<コラム>中国社会の「足元の闇」=道路で、橋で、住宅で止まらぬ陥没・穴あき事故

如月隼人    2016年9月8日(木) 18時0分

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中国各地で7月末から、道路や駐車場、橋が突然陥没したり大穴が開く事故が目立って増えた。人々は、高度成長を謳歌していた時期に、取り残してしまった「闇の部分」を突きつけられた格好だ。写真は23日、蘭州で起きた道路陥没事故。

中国各地で7月末から、道路や駐車場、橋が突然陥没したり大穴が開く事故が目立って増えた。人々は、高度成長を謳歌していた時期に、取り残してしまった「闇の部分」を突きつけられた格好だ。

甘粛省蘭州市では8月23日から25日までの3日間、道路に穴が開く事故が6回発生した。23日には繁華街の歩道に大きな穴が開き、歩行者などが転落した。それから25日まで、車道に突然開いた穴に乗用車、バス、コンクリートミキサーが落ちた。

「穴開き事故」の主なニュースをざっと見ただけでも、福建省、海南省、天津市、陝西省、湖北省、上海市、江蘇省、重慶市、広西チワン族自治区、広東省、黒龍江省と、中国全土の北から南まで、沿海の経済先進地域から内陸部まで「まんべんなく」発生しているように見える。

道路に穴が開く原因としては、地下に敷設した水道管が破損して水が漏れ、周囲の土砂を押し流して空洞を開けてしまうことがある。その他、雨水管の作りが粗雑で、漏れた水が土砂を流してしまう場合もある。

7月末から「道路陥没」が目立つようになったのは、今年(2016年)の春以降、同月までに中国各地が大雨に見舞われ、雨水管絡みのトラブルが多発したため、問題発生が「いつも以上」に多くなったためと考えられている。

大雨絡みの事故を別にしても、「水道管の破損」だけでも深刻な状況だ。深セン市人民市政府の所在地である福田区当局によると、同区では2016年になってから8月19日までに、「規模が比較的大きい」陥没事故または事故につながる事態が105件、発生した。陥没事故は、水道管などが集中している上に老朽化が進む地区で集中しているという。

深センが都市として発達しはじめたのは、1980年に経済特区に指定されてからだ。それまでは、香港に隣接する農漁村だった。さらに言えば、都市化が真に急速に進んだのは、トウ小平が1992年に行った「南巡講話」の後だ。つまり、都市としての歴史は極めて短いにも関わらず、「水道インフラの老朽化」が深刻な事態に陥っていると理解せざるをえないことになる。

中国は、トウ小平が強力に進めた改革開放のおかげで、世界を驚かせる高度成長を実現することができた。そのこと自体は、共産党政権が実現した大きな成果だったと高く評価することができる。

しかし、大きな問題を残してしまったことも、事実だ。深刻な環境汚染、貧富の格差の拡大、高官にはびこる腐敗問題などだ。道路陥没の多発に見らえる「あまりにも脆弱(ぜいじゃく)なインフラ」も、問題点の1つに数えてよい。

さらに深刻なのは、「脆弱なインフラ」は、中国の統治システムにも本質的な部分でかかわっていることだ。中国の各地の行政は地方政府にゆだねられている面が大きい。そして、民意を直接問う普通選挙は存在しない。各地の政治責任者は、その上部にある共産党委員会などに評価されるシステムだ。高く評価されれば「昇進」が待っているし、評価されなければ左遷される場合もある。

したがって、県や市の上層部が、「上から評価される見栄えのよい事業に熱中し、地味な仕事は軽んじる」という風潮が強い。

8月下旬に道路陥没が集中して発生した甘粛省蘭州市では、市当局が10年前から、街の美化や緑化に努めてきた。環境整備は住民に歓迎され、共産党上部の高い評価も得やすいため、多くの都市で力を入れている事業だ。しかし蘭州市では道路陥没が集中して発生したことで、「都市の外観はどんどん美しくなった。しかし足元はどんどん脆弱になってしまった」との批判の声が出た。(9月8日寄稿)

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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