<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼・特集版第3回「福原愛・卓球」

Record China    2008年2月6日(水) 11時56分

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レコードチャイナが配信する「中国発のオリンピック・パラリンピック事情」。北京在住の朝倉浩之氏による個人ブログ記事「<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼」。1月中の記事を中心とした「特集版」の第3回は「福原愛・卓球」。

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レコードチャイナでは、2008年2月以降、現地在住の専門家らが発信している中国発のオリンピック・パラリンピック事情を随時配信する。

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その第3弾として北京在住の日本人ラジオ局パーソナリティ朝倉浩之氏による個人ブログ記事を転載して「<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼」としてお送りする。

同氏は、日本の民放テレビ局でスポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に携わった後中国に渡り、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、各種ラジオ番組などに出演。「一般中国人とともに暮らす生活者ならでは」という視点に立って、北京における「変化の空気」を織り込みながら、「街」そして「人々」にスポットを当てて情報発信したいと意欲的だ。

 まずは、1月中に同ブログに掲載された記事を中心に競技・分野別にまとめた「特集版」のうち第3回「福原愛卓球」をお送りする。「特集版」5回分の終了後は同ブログをほぼリアルタイムで配信する予定。

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■プロフィール:朝倉浩之

奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。

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■■■■■2007年12月15日■■■■■

福原愛、単複破れる…来年の課題は暑さ克服?(現地レポ)

プレ五輪の一つとして行われている卓球プロツアーのグランドファイナルは昨日、北京大学体育館で開幕。今日の第2日は日本の福原愛がシングルス、ダブルスに出場したが、いずれも敗れた。

来年の五輪出場を確実にしている福原は来年の会場での初試合。まずは平野早矢香と組んで、韓国勢に挑んだが、セットカウント4−2で破れ、初戦突破はならなかった。続くシングルスは、ダブルス終了わずか30分後。改めてコートに顔を見せた福原は若干、疲れが出ているようではあった。

相手は、世界選手権の王者で、世界ランク3位の郭躍(19歳・遼寧省)。体育館の照明が予想以上にきつく『暑かった』と振り返る福原だが、その力の差は、暑さや疲れだけのものではなかった。第1セットこそ、調子の出ない郭躍を中盤から突き放し、11−7で先取したものの、その後は、郭躍の強さと安定感に圧倒された。第2セット、第3セットこそ、競り合う場面が見られたが、第4セットは中盤から完全に集中力を切らし、大差をつけられた。王者の勢いは最終セットも止まらず、結局、セットカウント4−2で破れ、今年、最後の大舞台は、初戦で姿を消すことになった。

■■■■■「福原 加油!!」■■■■■

試合中、福原のスマッシュが決まったり、いいプレーが出たときは場内が拍手に包まれる。またピンチになると、「福原(フーユエン) 加油(がんばれ)!」という掛け声が飛ぶ。中国人選手と対戦して、声援が飛ぶのは、恐らく福原くらいだろう。中国人の間でも、「お人形さん」という愛称で呼ばれ、親しまれている、その人気ぶりが分かる試合風景となった。さらに、試合後は、対戦相手の郭躍を差し置いて、中国メディアが福原の周りを囲んだ。次々と中国語で質問をする記者に対して、きれいな発音の中国語で丁寧に答える福原。マスコミに対する丁寧な応対は、福原が愛される理由の一つだが、中国メディアへの対応振りも、他の中国選手も及ばないほど、誠実だと思う。中国のテレビ・新聞メディアが殺到し、それに中国語で応えるものだから、日本から大挙してやってきた記者陣が待ちぼうけを食らわされるという風景も見られた。来年の北京五輪では、恐らく唯一、新聞の1面を飾れる日本人アスリートとなるだろう。

照明が暑い?

試合後の取材を終えたあと、ヘタヘタと地面に座り込んだ福原。一言、『疲れた』…。世界初の卓球専用スタジアムとして建設された北京大学体育館。だが、福原は中国メディアに対しては、「スタジアムは素晴らしい」とコメントしたものの、日本のマスコミに対しては、本音を吐いた。「とにかく暑かった」という福原は、試合中、何度もラケットで体を仰ぐ姿、そして汗をタオルで拭く姿が見られた。ダブルスの第2セット目あたりから、照明による暑さを感じ、体力の消耗がかなり激しかったという。強い照明については「テレビ局にいるみたい」と記者団を笑わせたが、来年に向けて、その克服が重要なのは間違いない。「プレーで対策を練るのではなく、別のやり方で」という福原は、暑い日にランニングをするなどの根本的な体力向上による暑さ対策をしていくと語った。北京五輪が開催されるのは8月。その暑さは、今回の比ではないだろう。「今日は技術よりも体力の差」と振り返った福原。来年の本番を前に、会場自体のクセを知ることが出来たのは大きな収穫といえるだろう。

■■■■■2007年12月17日■■■■■

卓球王国のすごさ…観客の声援に脱帽

卓球のプレ五輪「プロツアーファイナル」は16日、閉幕。結局、女子ダブルスで韓国ペアが決勝進出したのを除いて、いずれも決勝は中国人同士の対戦となった。男女単複は全て中国勢が優勝した。

女子単は世界ランク4位の李暁霞がザグレブ世界選手権覇者の郭躍をやぶって最終戦を制した。決勝の組み合わせは世界選手権と同じ。その雪辱を果たしたことになる。また男子単の決勝は、世界ランクトップ二人の対戦となり、ランク2位の馬琳が1位の王コウを下して優勝した。唯一、中国人以外が出場した女子複の決勝。郭躍・李暁霞の相手は、1回戦で福原愛のペアを下したキム・キュンア、ポク・ミヨン組(韓国)だ。カットを多用して、中国ペアの力のあるレシーブを交わしながら、接戦に持ち込んだ韓国ペアだが、結局4−2で郭躍・李暁霞が勝利。満員の会場の声援も後押しした。

