変化があり、その環境の中でアスリートたちは戦う。これに対応するため、シューズを改良し、足の運びやペース配分の戦略を立て、レースに臨む。ここがマラソンの面白さであるはずだ。この『当たり前』の道理からすれば、各メディアの『地面がデコボコ』『硬い地面』など、北京のマラソンコースを批判する論調の記事には首をかしげざるを得ない。

むしろ、一人の選手は「その硬さが逆に心地よくなってくる」と感想を語っている。地表やコースを自分の味方につけた選手こそが、そのレースを制するはず。それは選手達が一番良く分かっているのだ。

もちろん、非常に素晴らしい記事を書かれる諸先輩、記者の方々も大勢いるから、ひとくくりにして批判をするつもりはない。また一方で、マラソンの一現象をとりあげて、北京の環境や様々な事象に無批判でいろ、というわけではない。

だが、一連の報道は「批判ありき」「批判のための批判」になっていないか。

このようなレベルの報道では、これから迎えようとしている北京五輪の持つ本当の問題点を見誤ることになると思う。

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マラソン当日に人口増雨?中国紙が報道

20日に行われたマラソンのテスト大会で降り続いた雨。これは人工降雨だった?

21日、北京の日刊紙「京華時報」が伝えたところによると、19日夜から降り続いた雨は人工降雨によるもので、ここ5年で最も長い時間降り続いた『春の雨』となった。

北京ではこの日、マラソンの五輪テスト大会が行われていた。7時半のスタート10分過ぎから、ポツポツと雨が降り始め、その後、本降りに。雨は翌21日も降り続き、北京ではこの時期珍しい長雨となっていた。

この間、市内の降水量は50ミリ以上に達し、郊外では110ミリ以上に達したところもあるという。

記事によると、20日午前7時、北京市の「人口影響天気弁公室」が人工的な増雨の『指令』を出したという。これによって、郊外にある「北京の水がめ」密雲ダムの水量を増やしたと言う。

北京市気象台は、この雨により「北京の大気は改善された」としている。

そういえば、大会前3日前に伝えられていた天気予報は晴れ。その後、『曇り』に変更され、前日は「曇り時々雨」だった。私自身も、まさか朝から本降りになるとは予想していなかったのだが、この「人口増雨」によって、雨量を増やす、もしくは降雨を促進するといった操作が行われていたのだろうか。

雨により、大気状況は改善されたかもしれないが、マラソンのテスト大会にとっては、決して十分な『準備』ができたとはいえないものとなった。沿道の観客の皆さんにとっても、ブルブル震える寒さの中での応援となった。

あくまで『自然の作用』と連動する形での人口増雨というように伝えられているが、当日のマラソン大会に関わった人間からすれば、かなり迷惑な話だ。

<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>

■筆者プロフィール:朝倉浩之

奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。

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