<コラム>中国の大気汚染対策に見える「国有企業優遇、民間企業圧迫」

内藤 康行    2017年3月28日(火) 14時0分

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一向に大気汚染の改善が見えない中国だが、その一つの元凶として、河北省石家荘市にある華北製薬がやり玉に挙がっている。石家荘地区にある同業企業の中では、華北製薬ほど環境保護というプレッシャーを受けているところはない。写真は大気汚染に見舞われる石家荘市。

一向に大気汚染の改善が見えない中国だが、その一つの元凶として、河北省石家荘市にある華北製薬がやり玉に挙がっている。石家荘地区にある同業企業の中では、華北製薬ほど環境保護というプレッシャーを受けているところはない。

最近、華北製薬が2016年財政報告書を発表した。2016年の営業収入は80.82億元(約1311億円)、前年同期比で2.28%の微増で、純益は0.54億元(約8.7億円)の前年比13.42%減となっている。

同社は2015年から再建計画を行い、大株主である「冀中能源」から多角経営の指示が出された。このデータを見る限り、華北製薬は再建後も経営がうまくいっていないことがわかる。

企業にとって転身はあまりに挑戦事項が多く、その不可抗力の一つが近年の環境保護の圧力であった。特に大気汚染処理だ。同社は2016年11月18日に石家荘市政府部門より突然『石家荘市大気汚染防止整備管理令』を受け取る。その要求は市内全ての製薬企業の全生産停止であった。さらに市政府の批准がないうちは生産の再開は不可としているのだ。理由は生産過程で発生する排ガス、廃水、残渣(ざんさ)、廃棄物の成分が複雑で、「危害」が深刻化とするものだった。生産停止は今年のはじめまで続き、同社は1月8日にやっと生産を再開した。生産停止から再開に至るまでの数カ月で大きな損失を被ったことも同社にとっては痛手となった。

石家荘市は中国でも重要な原料薬の生産拠点の一つだ。参考までに紹介すると、華北製薬はペニシリン、抗生物質、ビタミン等を主体に生産している。これらの薬物は化学原料薬(Active Pharmaceutical Ingredient)として生産されている。上述の「整備管理令」で同社と関連企業4社が生産する原薬と医薬中間体(初原料と薬の間にある製品)等の工場は全て生産停止となってしまった。この影響で同社は昨年、5493万元(約8.9億円)の大幅な収益減少に見舞われた。

同社は上述の業務方面での損失のほか、環境整備や工場移転等で莫大な資金を投じている。2016年同社が環境整備関連で投入した資金は2.46億元(約39億円)で、このうち0.5億元(約8.1億円)が排ガスと廃水処理への整備資金だった。

当局が突きつけた『石家荘市大気汚染防止整備管理令』は、一つの民間医薬品企業を環境保護の名の下に「埋没」させ、さらに追い討ちを掛けるように今年2月に2017年の大気汚染防止整備方案が公布され、大気汚染整備は一段と強化されている。こうした「大気汚染」整備のもと、汚染の元凶として民間企業がターゲットとなっている。国有企業保護と民間企業の衰退はこんな所からも見える。

華北製薬と同じ民間企業である石家荘市の石薬集団、神威薬業、以嶺薬業が影響を受けなかったのが不思議だが、華北製薬の一件は「国有企業を優遇し民間企業に重圧」を象徴する事案と言え、こうした現象が中国全土に広がっている可能性もある。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般とそれに関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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