チケットは、大会2日前までにすでに完売。決勝当日も、無人となって閉鎖された売り場に、チケットを求めてやってくる人が後を立たなかった。

会場は販売されていない席を除いて、ほぼ満員。最終試合の男子シングルスは夜11時を回った。北京の地下鉄・バスはいずれも、この時間は当てにできない。会場の北京大学は北京の北側にあり、決して交通が便利な場所ではないのだが、会場の観客はほとんど席を立つことなく、試合終了まで見守った。

さすがは卓球王国…

4つの金メダルを全て総なめ…これは最近の国際大会では当然のことであり、むしろ金メダルがとれなければ、翌日の新聞でコテンパンに叩かれてしまう。そんな強烈なプレッシャーの中で戦う選手たちは大変だ。会場に響く「加油(ジアヨウ・がんばれ)」の大声援は、同時に、「国技」に挑む選手たちに対する強いプレッシャーでもある。そして、「卓球王国」ぶりを感じさせるのは、選手の力だけではない。会場の応援も素晴らしい。『観客の観戦マナー』については、私もこのブログ記事を通じて、何度か話題にしたが、事、卓球に関しては「さすが」と脱帽である。

 誰か一人が選手の名前、例えば「王楠」と叫べば、その周囲の人たちが「加油(ジアヨウ・がんばれ)」と続く。それを繰り返す応援なのだが、選手がサーブのために身をすっとかがめた瞬間に、その声が止んで、『息を飲む』音が聞こえる。会場が一瞬、緊張するのだ。全てのスポーツに、この『息を飲む』瞬間があり、これを楽しむことがスポーツ観戦の醍醐味だと思うのだが、一連のプレ五輪シリーズで、この感覚を味わえたのは、今回が最初だ。

 また中国人の観客は、「中国人同士」の対戦における応援の仕方をよく分かっている。卓球ではしばしばそういった場面が見られるからだろう。その局面で、劣勢にある選手の名前を呼び上げ、会場全体がそれに続く。その「選手選び」が実に的確なのだ。だが、あまりに、一人の選手の名前が連呼されすぎると、別の場所から、相手の名前も出てくる。声のかけ方、内容、タイミング…いずれも抜群だと感じた。

 歌舞伎などの伝統芸能でも観客のかけ声一つで、その舞台が変わってくるという。また優れたスポーツ文化は観客が育てていくもの…というのは、このブログでも何度も触れていることだ。

 試合中、一流のスター達の名を呼ぶ子供たちのかけ声が何度も上がった。世界トップレベルの選手が自分と同じ中国人であることを誇りに思い、憧れの気持ちを持つ子供達は多いだろう。

 女子シングルスの決勝は、郭躍と李暁霞…いずれも20歳に満たない選手だ。かつての女王、王楠…そして世界トップを走り続ける張イ寧も、観客席でその試合を傍観していた。中国では、トップ選手が世界一を守り続けるだけでなく、後から次々と、若い選手が登場してきて、新陳代謝が起こる。そのスピードが異常に早い。

 中国のスポーツ選手といえば、国家が育てる「ステートアマ」のイメージが強いが、本当の「王国」は、それだけで作り上げられるものではない。その“幹”になる部分は、選手、観客、そして未来を担う子供たちが一体となって、作り上げている…そんな気がした。

■■■■■2008年01月07日 ■■■■■

強豪ひしめく卓球五輪代表、決定は6月以降

日本の卓球代表は福原、平野で決まりそうだが、『卓球王国』中国は、話がそう簡単ではない。

1月3日、国際卓球連盟は最新の世界ランキングを発表した。規定によると、このランキングで上位20位に入った選手が自動的に五輪出場資格を得るが、その数は各国2名以下と決まっている。つまり、3名以上が上位20位に入っていても、出場資格は得られないというわけだ。

最新のランキングでは、男子がワン・ハオとマー・リンが1位、2位を占めた。また女子は、若手のグオ・ユエが初めて1位となり、“女王”ジャン・イニンに取って代わった。

ここには、かつてのトップランカー、男子のワン・リージンと女子のワン・ナンが入っていない。中国卓球陣の層の厚さを改めて感じるランキングとなった。

今のところ、男女の上位二人が直接、オリンピックに出場。そして、二人のベテラン、ワン・リージンとワン・ナンが3月6日から香港で行われる五輪アジア予選に出場して、『第3の切符』を争うという見方が強い。ここでベスト8以上に入れば(よほどのことがない限り、間違いないが…)中国は“予定通り”3つの席を確保することになる。

ただ、当局責任者は「五輪出場者はまだ決定していないし、最終エントリー期日まで公開はしない」という方針を明確にしている。

規定によると、2008年1月最初の世界ランキングが発表されたのを受け、各国連盟は、五輪出場選手を内定しなければならない。だが、これはあくまで『仮決定』であり、6月15日の最終エントリーまでに変更することができる。

卓球の全種目を“総なめ”することを義務付けられている中国卓球陣としては、最後の最後まで、選手の確定を公表せず、与えられた3枠を、その時点での最高の布陣で臨もうというわけだ。

実際、中国のトップ選手間の差は非常に小さく、各国際大会の優勝者も、中国選手が互いに奪い合う格好となっている。誰が出ても、世界トップ3を占めることは間違いないというわけだ。

“超”卓球強国、中国ならではの贅沢な悩み…大会前まで誰が出てくるか分からない…北京五輪のドラマはすでに始まっているといっていいかもしれない。

<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>(了)

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