<コラム>金正男氏の訃報に思わず声が出た、3冊の本を読み彼を悼む

北岡 裕    2017年2月16日(木) 10時0分

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金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が2月13日にマレーシア・クアラルンプールの空港で殺害された。スマートフォンでこの一報を見た瞬間、帰り道の電車の中だったが思わず声が出た。写真はクアラルンプール国際空港。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏が2月13日にマレーシア・クアラルンプールの空港で殺害された。スマートフォンにインストールしてある聯合ニュースアプリからの一報を見た瞬間、帰り道の電車の中だったが思わず声が出た。

東京新聞記者の五味洋治氏がその著作「父・金正日と私 金正男独占告白」(文藝春秋)で、金正男氏とのメールのやりとりとインタビューをまとめている。メールのやりとりでも、また直接のインタビューでも、金正男氏は終始冷静かつ俯瞰(ふかん)的な視点で、時にユーモアを交えながら自らの立場や北朝鮮、父である金正日総書記などについて述べている。

金正男氏について書かれた本には、金正男氏のおばにあたる成恵琅(ソン・ヘラン)氏の「北朝鮮はるかなり 金正日官邸で暮らした20年」(文春文庫 萩原遼訳)、成氏の息子、李韓永(イ・ハンヨン)氏の「『平壌「十五号官邸」の抜け穴』」(ザ・マサダ 太刀川 正樹訳)がある。この2冊では例えば飛行機の中で寝ている男性客の頭をはたくようなわがままぶりや、ひとりの友だちもいない孤独な幼少期の生活ぶりも描かれている。

日本では2001年に成田空港で不正な旅券を使い、退去強制処分を受けたことでもおなじみだ。今回の殺害事件を伝えるニュースでもその時の映像がくり返し流れている。この事件の後も何度か金正男氏はテレビなどのインタビューに答えている。ずんぐりむっくりとした体型に印象的な笑顔。日本人記者の「日本語わかりますか」という質問に日本語で「日本語ワカリマセン」と笑顔で答える映像は何度見ても笑ってしまう。金正男氏はネット上でも一部から「まさお」と親しみを込めて呼ばれていた。

五味氏の著作の中で一番印象的なシーンは赤坂の高級クラブでの出会いだ。そこには民団系(の在日韓国人=筆者注)、総連系(の在日朝鮮人=筆者注)、一般の日本人がいたという。「みんなが一緒になって歌を歌い、お酒を飲んでいた。いつかこういうふうに壁がなくなればいいと思ったものです」と金正男氏は述べていた。

金正男氏はそのユーモアに溢れたやり取りや冷静な視点を、孤独な幼少期から成長する過程でどうやって育んだのだろう。そこには人知れぬ苦労もあっただろうし、プライドをへし折られるようなこともあっただろう。書庫にしまってある本を久しぶりに開き、金正男氏の冥福を祈った。

■筆者プロフィール:北岡裕

76年生まれ。東京在住。過去5回の訪朝経験を持つ。主な著作に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」。コラムを多数執筆しており、朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」では異例の日本人の連載で話題を呼ぶ。講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。

■筆者プロフィール:北岡 裕

1976年生まれ、現在東京在住。韓国留学後、2004、10、13、15、16年と訪朝。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。著書に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。

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