米9.11報復アフガン爆撃は「ヒステリックだった!」=国を破壊、市民多数が死亡―住民支援30年、“アジアのノーベル賞”受賞日本人が非難

八牧浩行    2016年8月27日(土) 9時40分

拡大

パキスタンとアフガニスタンで、30年にわたり医療や民生支援の活動を続けてきた中村哲・ペシャワール会現地代表が日本記者クラブで会見。2001年9月のNY同時多発テロ後に、「米軍による報復無差別爆撃によって、一般市民多数が犠牲になった」と非難した。

2016年8月26日、パキスタンとアフガニスタンで、30年にわたり貧者、弱者のための医療や開拓・民生支援の活動を続けてきた中村哲・ペシャワール会現地代表が日本記者クラブで会見した。2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロ後に、「米国や世界中がヒステリックな状態になり、米軍による報復無差別爆撃によって、多くの子どもや女性など一般市民が犠牲になった」と非難。現地の住民の立場に立ち、現地の文化や価値観を尊重することが大切だと強調した。

中村氏は1973年に九州大医学部を卒業後、国内の病院勤務を経て、1984 年にパキスタン北西辺境州の州都ペシャワールのミッション病院に赴任。以来、貧困層に多いハンセン病や腸管感染症などの治療に従事、難民キャンプや山岳地域での診療へと活動を広げた。2000年に旱ばつ被害が甚大なアフガニスタンで飲料水・灌漑用井戸事業を始め、2003年から農村復興のため大がかりな水利事業に携わった。

住民の生活向上や平和構築を目指す現地での活動は、国際的に高く評価され、同氏は「アジアのノーベル賞」と言われるマグサイサイ賞を受賞している。

中村氏の発言要旨は次の通り。

アフガニスタンは日本にとって最もなじみの薄い世界。中国を飛び越えて西へ6000キロ。

標高6000メートル以上のヒンズークシ山脈に覆われている。

人口は約2000万人で、自給自足の農業で暮らしている。降雨量は日本の20分の1。山脈の雪が少しずつ解け命をつないできた。かつて100%近い食料自給率を誇る農業国だったが、現在は壊滅状態になっている。

中央集権とは対極の緩やかな首長制で、近代国家とは程遠い。山が高く谷が深い。民族の十字路と言われるほどの多民族国家で、欧米、日本、中国、韓国のような近代国家ではない。警察組織も全土を把握しておらず、日本の戦国時代に似ている。

国家の代わりになるのがイスラム共同体。国民の100%近くが敬虔なイスラム教徒で、法治国家の体制がない中で、もめごとはモスクで話し合われる。貧富の差がはなはだしく、金持ちは海外で高額治療を受けられるが、99%の人が数十円程度のお金がなくて死んでいく。

◆干ばつで村が次々に消えた

アフガン戦争の真っただ中に、ソ連軍や米欧軍が侵攻した。戦死者は200万人、600万人が難民になった。ありとあらゆる感染症が蔓延していた。戦火が下火になったら、診療所を積極的に出して。ハンセン病だけでなくあらゆる治療をするようにした。片道1週間かかる高地から来る患者も多く、途中で息絶える子どももいた。

話題性があるときは人も金もモノも集まるが、関心がなくなれば見向きもされなくなる。

1998年ごろ、ゲリラグループが対立し、内戦状態になった。私たちは患者をほったらかして、逃げるわけにはいかない。

タリバン政権が誕生した後、2000年に世紀の大干ばつに見舞われた。1200万人が被害を受け、うち400万人が飢餓状態で、100万人が餓死寸前だった。次々に村が消えた。水がなく食べ物も取れない子どもが栄養失調で死んでいった。薬では飢えや乾きは直せない。

◆米国、人道的「ピンポイント攻撃」と虚言

2001年9月11日、ニューヨーク同時多発テロが発生。翌日から米軍による報復爆撃が始まった。空爆でテロリストを掃討することは難しい。タリバン政権と言っても、普通の市民は普通に暮らしていた。

世界の大勢は米国の空爆を支持したが、私たちは反対し、空爆下で食料を配った。米国はじめ世界中がヒステリック(感情的)になり、テレビの解説者は野球サッカーのゲームを見るように評論した。米国は人道的な「ピンポイント攻撃」なのでテロリストだけを攻撃すると言っていたが、実際は無差別爆撃だった。真っ先に子どもや女性、老人が犠牲になった。食糧を必要な人に配給できるか迷ったが、ボランティアが頑張ってくれた。

「極悪非道の悪・タリバン打倒」と叫び、自由と正義の味方を誇示する映像が繰り返し流された。米軍の進軍とともにケシが栽培され、アフガンは不名誉な麻薬大国になった。生活に困窮した女性が外国人相手に売春し、権力者に取り入る人間が得をするようになった。私たちは飲み水として地下水利用の灌漑施設をつくった。

豊かだった村が数年で砂漠化したので、2003年に緑の大地計画をスタートさせ、用水路をつくった。計画を立てるのはやさしいが、難しいことが多い。電気も機械もないので一般的な機器は使えず、ツルハシとシャベルだけの手作業だった。

現場の対日感情はとてもいい。急流河川なので農業は集約的で日本に近い。日本で完成した技術が役に立つ。

◆「西洋対イスラム教」の対立に呑まれるな!

すべて武力だけでは解決しない。人々が和解し人と自然がいかに折り合っていくのかが今後の課題となる。現地住民の立場に立ち、現地の文化や価値観を尊重することが大切だ。

IS(イスラム国)に現場作業員の中で共感する人もいるが、ISは全く新しい近代的なグル−プ。明らかに外国の勢力によってつくられ、アフガンにはなじまない。アフガン人は生活に困れば、米軍や反政府勢力の傭兵になる。

治安の問題は国によって違う。日本人はイスラム教とかかわりがないという先入観で動くリスクが大きい。危ないと思われるところに行かないことだ。地域の情勢を把握して自分で守れるものは守る。日本だけは西洋対イスラム教という対立の構図の中に呑みこまれないでほしい。個人ではどうしようもないことだが、国家が配慮することが重要だ。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携