<躍動!アジアの世紀(3)>中台韓印で育つIT起業家たち=アリババ馬氏に続き大ブレイク―先端Web、グローバル分業がけん引

八牧浩行    2017年1月3日(火) 14時40分

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世界一の経済成長センター、アジアをけん引するのは新たな技術やビジネスモデルを編み出し、市場を開拓する起業家たちである。写真は2010年6月1日、東京都内で記者会見する中国アリババ集団・馬雲会長。

世界一の経済成長センター、アジアをけん引するのは新たな技術やビジネスモデルを編み出し、市場を開拓する起業家たちである。

今から6年半前の2010年6月1日、中国アリババ集団のネット通販同国最大手、淘宝網(タオバオ)と日本ポータルサイト最大手のヤフージャパンは、両社のサイトを接続して日中間で商品を相互に購入できるインターネット通販サイトを創設。アリババ集団の馬雲ジャック・マー)会長とヤフーの孫正義会長が東京都内のホテルで共同記者会見した。孫会長は「日本と中国の経済規模は2020年には米国やEU(欧州連合)を抜いて世界一の規模となる。一つの経済圏として協力すれば発展する」と強調。マー会長も「タオバオとヤフーが組めば両社が利益を享受できる。中日両国の中小企業に進出の機会を提供したい」と語っていた。

筆者はこの会見を取材したが、マー会長はもの静かな印象で、その時はアリババが短期間に急成長して過去最大のIPO(株式公開)を演じることになるとは思いもよらなかったが、 14年9月、アリババ集団が米ニューヨーク証券取引所に上場。新規株式公開で調達した資金は直後に250億ドル(約3兆円)に達し、アリババ株の32%を保有するソフトバンクも追い風を受け、孫正義社長の総資産は166億ドル(約2兆円)となり、日本一の富豪に躍り出た。

アリババの馬氏はクレジットカードなど個人の決済手段が発達していなかった中国で、自ら決済の仕組みをつくったことが大ブレイクにつながった。商品発送と代金振り込みの双方を確認してから取引を成立させるシステムで、顔の見えない相手とも安心して取引できるようになった。

IT(情報技術)分野で進む「グローバル分業」もアジアで花開いた。アップルのように商品の企画・販売に専念する企業から受託して生産に特化する企業が相次ぎ登場。魅力的な商品を安い価格で作る仕組みが一気に広がった。

世界のIT集散地、米シリコンバレーを支えているのは、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)や、台湾積体電路製造(TSMC)の張忠謀(モリス・チャン)ら台湾の起業家である。

鴻海は2016年にシャープを傘下に収めた。TSMCはiPhone(アイフォーン)用半導体の大部分を供給しているが、新たに人工知能(AI)向け事業の拡大を狙っている。

◆中国企業、「グローバル500企業」に110社

米経済誌フォーチュンが選ぶ恒例の「グローバル500企業」(売上高ランキング)の2016版に、中国企業は米国に次ぐ110社が選ばれ、万科など13社が初めてトップ500社入りした。米ウォルマートが3年連続のトップだったが、15年の営業収入は4821億ドルで前年比0.7%減少。上位5位のうち中国企業が3社を占めた。国家電網公司が2位に躍進し、中国石油天然気集団公司は3位、中国石化集団公司は4位だった。金融や通信、資源・エネルギーといった業種を中心に経済活動で圧倒的優位に立つ国有企業のほか、交流サイト(SNS)大手の騰訊控股(テンセント)など民営企業も多い。

このほかのアジア企業も躍進。域内6億人の市場を擁し中間層が膨らむ東南アジアの企業存在感も急速に向上している。シンガポールでは倉庫大手のグローバル・ロジスティック・プロパティーズなど積極的に海外展開している企業が目立つ。タイでは華人財閥系のチャロン・ポカパン・フーズ(CPF)など食品関連企業が有力だ

韓国は、サムスン電子や現代自動車など、グローバル市場で高いシェアを持つ財閥系有名企業が多く存在。インドでもタタ・グループ、リライアンス・グループといった財閥に属している有力企業が目立つ。インド経済の稼ぎ頭になっているのはITサービス、後発薬メーカーなどである。

一方、日本企業はここ数年、番付入り企業数が減少を続けており、52社にとどまった。ドイツ、英国、フランスなど欧州企業は計84社だった。

◆有機EL投資など先端分野でも世界をリード

中国では2000年代前半から長らく、富豪ランキングトップ10には不動産業界の大物たちが顔を並べてきた。しかし、保有資産1000億円以上の富豪ランキングにIT業界の実業家たちが続々登場し、最近その半数に達した。アリババ集団、検索エンジン大手のバイドゥ、メッセージアプリのテンセントがインターネット御三家といわれ、この3社の時価総額は50兆円以上に達する。優秀な人材が付加価値の高いビジネス展開が可能なIT業界へ、旧来の産業から大きくシフト。中国内のベンチャー企業は数十万社以上に達し、これらを支える投資機関は約1000社に上るが、さらに拡大する一方という。

IT業界筋によると、有機EL投資など先端分野でも、アジア企業は技術力が向上。中国では、液晶パネルや半導体巨大メモリー工場建設計画が目白押し。鴻海とシャープが共同出資するテレビ向け液晶パネル生産会社、堺ディスプレイプロダクトは中国の広州市政府と共同で、世界最大級のパネル工場を約1兆円を投じて同市に新設することになった。

中国レノボは富士通のパソコン部門を、5年前のNEC同部門に続き買収。10年以上前には米IBMのパソコン部門を買収しており、レノボのパソコンは世界一の座を不動のものとした。中国メーカーDJIは小型無人機「ドローン」で世界最大シェア(約6割)を占める。「爆投資」によって世界のデジタル産業をのみ込もうとしている。

このアジア躍進の土台となるのが巨大人口。若年層も多い。国連推計によると15年時点のアジア(日本含む)の人口は39億6千万人。世界全体の54%にのぼる。労働人口や消費市場が拡大し、アジア企業を育んでいる。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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