<コラム>中国政権に改めて異変の兆候=全国規模の水害対策でも習近平主席の存在感、李克強首相の影薄く

如月隼人    2016年7月31日(日) 11時30分

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中国では民政分野の問題が発生すれば首相が前面に出て指導する方式が定着していたが、今回の全国規模の水害では習近平主席の存在感が目立つ状態が続いている。資料写真。

中国では6月末から7月中旬にかけては湖北、湖南、江西など南部各省で、7月下旬には河北省など北部各省で水害被害が相次いでいる。中国では民政分野の問題が発生すれば首相が前面に出て指導する方式が定着していたが、今回の全国規模の水害では習近平主席の存在感が目立つ状態が続いている。

中国の国家主席は英語では「president」と訳されていることでもわかるように、国家元首であり政権の最高指導者だ。さらに国家主席は共産党トップの総書記と中央軍事委員会主席とを兼任することになっており、軍事・武力部門と政権党においても最高指導者という、極めて強い権限を持っている。

一方の首相は「行政組織の責任者」の位置づけで、国家主席と比べて地位はかなり低い。しかし江沢民政権下の1998年から03年まで在任した朱鎔基首相の時代に、経済や民政分野の具体的問題に対しては、首相が前面に立って指導し、国家主席は首相を「立てる」方式が定着した。

次の胡錦濤政権でも同様で、経済や民政、さらに四川大地震(08年)や高速鉄道事故(11年)の際にも、現地に飛んで陣頭指揮をする温家宝首相の姿がクローズアップされた。

習近平政権でも当初は同様で、特に経済問題については李首相の活躍が目立った。しかし16年春ごろからは、習近平主席の経済問題についての発言が目立つようになった。そのため、習主席と李首相の「対立説」が出た。個人的な思想の違いや確執が原因ではなく、習主席が抱える共産党内の経済担当部門と李首相の手足である国務院(中国中央政府)の経済官僚の意見が対立し、“親分”同士の関係が難しくなったとの見方だ。

中国共産党中央も国務院も北京市中心の故宮博物院の西側にある「中南海」と呼ばれる敷地内にあるが、共産党中央の建物は中南海の南寄り、国務院は北寄りなので、両者が対立しているとして「南北院戦争」などの言い方も出たほどだ。

経済政策について、李克強首相と国務院の官僚は内需拡大を重視し、そのための規制緩和を加速しようとしている。いわゆる「リコノミクス」だ。

共産党の経済専門家は、李克強首相が通貨供給量を増やしたことなどを厳しく批判。5月9日には共産党機関紙の人民日報が、「リコノミクス」を事実上、厳しく批判する論説を掲載した。

6月末からの全国的な洪水・土砂災害多発については、人民日報が7月24日付で、「1カ月に3度語った。習近平はこのように言った」と題する記事を掲載。一連の被害に対して、習近平主席自らが、関係者を叱咤激励して対策を指導している状況を強調した。

中国で洪水対策は通常「抗洪」と呼ばれる。インターネット検索大手のグーグル(中国語版)で日本時間24日午後7時、「李克強 抗洪」の2語でニュース検索してみたところ、ヒットした記事は9万6000本だった。一方、「習近平 抗洪」で検索するとヒットは16万1000本。洪水対策でも習近平主席の存在感が極めて強く、李克強首相は“影が薄い”という異常な状態が続いている。(7月31日寄稿)

■筆者プロフィール:如月 隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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