<コラム>日米には打撃か、EUによる「中国は市場経済国」承認の道、李克強首相が独メルケル首相との交渉で成果

如月隼人    2017年6月2日(金) 20時10分

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ドイツを訪問した中国の李克強首相は現地時間1日、独メルケル首相と共同記者会見を行った。資料写真。

ドイツを訪問した中国の李克強首相は現地時間1日、独メルケル首相と共同記者会見を行った。メルケル首相は中国が世界貿易機関(WTO)加盟時に「市場経済国ではない」ことを理由に課せられていたダンピング問題などの調査に関連する「第15条」について、欧州連合(EU)として撤廃に向かうべきだとの考えを示した。

中国のWTO加盟が発効したのは2001年12月11日だった。WTOの既存加盟国の間では、急成長を続けていた中国経済と世界経済の関係を密接化することによる恩恵への期待と、中国製品の世界市場への急速な輸出拡大への不安が交錯していた。

そのため、中国は「市場経済国ではない」と断定し、中国製品についてのダンピング調査に際しては、該当製品の「中国における価格状況」ではなく「他国が輸出する類似商品の価格との比較」にもとづき、中国側が輸出に際して不当廉売をしていると断定してよいとした。

中国としては、国内におけるコスト削減などで安価な商品を生産しても相手国が「ダンピング」と判断され、高額の反ダンピング関税が科される場合があるという、極めて不利な条件だった。中国側はしばしば不満を表明していた。不利な条件を受け入れたことについては、WTO加盟は中国にとって必要不可欠であり、「15条問題」以外にもさまざまな交渉内容があったので、全体を考慮して受け入れたなどと説明されていた。

「15条」は、他国製品との比較にもとづきダンピングと認定する方法は「中国が市場経済国であることが確認された場合」または「中国のWTO加盟から15年間が経過した」場合には認められなくなると定めている。

そのため中国は、「15条」の関連条文は2016年12月11日をもって無効になったと主張しているが、日米やEU、カナダなど主要先進国の多くは「中国は非市場経済国」であるとして「15条」についても方針を変えていない。一方、ロシア、ブラジル、オーストラリアなどWTOに加盟する164の国と地域(16年12月現在)のうち81カ国は中国を「市場経済国」と認めている。

中国における報道によると、1日の共同記者会見でメルケル首相は「われわれはWTOの原則とルールを支持します。われわれはEUが『中国のWTO加盟についての協定書』の15条条文の(加入後15年で撤廃の)義務を履行することを支持します」と述べた。

李克強首相は約24時間のドイツ滞在中にメルケル首相と3度にわたり会談し、いずれの会談でもメルケル首相が「15条問題」で中国を支持することを明言するよう求めたという。

中国側に、「15条問題」問題でEUに中国を支持させることで、中国を市場経済国と認める動きを加速させる狙いがあるのは明らかだ。仮にEUに加盟する28カ国(含、英国)すべてが中国を市場経済国と認めれば、WTOに加盟する164の国と地域のうち109の国と地域までが中国を市場経済国と認めたことになる。

日米がそれでも認めようとしなければ、逆に「自国保護のために無理がある主張を続けている」と批判されかねないことになる。

李首相は記者会見で「現在、世界で不確実で不穏な要素が増加しており、各国は現行の国際システム、WTOのルールを含めて各国が合意した国際関係の準則を守り、貿易の自由化と利便化を支持するべきだ」と述べた。

経済関連で言えば、李首相が言及した「世界で増加しつつある不確実で不穏な要素」に最も当てはまるのは、トランプ大統領の「強引な米国第一主義」ということになる。李克強首相の説得が成功した背景には、EUの米トランプ政権に対する不信や反発もあると考えてよい。

なお、EU内では産業界などを中心に、中国を市場経済国と認めることに対する強い反発がある。中国が輸出攻勢を強め、自国の産業が大打撃を受けるとの主張だ。このため、EUが中国を市場経済国と認める動きを加速させると、EU内における「右翼勢力」の台頭が連動する可能性も否定できない。

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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