<コラム>韓国全体が動く毎年恒例の行事、地震で延期になりあちこちでパニック状態

木口 政樹    2017年11月17日(金) 18時10分

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受験の季節がやって来た。受験戦争などという言葉がいつ頃から使われているか分からないが、こちら韓国も受験戦争、受験地獄の面ではどの国にも引けを取らないすさまじい国だ。写真はソウル・梨花女子大。

日本は、大学入試センター試験の出願も始まり、私立大学の募集要項も出始めている頃だろうと思う。受験の季節がやって来た。受験戦争などという言葉がいつ頃から使われているか分からないが、こちら韓国も受験戦争、受験地獄の面ではどの国にも引けを取らないすさまじい国だ。

受験戦争を象徴するものの一つに「ヤジャ」というものがある。「夜間自律学習」の「夜自」を取って「ヤジャ」という。高校生の夜間学習のことである。有名校はもちろんのこと、韓国のありとあらゆる高校で、このヤジャというものがある。男子高、女子高を問わない。高校1年生からこのヤジャはある。放課後になっても家に帰るのではなく学校に残り、夕食を食べてから教室で学習が始まる。担任の先生がいることもあるが、普通は生徒だけで学級委員が中心となり自習が行われる。1年生は夜9時まで。2年生は夜10時まで。3年生は夜11時までというのが大部分の高校のスタイルといえるだろう。

これが毎日続くわけだ。どうだろうか。日本の皆さん、想像できますか?ただし、「自律学習」ということなので、勉強する子もいれば、友達とグラウンドに行っておしゃべりをして過ごす子もいるのは世の常。3年生ともなるとさすがにほとんどのクラスで静かに黙々と勉強に励む姿が見られると、韓国の女子高に通ったわが子も言っていた。

ヤジャが終わるのは、大学修学能力試験の日である。日本で言う大学入試センター試験。韓国ではこれを「修能(スヌン)」と言っている。11月の第2か第3週目の木曜がだいたい毎年その日である。この日はまた大変だ。受験生のために、会社の出勤時間を1時間遅めたり早めたりして交通の混雑を緩和しようとするほどだ。また遅刻しそうな生徒がいたら、すかさずパトカーや白バイが動員され、その生徒を向かうべき所定の受験場に運んでくれる。

数年前、日本の新聞で見た記事だが、京都でもこうした遅刻学生がいてパトカーが動員され20キロほど突っ走って生徒を試験場まで運んでくれたそうだ。そうすると京都府警に700件を超す反響が届いたそうだが、8対2で賛成が多かったという。「反対」は、「甘過ぎる」「不公平だ」といった意見。韓国だったらこういう賛否論争はあり得ない。10対0で皆賛成ということになろう。韓国の高校生もこの修能の翌日からはヤジャがなくなるのである。

社会全体が同時に動く修能。今年2017年は、本来は11月16日(木)の予定であったのだが、11月15日(水)に起こったマグニチュード5.4の浦項(ポハン)地震のあおりで、日取りが1週間延期されることが15日の夜遅くに急きょ発表された。11月23日(木)に実施されることになったわけだ。泣く子も黙る修能。絶対的存在である修能。でもそれが地震のため延期された。自然災害のための延期は、今まで一度もなかったことである。

韓国においては、地震は非常に恐ろしい存在なのである。なにしろここ数十年、ほとんど体感地震というのはなかった国だ。それもむべなるかなであろう。去年2016年の慶州(キョンジュ)地震を契機に韓国も一気に地震大国とまではいかないまでも、いつ地震が来てもおかしくない国となってしまった。地震などない方がいいに越したことはないけれど、韓国の人の顔を見ていると、地震国家となってなんとなく一安心したような、一丁前になったような、先進国の隊列に頭を並べたようなそんな自負心みたいなものがあるなと筆者は感じている。最もこんな私の感覚は間違っているかもしれないけれど。

面白いと言ってはなんだが、修能が1週間ずれたおかげで、いろいろの副作用が現れている。受験生は1週間延びたことは延びたのだが、16日にメンタルもフィジカルも合わせてきていて突然「1週間後」となったため、集中がくだけて「コテン」となった子もいるし、前日15日(水)の夜にこれまで勉強していた教材を全部捨ててきれいさっぱりとした気持ちで修能を迎える風習も一部ではあるらしく、塾の先生が「早く塾に来て捨てた教材を持って行って」と広報しているところもあるようだ。

またこれは韓国的と言えるのだが、整形手術の予約のキャンセルが相次ぎ、整形の病院がパニックに陥っているところもあるらしい。さらには、修能を終えて17日から家族旅行を計画している家庭も多かったのだが、これが全部またキャンセルとならざるを得ず、済州島(チェジュド)や釜山(プサン)など観光地のホテルや旅館、ペンションなどもパニック的な状況らしい。修能のような全社会的な行事が予定変更されるというのは、想像をはるかに超えたアクシデントがあちこちに出てしまうもののようだ。

■筆者プロフィール:木口政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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