<コラム>台湾・蔡英文総統の「先住民族に対する謝罪」全文(第2回)台湾全社会の和解目指す、必要なのは真実を語ること

如月隼人    2016年8月4日(木) 20時10分

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政府は当時、ヤミ族の人の知らないうちに、放射性廃棄物を蘭嶼に貯蔵しました(解説参照)。ヤミ族の人は、放射性廃棄物のために被害を受けました。だから私は政府を代表して、ヤミ人にお詫びするのです。写真は台湾総統府の公式サイトより。

政府は当時、ヤミ族の人の知らないうちに、放射性廃棄物を蘭嶼に貯蔵しました(解説参照)。ヤミ族の人は、放射性廃棄物のために被害を受けました。だから私は政府を代表して、ヤミ人にお詫びするのです。

外来者が台湾に来て以来、西部平原に住んでいた平埔のエスニック・グループに属する人々は、まず外来者と接触する矢面に立たされました。そして歴代統治者は平埔というエスニック・グループを個人としても、民族としても身分を消し去りました。だから私は政府を代表して、平埔のエスニック・グループにお詫びするのです。

民主化ののち、国は原住民族が起こした運動の求めに、応じるようになりました。政府はある程度を認め、ある程度の努力をしました。私たちは、かなり進歩した「原住民族基本法」を持つことになりました。しかし、政府機関が普遍的に、この法律を重視してきたわけではありません。私たちの行いにはスピードが欠け、全面さが欠け、十分さも欠けていました。だから私は政府を代表して、原住民族にお詫びするのです。

台湾は自らを「多元文化」の社会と称しています。しかし今日に至るまで、原住民族についての健康面、教育、経済生活、政府への参加などさまざまな指標には、非原住民族と比べて大きな落差があります。同時に、原住民族に対して刻まれたイメージ、はなはだしい場合には差別視は、今も消えていません。政府のしたことは足りませんでした。原住民族はその他のエスニック・グループが経験したり感じたことのない苦痛と挫折を味わってきました。だから私は政府を代表して、原住民族にお詫びするのです。

私たちには努力が足りませんでした。しかも、幾世代にもわたって、私たちの努力が足りないことに気づきませんでした。その結果、(原住民族)ひとりひとりの身に苦難を押し付け、今日にまで至ったのです。本当に申し訳ありませんでした。

本日のお詫びは、遅きに失したものではありますが、ひとつのスタートでもあります。私は、原住民族が背負ってきた400年の苦難と被害が、文章1篇、お詫びの言葉ひとつで消えるとは思っていません。しかし私は心から期待しています。本日のお詫びが、この国にいるすべての人が和解に向かう始まりになることをです。

原住民族の知恵を用いて、本日の状況を説明することをお許しください。タイヤル族の言葉で「Balay」とは「真相」を意味します。そして「和解」は「Sbalay」です。「真相」という言葉の前に「S」をひとつ加えたことばです。つまり、「真相」と「和解」は、関係がある考え方というのです。言葉を換えれば、本当の和解とは誠実に真相に向き合ってこそ、達成できると言うのです。

原住民族の文化では、集落の別の人に申し訳ないことをして怒らせてしまった場合、和解しようということになれば、集落の長老は加害者と被害者を同席させます。直接、謝罪をさせるのではありません。それぞれの側に、自分の心がどのような過程を経て変化してきたかを、率直に話させます。最後に真相がすべて明らかになってから、長老は集まった人すべてに酒を飲むよう求めます。これで、問題は過去のこと、本当に過去のことになるのです。これが「Sbalay(和解)」です。(続く)

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◆解説◆

蘭嶼とは台湾本島の南東の海上にある、面積約48平方キロメートルの島。ヤミ族(タオ族)と呼ばれる台湾原住民族の居住地。台湾電力は1982年、同島に低レベル核廃棄物貯蔵施設を設けた。96年には高レベル核廃棄物を持ち込んだとの疑惑も出た。

同件が明るみに出てからは、抗議運動が続いている。特に、96年からは抗議運動は激しくなった。運動は現在も続いている。政府は放射性廃棄物を島外に撤去すると約束したが、代替地の確保ができず、実行されていない。

桜美林大学の中生勝美教授は2012年、蘭嶼島を調査した結果、島内の一部で放射線量が比較的高い地点があることを確認したと発表した。中生教授は、島では過去に津波に襲われた可能性を示す痕跡も見つかったとして「津波で放射性物質が海に流出する恐れもある」と述べた。

蔡英文総統が党首(主席)を務める民進党は、原発反対の立場だ。台湾では1960年代、経済の高度成長が始まった(64年のGDP伸び率は前年比13.5%)。国民党による、いわゆる「開発独裁」の成果だったと言える。

しかし同時に、環境問題をはじめとする社会の歪みも発生。1986年結党の民進党は、国民党の独裁に反対する人が結集した性質があり、環境問題でも国民党に反対する社会運動家も多く参加した。その関係で、現在も民進党関係者および支持者は、環境保護に強い意欲を持つ場合が多い。(8月4日寄稿)

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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