<コラム>台湾・蔡英文総統の「先住民族に対する謝罪」全文(第1回)―400年にわたり迫害してきたと明言

如月隼人    2016年8月3日(水) 18時10分

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蔡総統の先住民族に対する「謝罪文」は、蔡英文・民進党政権が目指す「多様な存在が共存する台湾」、「中国とは異なる固有の存在である台湾」を理解するための鍵のひとつと言ってよい。そこで、全文を日本語訳してご紹介する。写真は台湾総統府公式サイトより。

台湾の蔡英文総統は1日、台北市内の総統府で先住民族に対する「謝罪式」を行った。明朝末期ごろから大陸から台湾に移り住んだ華人(漢民族)は台湾先住民族を圧迫し、固有の権利を奪ったとの自らの歴史観と信念にもとづいたものであることは明らかだが、総統就任直後の5月中に、謝罪を行うと発表し、先住民族の日に定められた8月1日に式典を行ったことからは、新たな政権担当者としての強い意志を感じることができる。

すなわち、同儀式の政治面における目的は、台湾人意識の強化と中国大陸側との違いの鮮明化だ。蔡総統の「謝罪」に、国民党は反発。2日午前10時現在(日本時間)、中国政府は特に反応を示していないが、中国メディアの環球時報は、台湾で「政治的茶番」の声が出ているとして、間接的に批判した。

蔡総統の先住民族に対する「謝罪文」は、蔡英文・民進党政権が目指す「多様な存在が共存する台湾」、「中国とは異なる固有の存在である台湾」を理解するための鍵のひとつと言ってよい。そこで、全文を日本語訳してご紹介する。長文になるので、複数回にわたって掲載する。以下は、その第1回。

なお、台湾では「先住民族」を「原住民族」と呼んでいる。中国語の「先住」は、「先に住んでいたが、今は存在しない」とのニュアンスが出てしまうからだ。以下の訳文では、「原住」の表記を用いた。

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22年前の今日、私たちは憲法は追加補正条文の「山胞(山地同胞)」の正式呼称を「原住民」としました。この正式名称は、長期にわたり用いられてきた差別的呼称を除去し、さらに台湾の「もともとの主人」である原住民族の地位を、さらにはっきりと示すものでした。

この基盤の上に立ち、私たちは本日、さらに1歩、踏み出します。私は政府を代表し、原住民族全体に対し、われわれの心の底からのお詫びを申し上げます。過去400年来、皆様が受けてきた苦痛と不公平な待遇に対して、私は政府を代表して、ひとりひとりにお詫びいたします。

今になって、私たちがこうして生活しているのに、お詫びは必要ないと思う人もいるでしょう。しかしこのことこそが、私が政府を代表してお詫びせねばならない、最も重要な原因なのです。

「過去のさまざまな差別視は当然のことだった」、あるいは「過去の自分が所属する以外のエスニック・グループ(民族、部族)の苦痛は、人類の発展の必然の結果」――これら(の考えが存在すること)が、私が今日ここで、変化させ転換させたいと意図する、第1番目の観念です。

簡単な言い方で、なぜ、原住民族にお詫びせねばならないかを説明しましょう。台湾というこの土地は、400年前にすでに住んでいた人がいました。これらの人々はもともと自らの生活を営み、自らの言語、文化、習俗、生活領域を持っていました。そして、彼らの同意なくして、この土地に別のエスニック・グループがやってきたのです。

歴史の経緯を見れば、後から来た人々が、最初にいたグループの人たちから、すべてを奪ったのです。彼らを自分の最も親しんだ土地で流浪させ、土地を失わせ、異邦人にして、非主流・辺縁にしたのです。

1つのエスニック・グループの成功は、他のその他のエスニック・グループの苦難の上に打ち立てられる場合が多いでしょう。しかし、私たちが自らを公正で正義ある国家と言うのなら、過去の歴史を正視して、真相を話さねばなりません。そして最も重要なことは、政府は必ずや、この過去の歴史を心から反省せねばなりません。それが、私が今日、ここに立っている理由なのです。

「台湾通史」と題する本があります。その序言には冒頭部分で「台湾にはもともと歴史がなかった。オランダ人が開拓し、鄭氏(鄭成功)が築き、清代に営まれるようになった」と言及しています。これは、典型的な漢人史観です。原住民族は数千年前からこの土地で、豊富な文化と知恵を育み、代々伝えてきたのです。しなしながら、私たちは勢力の強いエスニック・グループの視座から、歴史を書いてきました。だから私は政府を代表して、原住民族にお詫びするのです。

オランダと鄭成功政権は(平野部に住んでいた原住民族である)平埔族を虐殺し、経済面で搾取しました。清代には大規模な流血衝突と鎮圧がありました。日本統治時代には理蕃政策(武力制圧と威嚇で帰順させ、帰順した部族は優遇)が続き、戦後の中華民国政府は「山地の平地化政策(山間部に多い原住民族に対して、固有言語を放棄させるなどを含め、平地と同様の『中国化』を強要)」を施行しました。

400年にわたり、歴代台湾政権はいずれも、武力制圧や土地略奪を通じて、原住民族の既存の権利をはなはだしく侵害してきたのです。だから私は政府を代表して、先住民族にお詫びするのです。

原住民族は伝統的習慣により部族間の秩序を維持し、さらに伝統的な知恵により自然とのバランスを維持していました。しかし現代的な国家が体制を構築する過程で、原住民族は自らの問題を自ら決定したり、自治をする権利を失いました。伝統的な社会組織は崩壊し、民族という集団の権利も認められなくなりました。だから私は政府を代表して、原住民族にお詫びするのです。

原住民族はもともと、自らの母語を持っていたのですが、日本統治時代には同化と皇民化政策に遭遇し、1945年以降には、政府が民族の言語を禁止しました。その結果、原住民族の言語は深刻な消失に遭遇しました。

平埔族の言語はすでに、ほとんど消え去ってしまいました。歴代政府は原住民族の伝統文化を保護することに積極的ではありませんでした。だから私は政府を代表して、原住民族にお詫びするのです。(続く)(8月2日寄稿)

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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