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<丹羽元駐中国大使インタビュー(1/3 )>「米国第一主義」掲げるトランプ大統領の保護主義・反移民政策は、建国の理念を破壊する

配信日時:2017年2月13日(月) 6時10分
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元駐中国大使の丹羽宇一郎・日中友好協会会長はインタビューに応じ、トランプ米大統領の就任早々の政策発動について、「保護主義的な政策を打ち出しているが、移民国家・米国でそのまま押し通したら、やればやるほど矛盾してしまう」と指摘した。写真は質問に答える丹羽氏。

伊藤忠商事元社長・会長で元駐中国大使の丹羽宇一郎・日中友好協会会長はRecord Chinaのインタビューに応じ、トランプ米大統領の就任早々の政策発動について、「保護主義的な政策を打ち出しているが、移民国家・米国でそのまま押し通したら、やればやるほど矛盾してしまう」と指摘。「トランプ大統領はこのままでは半年も経つと白人の下層の人々の不満が爆発するのではないか」と語った。(聞き手・八牧浩行)

 

――米国でトランプ大統領が就任しました。「米国ファースト」のスローガンを掲げて、保護主義的な大統領令を次々に発動していますね。

米国の主流はかつてWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)でしたが、今はカソリック教徒や多くの人種が融合する移民国家です。アイルランドとかイタリア出身者やヒスパニック系とか。ところが、最近のトランプ大統領の発言を聞くと、保護主義を排して世界をまとめていこうという気持ちが、ダボス会議の演説に見られるように、むしろ習近平国家主席のほうにあって、米中が逆転しています。

トランプ氏は国際的には孤立化しています。アメリカ第一主義と言っているが、自国第一はどの国にもある。わざわざ言わなくても、日本は日本第一だし、中国は中国第一です。それを大きく取り上げることがおかしい。

米国第一と言ったって、無人島で生きているわけではない。無人島で生きていけるなら好きなようにやったらいい。地球でいろいろな人と一緒に生きているわけだから、一人で何でもやれるわけはない。米国第一主義でロビンソンクルーソーみたいに米国一人で生きていけるのか。何事も、唯我独尊で「一人」でやろうとしても不可能だ。選挙で国民受けしたいと約束したことを、大統領就任後も打ち出しているが、鎖国時代ではないのですから、そのまま押し通したら、やればやるほど矛盾してしまう。トランプ大統領はこのままでは半年も経つとあちこちで不満が爆発すると思う。

――トランプ氏の政策はその場しのぎの各論ばかりで総論がないような気がします。

米国は数週間前まではドル高をめざしていたと思ったが、今はドル安にするような話を一生懸命やっている。各国が通貨安にして為替を操作していると批判するが、米国が財政・金融政策で金利を上げてドル高を誘導してきたのです。

人民元、円、ユーロを安くしているとトランプ氏は言うが、ドルを高くすれば他の通貨は安くなります。非常に矛盾したことをトランプ氏がやろうとしている。

大統領令を連発しても、おそらく議会で反対されたり、裁判所が認めない事態になる。憲法違反、法律違反を指摘し、各州が提訴するだろう。日本は今のトランプ氏のやり方に右往左往する必要はない。真正面から取り上げて反論しなくても、自己矛盾しているわけですから、行き詰ります。あと半年ぐらいは冷静に様子を見た方がいい。

――中国はじめ各国の反応は意外に抑制的ですね

中国は賢いですよ。ドイツのメルケル首相もあまり言いません。日本は細かいところまで反応し、トランプ氏に尾を振っているように見られているのではないですか。安倍首相がフロリダまで行ってゴルフを一緒にしました。礼儀だと思ってやっているのでしょうが、今、政治経済の世界では義理人情でうまくやろうと言うのは機能しません。

トランプ氏は、整合性のない非論理的な発言をツイッターなどでしていますが、経済政策など筋が通っていない彼の発言を真正面からとらえる必要はありません。まとまった政策を打ち出すまでは、慌てて対応しない方がいい。トランプ氏は激しくメディア批判をしていますが、この状態も長続きしないでしょう。

日本の円、人民元、ユーロなど他通貨も結果として、トランプ氏が指摘するように弱くなっている。世界的なカネの流れとしてそうなった。米国連邦準備制度理事会(FRB)が金利を上げ、今後も引き上げると見込まれるのでドル高になった。ただ、日本が約10%の円安になったのは事実。金融緩和でデフレ脱却をめざしたがうまく行っていません。通貨・為替政策は、世界全体の問題なので、G20やG7 の財務相・中央銀行総裁会議で協議すべきです。

――以前なら日本が音頭を取って緊急のG7会議やG20会議などを開催したものでしたが。

日本は経済的に存在感が薄くなり、日本が何を言っても国際的にあまり注目されなくなりました。しかし、中国、ドイツなど欧州連合(EU)も同じ政策をやっているのですから、G20 で皆さん一緒に協議しようと呼び掛けるべきだ。経済学者もしっかり主張すべきです。

――内閣官房参与の浜田宏一エール大名誉教授などは以前から円高修正論者でした。

トランプ氏からすれば日本は円安によって経済成長もプラスになってきた。米国が貿易赤字に陥っているというトランプ氏の理屈は、円安のおかげで日本は輸出を伸ばして経済成長しているという主張だ。彼らの理屈は表から裏をすかして見れば同じです。

――日本の経済界もメディアもあまりものを言わなくなりましたね。

日本メディアは本当のことを書くと「反日」と批判されるので、メディアは皆遠慮している。(自由に)書けなくなっているのではないでしょうか。

――日本の新聞も「安倍一強」になっているので書きにくくなっているようですね。

物価の安定は日銀の大きな仕事であり、その言い分は間違っていない。しかし、米国から見れば、最円高期の80円から120円に大幅円安になっているのですから、結果的とは言え、円安誘導をしていないとは言い切れない。しかし、G20 など国際的な場で協議し、各国と協調してやってきたのは確かです。“米国も含め世界共通の認識の下でやってきたことですよ”、と言えばいいと思います。

『<丹羽元駐中国大使インタビュー(2/3 )>トランプ政権と中国は“水面下で接触・取引している”のではないか―「中国仮想敵国論」は過剰反応』に続く。

<丹羽宇一郎氏プロフィール>

日中友好協会会長、グローバルビジネス学会会長、早稲田大特命教授

1939年愛知県生まれ。62年3月名古屋大学法学部卒業、同年4月伊藤忠商事入社、主に食料部門に携わる。98年4月同社社長、2004年会長に就任。この間、経済財政諮問会議民間議員、地方分権改革推進委員会委員長を務める。10年6月〜12年12月駐中国大使。著書は「中国の大問題」「危機を突破する力」「人を育てよ」「人類と地球の大問題」「中国で考えた2050年の日本と中国―北京烈日決定版」「習近平はいったい何を考えているのか」など多数。



■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役、編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。現在、日中経済文化促進会会長。Record China相談役・主筆。著著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。

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