<コラム>「人はソウルへ馬は済州島へ」=韓国人の首都への憧れは日本人の比ではない

木口 政樹    2017年2月19日(日) 15時50分

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韓国のソウル志向は無条件であり、絶対的であり、永遠に変わることのない数学的公理のようである。「人はソウルへ、馬は済州島へ」という言い回しがあるくらいだ。写真はソウル。

道人という言葉がある。「どうじん」あるいは「どうにん」と発音する。仏教の修行をする人、世捨て人など、いろいろの意味があるが、道人という言葉のイメージに一番ふさわしいのは、神仏の術を身に付けた人というものじゃないかと私は思っている。

この道人であるが、「韓国には道人が多いです」というフレーズがあって、韓国の人々は時々これを使う。

種明かしをすれば簡単だ。「忠清南道」人とか「慶尚北道」人ということで、忠清南道に住む住民、また慶尚北道に住む住民という意味である。韓国の地理に詳しくない方のためにもう少し説明を加えると、韓国という国の行政区画が、ソウル特別市を除くと残りは「道」という接尾辞的な語の付く単位となる。北海道の「道」と同じ漢字である。全て挙げれば、京畿道(キョンギド)、江原道(カンウォンド)、忠清南道(チュンチョンナムド)、忠清北道(チュンチョンプクド)、全羅南道(チョンラナムド)、全羅北道(チョンラプクド)、慶尚南道(キョンサンナムド)、慶尚北道(キョンサンプクド)、済州道(チェジュド)となって、全9道だ。この「〇〇道」に暮らす人々を称して「道人」と言っているわけである。

ソウルに住む人に対しては「あなたは道人じゃなくて普通の人ですね」などと冗談を言うこともあるが、これは単なる冗談ではなく、ある種の本音が相当に含まれていると言っていい。地方に暮らす人がソウルに暮らす人をねたむ気持ちから発せられる逆説のフレーズである。

日本だって東京や東京人を憧れの目で見る視線は多少はあるかもしれないが、韓国の比ではない。例えば筆者は山形県の出身であるが、東京人になりたいとはこれっぽっちも思わない。

しかし韓国のソウル志向は無条件であり、絶対的であり、永遠に変わることのない数学的公理のようである。「人はソウルへ、馬は済州島へ」という言い回しがあるくらいだ。つまり、馬として生まれたら済州島に行くのがいい。放牧地は済州島が一番広いし質もいい。立派な馬になるには絶対に済州島へ行くしかない。人はどうか。人として生まれたらソウルに行って名を上げ故郷に錦を飾るのが最高だというわけだ。日本語バージョンに焼き直せばさしずめ「馬は北海道へ、人は東京へ」ということになるであろう。

馬は北海道へ。これにはうなずく人も多いだろうが、「人は東京へ」のパートは疑問符を打つ人も多いものと思われる。いや、大阪の方がいいよという人もいるだろうし、神戸だ、横浜だ、名古屋だという人もあろう。ソウルにあらずんば人(住む場所)にあらずみたいな感覚は、日本の場合、韓国よりはかなり薄いものと思う。ソウルの悪口のようになってしまったが、決してそうではない。韓国におけるソウルの特異性を多少強調したにすぎない。

先にソウル特別市プラス9道と書いたが、行政単位としては実はその他に広域市というカテゴリがある。仁川広域市、釜山広域市、大邱広域市、光州広域市、大田広域市、蔚山広域市の六つだ。それぞれ、インチョン、プサン、テグ、クァンジュ、テジョン、ウルサン広域市だ。さらにもう一つあった。2012年7月1日から公式出帆した世宗(セジョン)特別自治市である。締めて17個の行政単位となる。

ソウルは韓国の首都で、先の言い回しでも分かる通り、人として生まれたら必ず行くべき、あるいは住むべき場所とされている。朝鮮を開いた李成桂(イ・ソンゲ)が漢陽(ハニャン)つまり今のソウルに都を作った1392年以来の伝統だから、かれこれ600年を越えているわけだ。漢江(ハンガン)という大きな河川がソウルを南北に分ける形で流れており、漢江の北側は江北(カンブク)といい、漢江の南側は江南(カンナム)という。歌手PSY(サイ)が歌って全世界的な大ヒットとなった「江南スタイル」の江南は、この江南地域の中心部に位置する一つの街の名前である。

■筆者プロフィール:木口政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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