<トランプ米政権>世界的な地殻変動が起きる?中・露・北朝鮮に接近も―アベノミクスには逆風か

八牧浩行    2016年11月19日(土) 5時10分

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トランプ氏の米大統領選勝利はグローバル化に対する反発の声が高まり、「強いアメリカを取り戻す」「米国ファースト」との主張に多くの米国民が共鳴した結果だ。新政権の発足により、世界的な地殻変動が起きるとの声が多い。写真は中国で出版されたトランプ氏伝記。

米大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が就任することになった。所得格差の拡大を背景にグローバル化に対する反発の声が高まり、トランプ氏の「強いアメリカを取り戻す」「米国ファースト」との主張に多くの米国民が共鳴した。英国の欧州連合(EU)離脱を選択した英国民投票結果と併せ、世界的に保護主義や排他主義の潮流が拡大、「ソ連崩壊(1991年)以上の大きな変化が起きる」と警告する声まである。グローバル化の恩恵を受けてきた日本経済への影響も懸念される。

米大統領選挙でのトランプ氏勝利はグローバル化に対する米国民の疑念が背景。若者を中心に職が奪われ所得格差が拡大していることに反発したものだ。トランプ氏の政策は、(1)自由貿易に制限をかけることで米国民の雇用を増やす、(2)軍の展開を縮小することで米国が負担しているコストを下げる、という2つの視点でアメリカという国家を経営しようとしている。環太平洋連携協定(TPP)廃止を看板公約に掲げるトランプ氏の勝利で、グローバル化の象徴と言えるTPPの成立は絶望的だ。米国の「アジア回帰戦略」が足踏みしたと言える。

アベノミクスは基本的には外需に期待しているため、「米国経済再建第一主義」を掲げるトランプ政権の登場で厳しいものになると見られている。かねてトランプ氏は「米国を利用して一方的に利益を得ている」と考えている国として日本を非難してきた。米有力紙に全面広告を出し、「日本は国防のために巨額の費用を払うことなく米国から一方的に恩恵を受けてきた。さらに円安・ドル高を維持し続けることで、日本を世界経済の一線に押し上げた」と訴えたこともある。トランプ氏のこのような見方は、少なくとも過去30年間、一貫しており、厳しい対日政策を展開する可能性が高い。

◆TPPに代わる自由貿易圏づくり

安倍政権は自由貿易を成長戦略の柱に据えてきただけに、TPPの頓挫は大きな打撃となる。日本はTPPに代わる自由貿易圏づくりを主導する必要がある。

もともと日本は、将来構想として、TPPと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)とを合わせたアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」の実現を目指している。中国と日本を中心に進められているRCEPは、日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドの6カ国がAEAN10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)との自由貿易協定を束ねるもの。世界最大の自由貿易圏構想だ。交渉が難航し、年内の合意は断念したが、なお結成努力は続けられている。

TPPは米国抜きでも踏み台になり得る。トランプ氏の排外的な政策が「貿易戦争」の引き金となる恐れがある。米国が保護主義に転換し高関税政策を導入。これに各国が対抗措置を取れば、世界は完全に貿易戦争のパターンに陥ってしまう。これによって、米国経済は2019年にマイナス成長に陥り、約480万人の雇用を失うと指摘する米シンクタンクもある。TPPは貿易や投資の自由化で経済を活性化させ、世界の経済成長を取り戻し、中長期的には米国にとっても利益をもたらすことに気付くべきであろう。

TPPに参加する新興国は、米国や日本といった巨大市場への輸出を拡大したいとの思惑がとりわけ強い。メキシコのグアハルド経済相は米国を除く11カ国で協定が発効できるように条項見直しを提案すると表明した。ペルーのクチンスキ大統領も、「米国を外した新たな環太平洋での経済連携協定を構築すべきだ」と発言。中国やロシアなどを加える案にまで言及した。オーストラリアのビショップ外相も「TPPが進展しなければ、その空白は中国が主導するRCEPに埋められるだろう」と述べている。

◆アジア諸国との連携不可欠

日本の人口の長期減少傾向は深刻で、2050年には9千5百万人と、現在より3千万人減となる。一方で同年には中国の国内総生産(GDP)は日本の10倍に拡大する。日本は中国やインドなどアジア諸国と共存共栄の道を歩み、伸長著しいアジアのパワーを活用しなければ生きていくのは難しく、これら諸国とウィンウィンの関係を構築する努力が欠かせない。

「強い米国経済を取り戻す」ことを優先課題とするトランプ氏は、(大きなマーケットを有する)中国とは取引ができると考えている。習近平国家主席とトランプ氏は電話会談で、互いにエールを送った。中国国内には経済最優先のトランプ新政権はオバマ政権と異なり人権問題や価値観外交、南シナ海など領土問題にはあまり関心がないと見る向きが多い。

トランプ氏は選挙前にロシアのプーチン大統領とは「話ができる」と発言。プーチン氏もトランプ候補の勝利後、「米露関係を危機的な状況から抜け出させ、国際的な課題の解決につながるような相互協力を望む」と呼び掛けた。

オバマ政権は「戦略的忍耐」として、北朝鮮政策を推進しなかったが、トランプ政権は、北朝鮮の核開発が既成事実化する中、何らかの対応策講じざるを得ない状況となる。トランプ氏は、北朝鮮の金正恩との面会に意欲を示し、「会うことに何の問題もない」と発言している。

トランプ新政権の発足により、世界は外交・経済両面で、大きな地殻変動に見舞われる可能性がある。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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